【Chapter/11 消失と絆】その1
ソウスケの部屋ではクラウドを中心にデジタルで作戦会議がおこなわれていた。この艦隊の隊長はクラウド。副隊長はソウスケの艦と同じサヴァイヴ級の艦長、ジグナム・サルマンという軍人だ。その他に七隻のハルバート級の艦長たちがいる。
「この作戦は二隻のサヴァイヴ級と八隻のハルバート級、それに二体のアテナによる作戦だ。
蒼穹のクシャトリアはジグナム中尉の艦に、紅蓮のイフリートはソウスケ中尉の艦にある。いずれも整備は済んでいる。敵だが……前回のデブリ帯での戦闘において目標は人型に変形することが分かっている。おそらく目標もアテナだと思われる。作戦はハルバート級が全方向から攻撃を仕掛け、上空からのサヴァイヴ級の砲撃によって目標を火達磨にする。灰色のアテナが出現した場合、二機のアテナでそいつを引きつける。以上だ」
クラウドはそう言い終ると敬礼をした。ソウスケも敬礼をする。
これで目標は墜ちるだろう。
そうすればアスナはもう戦わずに済む。そして、戦争が終われば……彼女も普通の女子高生として友達と話したり恋をしたり、普通の生活を送ることができるだろう。
それまでは僕がアスナを守らなきゃいけない。
絶対に!
「今回で終わりにしてやる」
ソウスケの瞳のには堅い決意が宿っていた。
「敵は何隻だ?」
「海面では八隻、上空に二隻います。どうやら敵もここでケリをつけたいようですね……」
リョウは言った。ダブリス級の艦橋ではアラート音が鳴っておりうるさい。しかし、そこには緊張感もあった。
「敵は多分、魚雷を多数装備しているわ。それに対してこちらは海面の敵に対してはなんにも無いわ。元々、この艦は重力圏での戦闘は予期していなかったんだもの」
サユリは困った顔でヘーデに言った。
「オリンストは出られるか?」
「分からないわ……ショウが戦うかどうか」
「出られます!」
サユリの振り向いた先にはショウとナギサがいた。
「ショウ!」
「大丈夫です! いけます!」
「死ぬなよ……」
ヘーデは呟く。
「ナギサ! 手を……」
しかし、ナギサの手は動こうとしない。
「ここで戦わないとみんな死んじゃうんだよ!」
そう言うとショウは無理やりナギサの手を握り叫んだ。
「こい! 白銀のオリンスト!」
ソウスケはアスナを見送りに行っていた。
「死ぬなよ……」
「大丈夫! 灰色のアテナの首を持って帰ってやるから!」
アスナはニッコリとソウスケに笑いかけた。その瞳は「安心してね」と言っている。
「灰色のアテナなんてどうでもいいさ。第一に生きて帰れよ」
「分かってる。私もこの歳で死にたくなんかないもん」
「本当に生きて帰れよ!」
「しつこい! あんたはネガティブなのよ、考え方が」
そう言うとアスナはイフリートのコックピットに入る。
オリンストは全方位から迫りくるハルバート級を見つめていた。
「ナギサ……お前が俺と戦いたくないのは百も承知だ。だから、なにもしなくていい。俺が一人で敵と戦う」
「……」
しかし、ナギサは黙ったままだ。
「敵? この前の赤いヤツか!」
オリンストの上空にはイフリートがいた。その瞳の奥にある殺意は健在だ。太陽の光をバックにしている為、眩しくて視点がずれたりぼやけたりする。
イフリートはフルスロットルでオリンストに向かい、その両手の刀でオリンストに切りかかる。オリンストはAフィールドで防ぎ体勢を立て直そうとする。しかし、イフリートの下半身から二本の腕が現れオリンストの足を押さえる。
「隠し腕よ! こんなのもあるのよ!」
少女の声がショウの頭に聞こえる。まただ……。
「こんなもので!」
オリンストの両腕から光の剣が現れイフリートに切りかかる。それをイフリートは両腕の刀で防ぐ。
その時、後ろに《なにか》の気配を感じた。それはダブリス級の真下だ。
オリンストはイフリートの隠し腕を振りほどくと、その気配のする方に向かった。そこはちょうど水中だ。
水中に入ったオリンスト。水中は移動が難しく中々、前に進めない。刹那、背後に気配を感じる。高速で進むその物体はオリンストの肩をかすめる。
一瞬見えたそれは黒色の先の尖ったもののように見えた。どうやらワイヤーみたいなもので繋がれているらしい。
オリンストは後ろを振り向くがそこにはなにもない。
刹那、また黒色のなにかがオリンストの頭部をかすめる。それは一瞬の事であったが、それをオリンストは逃さず後ろを振り向いた。
しかし、そこにはなにもない。
まさか……消える敵?
ショウの予感は的中した。一瞬、歪んで見えた場所から徐々に敵の姿が見えてきた。青色のボディーに戦闘機の羽のような腕。長細い足、姿勢制御にでも使うのだろうか? その姿は海の狩人だ。
そう、これはアテナなのだ。
―――蒼穹のクシャトリア―――