【Chapter/12 二人……独り……孤独?】その2
ソウスケは悩んでいた。それもそのはず、最近仕事が多くて疲れている。それに加え《お子様》のお世話など……過重労働もいいところだ。
「あんたがこの艦の艦長かい?」
ソウスケが廊下で天井をボーっと見つめていたところに来たのはクロノだった。
「あ、はい。あの時はすみません、アスナが失礼な事言ってしまって」
「いいや、いいんだ。それより一緒に食事でも行かないか? 話したいことがあるし……昨日の女にはフラれた。彼氏がいたらしいしな。まったく、女の尻はどうしてこう……軽いんだろうな」
「は、はぁ。とりあえず元気出してください」
「大丈夫、こんなこと日常茶飯事だから。じゃ、行こうか」
クロノがそう言うと二人は食堂に向かった。
「ここのカレーはおいしいな。向こうのとは大違いだよ」
クロノの前にはプレートに乗せられたカレーがある。確かにここのカレーは人気だ。それも全部、食堂のおばちゃんの腕のおかげだ。
「で、話したいことって?」
ソウスケは聞いた。ソウスケの前には水だけだ。
「あ、そうだな。いや、アスナちゃんのことなんだが。アスナちゃんどうやら君のことが好きなようだよ」
「へ?」
「あ〜だから、アスナちゃんは君のことが好きなんだよ。見てりゃ分かるさ。表はあんな扱いだけどそれは照れ隠し、実は好きで好きでたまらないってことさ」
ソウスケは少し、どきっとした。まぁ、薄々は分かっていたけれども実際に人から言われるとびっくりもする。あのアスナが自分の事を好きだと思っているのか? だとすると気まずい。
とりあえず嘘であってほしい。
今、告白されてもオッケーはできない。仕事が大変でかまってやれないからだ。つまり、忙しいという理由で断らなければならない。
これは気まずい。実に……。
ソウスケはふと自分の腕時計を見た。
「その……もうすぐ作戦開始時間じゃないんですか?」
「あ、もうこんな時間か! わりぃ、戻らなきゃ!」
クロノはそう言うと自分の艦に戻っていった。
間に合っているかなぁ……。
二隻のサヴァイヴ級は作戦中は切り離されるのだ。もう少しで作戦開始だ。クロノが置かれている状況は分かるだろう。
ソウスケはその急いでいるクロノの姿を見つめていた。
「コンディションレッド発令、コンディションレッド発令!」
ダブリス級の艦内にサユリの声が響き渡る。それと同時に爆音が響き渡る。
「状況は?」
ヘーデは聞いた。
「現在右舷において青いアテナと交戦中です。どうやら敵は光化学迷彩……いいえ、それよりもずっと高性能なものを使ってレーダーを掻い潜ったようですね」
「聞いたか! 右舷に弾幕を張れ! 敵をこれ以上寄せ付けるな!」
しかし、敵は三時の方向に二隻のサヴァイヴ級、そして反対方向からはイフリートとハルバート級二隻が挟み撃ちをかけてきた。現在、オリンストは使えない。この状況を打破する方法はあるのだろうか?
この場合、流麗のダブリスを使うほかに手はない。
しかし、コアとなる少女に対する負荷が大きすぎる。前回、発動したときも少女の体はかなり傷ついていた。ヘーデは気が重かった。
「Aフィールド展開! 時間を稼げ!」
ダブリス級を緑色の半透明の球体が覆う。しかし、敵の攻撃は続く。このままだと沈んでしまう。ヘーデはそう確信した。
やはり、使うしかないのか……。
しかし、希望はあるかもしれない。いや、無い。
ショウは森から戻ってくると海の遠くでダブリス級が敵と交戦しているところを見た。ナギサもそれを見つめている。見たところ劣勢のようだ。右舷からは煙を出している。
「ショウ先輩……」
「行こう。このままだと……」
「嫌です……あなたとなんか戦いたくありません」
ナギサはそう叫んだ。それを聞いたショウは少しの間、黙り込む。そして口を開いた。
「俺は今まで人を簡単に殺せる冷酷で残忍で好戦的で自分勝手な自分に悩まされてきた。だけど、分かったんだ。簡単に殺せる冷酷で残忍で好戦的で自分勝手な自分も自分なんだって……。それが怖かったのは自分自身がそれを拒絶していたからなんだ。誰だって大きな力を手に入れた時は狂ってしまう。
それなんだ! オリンストやナギサのせいでも無い。自分自身なんだ。ありのままの自分を受け入れるしかないんだ! 多分、オリンストは自分の中のそんな性格を表に出させてしまう作用があるだけなのかもしれない。だったら……俺はそんな性格を拒絶しない! 絶対に。
だからナギサも俺を受け入れて欲しい。でないとみんなが死んでしまうから。大切なものを失ってしまうから! こんなちっぽけな嫌悪でみんなが死んでしまうんだよ!
俺の事が嫌いならそれでいい。だけど、今だけは受け入れて欲しい。俺は守りたいんだ! シュウスケやサユリ、ミナトにヘーデさん……みんなを守りたい! 兄貴が俺を命と引き換えに俺を守ったのも多分俺を守りたいからじゃないのかな? 理屈なんて無い。ただ守りたいだけなんだ。今の俺もそうだ。
だから……付き合ってくれ!」
ショウはそう言うと手をナギサの前に出した。ショウの瞳はナギサが初めて会ったときよりも成長している。そうナギサには見えた。
「分かりました……行きましょう。私もみんなを守りたい! 理屈なんか無い。ただ守りたい! だから……戦いましょう!」
そして、二人の手は重なった。そして、ショウは叫ぶ。
「こい! 白銀のオリンストォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
【次回予告】
少年は答えを見つけた。
少女は受け入れた。
二人は決意した。
戦うと……。
次回【Chapter/13 ソラを翔ける少年と少女】