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【Chapter/10 Don,t cry】 その2

 今、サヴァイヴ級を中心とする編隊は目標の進行ルートに沿って航行している。そして、ここはサヴァイヴ級の艦内の廊下。朝早いので誰もいない。彼らを除いては……。


「ねぇ……クロノ。こんなところでいいの?」

「いいさ……まだ朝早いんだから。それに君を見ていると我慢できなくなってしまうんだよ」

「私もよ」

「ありがとう」


 そう男がそう言うと女と唇を熱く重ねた。

 男は二十代前半ほどで銀髪。鋭い目で背丈も高い。男のその瞳を見つめた女は甘い瞳で見つめ返す。そして、再び唇を重ねあう。

 女はここの艦のクルーらしく、スタイルの良い体はセクシーだ。

 男は手を女の腰に回すと耳元でそっと呟いた。


「今夜、俺の部屋で……」


 その時だった。


「あー変態がいる! ソウスケ! ソウスケ!」


 二人の間の甘くも情熱的で欲情的な雰囲気ムードを見事にぶち壊したのはアスナだった。アスナは走ってソウスケのいる部屋に向かうと、ソウスケを叩き起こしこちらまで連れてくる。


「んん……なんだ?」


 ソウスケの目の前は寝起き時に発生する《ぼやけ》でよく見えない。男女はポカーンと目を点にしてこちらを見ていた。


「ん〜アスナ……ここのどこに変態がいるんだ? みんなズボン履いてパンツ履いてるだろ。それとも何? 変態が追いかけてくるような夢でも見たのかい?」

「そんなんじゃなくて! この人たちが廊下で『ぶっっっちゅゅゅゅゅーーー』ってキスしてたんだもん!」


 アスナが言った言葉に男はピクリと眉を動かしアスナに近づいてきた。


「なによ!」

「まぁまぁ、お譲ちゃん。こいつは一種の男女間による愛情表現スキンシップの一例だ。男と女は互いに惹きつけあうのさ。磁石のようにね。それに抵抗しようとも結果的に俺たちの唇は我慢できずに……なるのさ」

「キモ……。そんなことあるわけ無いじゃない! それにあんたナンパしてたんでしょ!」

「ご名答。彼女の瞳がダイヤモンドみたいに綺麗だったからさ」

「うげぇ……吐き気がするわ!」

「まぁ、いずれ分る時がくるさ。男と女のことが」

「そーいうことだ」


 ソウスケはそう言うと暴れるアスナを取り押さえた。アスナは歯をギシギシと噛み合わせ男を睨みつけている。


「どうもすみません……こいつは男女の『だ』の字も知らない純度百%の乙女なんですよ」

「いやいや、彼女の瞳も綺麗だったよ」

「は、はぁ……」

「あんたに言われても、ぜーんぜっん嬉しくなんかないわよ!」

「そうかい。では、また会う日まで……」


 そう言うと男は女の方を向き肩に手をかけた。そして男は聞いた。


「あ、そういえば君の名前は?」

「私はアスナ・マリよ! 紅蓮のイフリートのパイロット! んで、こいつがソウスケ・クサカよ!」

「俺はクロノ・アージュだよ。よろし……」

「誰もあんたの名前なんか聞いてないもんねー」

「若いねぇ」

「うぐぅ……なめんなぁぁぁぁぁ!」


 怒り狂うアスナを片手で抑えるソウスケの姿を見てクロノは「フフ……」と微笑む。


「さーて、じゃあ俺は行ってくる!」

「どこに?」


 女はクロノの言うことを不思議そうに聞く。


「実は俺、『蒼穹のクシャトリア』のパイロットなんだぜ!」


 クロノは得意げに言った。




 ショウは部屋で一人、アスカの写真を見ていた。天井を見るがそこには切れかけの蛍光灯しかない。無機質な空間。

 ショウは廊下に出てみることにした。喉が渇いているのだ。自販機の前に立つがなにを飲もうか迷ってしまう。ショウは優柔不断だ。


「サイダーかな……」


 そう言うとショウは出てきたサイダーの入っている缶を右手で取り、栓を開けてゴクゴクと一気に飲み干した。悩んでいるときの炭酸飲料は何故かおいしく感じられる。

 やっぱり自分は最低な人間なのだろう。女の子にリストカットをさせるまで傷つけた自分。正直、死んだ方がマシだ。

 しかし今、自分が死ねばオリンストは戦えないようになる。それダブリス級にとってはかなりの痛手だろう。そして、みんな死んでしまう。自分の都合なんてどうでもいい。死んでもいいさ。

 だから、自分はボロボロになりながらも戦ってやる!

 細かいことは気にしない。自分は死んでいるんだ。だから、どれだけ傷ついても大丈夫なんだ。きっと……。

 死んでもいい。ただ今がその時ではない。もっと後だ。


 だから今は……戦う!




 ナギサは蒼い海を見つめていた。時々、吹く風は涼しいというよりかは寒い。どこまでも続く蒼色の海を見ていると改めて自分はちっぽけな存在なんだなと思う。

 あの時、私。死んでた方が良かったのかな……?

 ふと、そんな考えがナギサの頭を過ぎる。だけど、自分が死ぬとどうなるのかと考えてみると死ねない。死んじゃいけない。

 生き地獄とはこんな事なのかもしれない。


「……苦しい」


 ナギサは急に息苦しくなった。目の前も歪んで見える。

どうしたんだろう、私?

やがて、それもマシになりナギサはうつむいている顔を上げそっと海を見た。本当になにもない海……。その景色は傷ついたナギサを包み込んでくれるように蒼かった。


 泣いちゃダメよ……強くならないと。


 蒼い海はそう優しくナギサに呟いた。

【次回予告】

 死すべき人間は一人だ。

 そうだ。

 そうなのか?

 決めたはずの決意はこんなに簡単に崩れるものなのか?

 答えは……イエスだ。

 次回【Chapter/11 消失なくしたものえたもの

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