【Chapter/11 消失と絆】その2
「くそっ! どこだ!」
ショウが瞬きをしたときにはクシャトリアの姿は消えていた。どこにもクシャトリアの姿は見えない。
しかし、オリンストの右側から放たれた黒いなにかはオリンストの左脇に突き刺さる。激しい痛みがショウを襲う。
「海から抜け出さないと!」
オリンストは海面から空中に上がる。しかし、そこにはイフリートが待ち構えていた。イフリートは右手の刀を振りかざしオリンストの右胸部を切り裂く。直後、背後から黒いなにかが オリンストの肩をかすめる。
オリンストは圧倒的に不利だ。二対一では分が悪すぎる。
しばらくすると姿を現したクシャトリアがオリンストに蹴りを入れる。間一髪それを避けたオリンストはクシャトリアに向かい近距離でホーミングレーザーを撃った。ホーミングレーザーはクシャトリアに向かい糸を引くように追尾するがクシャトリアはそれを華麗に避ける。
刹那、イフリートの鋼色が振りかざされオリンストの足元を切り裂く。深くはないものの、その痛みはショウにとってはかなりのものだ。
「このままでは……」
その時、一筋のミサイルがダブリス級に当たり爆発する。そこはメインエンジンであった。必死に弾幕を張るがそのミサイル群のうちの幾つかはダブリス級に当たる。
オリンストはダブリス級に向かおうとするがクシャトリアの黒いなにかがオリンストの首を絞めて動けない。
「ラグナ・ブレード!」
オリンストはラグナブレードで黒いなにかとクシャトリア本体を繋ぐワイヤーらしきものを断ち切る。そして再びダブリス級の方に向かう。
「また、ミサイルかよ!」
オリンストの目の前にミサイル群が現れる。オリンストは胸部の粒子砲で殆どを焼き、溶かすが幾つかはまだ健在だ。それをオリンストは生身で受け止めた。
ショウの体が焼けるように熱くなるがそんなこと気にしていない。
「母さん!」
ショウの見た先にはガラス越しに立っているカリダの姿があった。その顔は昔のように優しい。
俺は守っているのか? 人を。大切な人を。
しかし、イフリートがオリンストを押し倒し、艦体に叩きつける。必死に抵抗するオリンストだが、イフリートは隠し腕でオリンストの体を掴み両手の刀でオリンストを切り裂こうとした。
「これでも!」
オリンストの胸部が開きそこから多数のホーミングレーザーがイフリートに襲い掛かる。ホーミングレーザーはイフリートの各部に当たり体を吹っ飛ばす。
「またやった! なんで私を殺そうとしないのよ!」
また少女の声が聞こえた。
「俺は誰も殺したくなんかないんだよ!」
「なめないで! あんた、私たち殺し合いをしているのよ!」
「……いや、できるなら殺したくないんだ!」
「もういい! これ以上、私の中に入ってこないでぇぇぇぇぇぇぇ!」
イフリートの下半身から多数のミサイルがオリンストを襲う。そのミサイルはダブリス級の船体にも当たる。被弾した箇所はカリダのいる場所だ。
ショウはギョッとした目でその方向を見た。そこにはカリダの姿は無かった。しかし、その付近には人一人分ぐらいの鮮血の血がそこらかしこに飛び散っている。
嘘……だろ?
呆然とするショウに構わずイフリートはオリンストの首を掴み、海中に引きずり込む。必死に抵抗するオリンストだがイフリートの隠し腕のせいで身動きが取れない。その時、イフリートの胸部が光りだした。
粒子砲を撃つ気だ。
放たれた粒子砲はオリンストの全身を焼く。第二射の粒子砲でオリンストの装甲は完全に溶けている。もう一発喰らえばショウは死ぬであろう。
そして、イフリートの胸部が三度目の粒子砲を撃とうと光りだした。
こんなところで死ぬのか?
結局、俺は誰も守れなかった。兄貴も、母さんも。
よく考えれば不思議なものだ。
兄貴が身代わりにならなければ俺の人生は終わっていた。あの時に俺の人生は終わるべきだったのかもしれない。代わりに兄貴がオリンストに乗っていればこんなにナギサも苦しまずに済んだのかもしれない……。
ナギサ……?
そうだ、ここにはまだナギサがいるんだ。自分ひとりの問題ではない。
こんなところで終わってたまるか!
でも、どうしょうも無い。この状況は変わらない。
絶望的だ。
こんな時、どうすればいいの?
兄貴……?
母さん……?
分からない? 俺もそうだ。ならここで静かに息を引き取れと?
そんなの嫌だ。いや、俺は死んでもいい。だが、ここにはナギサがいるんだ! 傷ついたままの少女がいるんだ!
嫌嫌嫌嫌嫌!
こんなところで死んで…………………たまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!
刹那、オリンストの体全体が光に包まれた。その光はなにひとつ不純物の無い煌々と光る白銀の色だ。光はその戦場を優しく包み込む。
海水はオリンストの周りだけ、上に噴出す。そして現れたのは……。
白銀のオリンスト。
オリンストは空高く舞い上がると胸部を開き粒子砲を放つ。それはいつもの五倍以上の大きさでハルバート級一隻を軽々と飲み込むほどの大きさだった。
そして円形状にその粒子砲を動かす。そのうち二隻のハルバート級は間一髪避けるものの他の六隻はその存在が無かったのかのように消滅した。そこには破片一つも無い。海水は蒸発し半径一キロメートルに巨大なクレーターが発生したほどだ。
その中心にはダブリス級が海水の無くなった海の真ん中にいる。
これは……?
ショウはその光景に唖然とする。
その時、ショウの目の前が大きな光に包まれる。