【Chapter/14 第十七独立機動艦隊結成】その1
日差しは今日も強かった。あれから三日経つ。あの後、ダブリス級は来るはずの援軍にわざわざ航路を変えてもらい、こちらでのんびりくつろいでいる。足を損傷した船は海に浮かんでいるしかないのだ。
敵の来る気配もない。
先の戦いで結構な痛手を被ったらしい。なんせ、アテナ一機を失ってしまったのだから。しかも、鹵獲とくる。
「そろそろだな」
ヘーデは艦橋のイスにもたれながら言った。禁煙をしていたヘーデだが遂に禁断症状が現れてきている。目の下にはクマができていた。
「そろそろって?」
サユリは聞いた。
「援軍がこのポイントに来る時間だ……ところでタバコを返してくれないか?」
「だーめ!」
サユリがそう言うとヘーデは無言でモニターを見つめた。
「それにしても援軍がたったの一隻だなんて。司令部はなにを考えているのやら……」
「でも、新型艦らしいですよ、リョウさん」
「どんなに高性能か見てみたいですね……」
リョウは深くため息をした。
「ん〜これにしますっ!」
「ざんねーん」
ナギサが引いたカードはジョーカーだった。現在、ショウとナギサはショウの部屋でトランプをやっている。ここ三日間、クルーたちは暇を持て余していた。この二人も例外ではない。
「じゃあ、どれを引くか選んでください!」
「二つに一つか……これだ!」
「しゅん……負けました」
ナギサの右手からジョーカーのカードが落ちた。
海上にぷかぷかと浮いているダブリス級はまるで風呂に浮いているアヒルのおもちゃのように揺れている。つまり船内はかなり揺れているということだ。シュウスケは医務室で三日間、食べては吐き食べては吐きを繰り返している。死には至らないらしいが、見ていると気の毒に思えてしかたがない。
「シュウスケ先輩、大丈夫でしょうか?」
「死にはしないさ。あいつにはいい毒だよ」
「そう……ですよね」
シュウスケはサユリの目を盗んでは『Hな本』を見ていたのだ。無論、サユリには見つかり現在、焼却処分中だ。シュウスケが隠した場所はベットの下という定番中の定番の場所。
そりゃ、見つかるのも当然……か。それも一種の天罰だ。
「現在、援軍の船とドッキング中だって」
ショウは携帯の端末を見てそう言った。
「どんな船なんでしょうね」
「ま、新型だし。カッコいいんじゃないの?」
その時、ショウとナギサに呼び出しがかかった。どうやら《向こうの船》のクルーたちと対面するらしい。ショウは不安になる。
かたっくるしい軍人集団みたいなのはカンベンな……。
ショウはああいうあつくっるしい人たちが大の苦手だ。過去のトラウマで熱血教師にマラソン(ショウの苦手な種目)を特訓(強制的に)されたことがあるからだ。あの後、骨折して二週間後のマラソン大会に出られなかった。ある種の悲劇だ。
「さ、行きましょう」
「う、うん」
ショウがそう言うと二人は艦橋に向かった。
「こんにちは。あなたがショウ君?」
「は、はぁ……」
ショウはこの雰囲気に慣れてはいなかった。向こうの艦の艦長とオペレータ二人と艦長の三人がダブリス級の艦橋に来たのだが……全員女性だ。
無論、ショウにとっては嫌ではない。その事をシュウスケに言うと十中八九、喜び天に上がるであろう。しかし、オペレータのうちの一人は艦橋の中を走り回っている。見たところショウの一つか二つ下らへんだろう。髪は赤色でショートカットだ。ところどころに寝癖がある。
「私は『ヴァルキリー級』の艦長、ミウ・エレクトよ。よろしく」
ミウはニッコリ、ショウに笑いかけた。彼女の長い水色の毛はまるで水晶のように透けており、背も高い。その緑色の瞳はショウを優しく見つめる。
しかし、ショウの視線の先は走り回っている少女に向いていた。
「あなたの活躍は司令部から聞いているわ。だって、一度に二体のアテナを相手して、そのうち一体を鹵獲したんだから!」
「い、いえ……ナギサのおかげです。別に俺はなにも……」
ショウはそう言うとナギサの方を向いた。
「私だってそんなに活躍してませんし……」
「そんなこと無いって!」
「先輩の方が活躍してますって!」
「そうかな?」
「そうです!」
その時、ナギサの後ろになにかが現れた。それはさっきまで走り回っていた少女だ。少女はナギサに抱きつき頬ずりをする。
「二ヤァ!」
「なんですか! この子!」
ナギサはいきなりの出来事に驚いている。
「ごめんなさい……私の妹が迷惑かけてしまって。私はヴァルキリー級のオペレーターのアリューン・コムです。こちらは私の妹のエミルです」
さっきまでミウの後ろにいた少女がナギサに話しかけてきた。少女はショウと同じぐらいの背でその赤毛で長い髪は首元でくくっている。
「この子、可愛い子を見つけるとすぐに抱きつくんですよー」
「は、はぁ」
「二ヤァ! 二ヤァ! かわゆいよー」
アリューンは無理やりナギサからエミルを引き剥がした。
「そういうことで今日はここで歓迎パーティーをやるのでみんな楽しめ。以上」
ヘーデはそれだけ言うと自分の部屋に戻った。
「え、歓迎パーティー?」
「そうよ。みんなでパァーッとやっちゃいましょーよ!」
ショウの呟きが聞こえたミウはそう叫んだ。