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【Chapter/9 狂い出す自分】その2

「それで……ここはもうすぐ攻撃を受けると?」


 ヘーデはコップに入っている紅茶を一気に飲むとドンメルの方を見た。ここはレジスタンスの基地の作戦会議室だ。簡易レーダーとホワイトボード、大きなテーブルがある。


「二日前、ここの基地は偵察に見つかった。もうすぐここを攻撃してくるだろう……だが、安心してくれ。こちらもダブリス級の補修を急ピッチで始めている。あいつらが来るときには最高のコンディションで見送ってやる」


 ドンメルは得意げにそう言った。


「すまないな」


 しかし、無常にもそのすぐ後に敵は来た。ダブリス級の補修もままならないまま……。敵はハルバート級五隻の編隊だ。




 ショウは帰ってすぐ後に警報音が鳴ったのを聞いた。敵は予想よりも早く襲来してきたようだ。もう敵は空に見えている。

 迷っていた、ショウは。

 戦うべきか。

 このまま戦わず、逃げて普通の生活を送ることのか。

 この前は戦いたいと思っていた自分……しかし、今は違う。

 勿論、守るべきものもあるはずだ。しかし、それ以上に怖かったのだ。オリンストに乗っている自分が。人を殺している自分が。

 ショウは一人ダブリス級の廊下で座り込み泣いていた。ひしひしと。

 耐えてきたはずだ。自分は最初から嫌だったのだ、オリンストに乗ることが。そして怖かった。だけど、それを必死に我慢して目的の無い戦いで精神をすり減らしていたのだ。

 ショウにとって《戦い》とは無意味なものでしかなかった。

 よく考えて見ると何故、今まで自分は戦ってきたのかと自分自身に問いかけてみたくなる。

 そのせいで今の自分が狂い始めているというのに。


「ショウ先輩!」


 ナギサが走ってきた。その息は荒い。


「敵が来ています! さぁ!」


 しかし、ショウはナギサの手を払いのけた。戦いたくないのだ。


「なにを……」

「俺は戦いたくなんか無いんだ。俺は無意味に戦ってきた! だから戦わなくてもいいんだ!

 もう俺は十分苦しんだ。どうなってもいいさ! みんな!」


「それはエゴです!」

「ああ、いいさ! もう苦しみたくないんだ!」

「そんな……」

「じゃあ、なんだ? 俺が戦って戦って苦しむことに対しての見返りはなんだ? 教えろよ! 無いんだろ!」

「それでも……戦ってください!」

「なんにも言えないようだな……結局は可愛い子ぶってるだけでなんにもできないんだよ! そんな奴に俺の気持ちは分かるのかよ! 分かるか! 分からないだろう?」

「……あなたは死んだ方がマシです!」

「なにでかい口叩いてんだよ! お前は兵器だろ? オリンストなんだろ? だったらオリンストは俺のものなんだよ! 俺のものの癖して……生意気なんだよ! くそう!」

「私はオリンストじゃありません!」

「なんだよ! じゃあ、見返りはなんだよ!」

「……」

「じゃあ、この戦いが終わったら《昨日の続き》をさせろ……」


 ショウがそう言った途端、二人の間にしばらくの沈黙が訪れた。


「…………分かりました。戦ってくれるんですよね?」

「……」


 ショウは無言でうなずく。


 こんな奴に汚されるのは嫌だ。だけど今、ショウが戦わないとみんな死んじゃう。ヘーデもリョウもミナトもサユリもシュウスケも……みんな。ナギサはそう思った。たとえ自分の体がどう汚されようともみんなが死ぬのは嫌だったのだ。


 ナギサは手を伸ばした。再び。


「白銀のオリンスト……」

 ショウは呟いた。




 オリンストが現れた途端、五隻のハルバート級は後退し逃げようとした。それを逃がしはしないと、オリンストはラグナブレードを出し一隻のハルバート級の船体を真っ二つに切り裂く。

 残った四隻のハルバート級もミサイルを撃ってくるがオリンストはそれをAフィールドで防ぐとラグナブレードを横に大きく一振りをした。


「大した武装も無いくせに……ウザいんだよ!」


 オリンストの近くにいたハルバート級二隻は衝撃波になす術も無く、船体から火を噴き爆発。乗員の命は散る。


「これで……終わりだ!」


 オリンストの胸部から放つ粒子砲に二隻のハルバート級は内部から膨張をし風船が割れるように爆発した。


「はぁはぁはぁ……」


 敵は全て倒した。そして全員殺した。はずだ。

 自分はすでに狂いだしているのかもしれない。ショウはハルバート級の残骸を見ながらそう思った。




 ショウはオリンストを降りるとうつむいてなにも話さないナギサに構わず、レジスタンスの基地があったところに向かった。ここは確か先のハルバート級による空爆により壊滅状態にある。

 大きな瓦礫、小さなガラスの破片。それを見たショウは《あの時》を思い出す。あの時もそうだった。人が死んでいた、たくさん。

 それなのに自分は気づいていなかった。でも、今は違う。ここにはたくさんのレジスタンスの人たちの亡骸がある。中には状態が綺麗なものがあったが、ほとんどは腕が千切れていたり、背中が変な形に曲がっていたり普通の亡骸ではなかった。

 ショウは大きな瓦礫の隙間に倒れている人影を見つけた。

 それは六歳ぐらいの少年だ。まだ生きているかもしれない。少年を抱きかかえたショウ。しかし、少年の心臓は止まったままだ。


「へ……」


 次の瞬間、ショウは驚愕した。少年の頭と体を繋ぐ首からは肉がはみ出しており、今にもちぎれそうだった。そして、少年の頭は体から離れてコンコンと音を立て瓦礫の山に落ちてい

く。ほんの一瞬の間の出来事だった。


「畜生……畜生……畜生!」


 ショウは乾いたような声でそう呟き続けた。

 やっぱり、自分は狂ってきているんだ。だから……。

 自分が「戦いたくない」なんて言ってもたもたしていなければ少年の顔にはまだ笑顔があったのだろう。なにもかも自分が《狂い》なんかに負けていなければ無かったことだ。


 バカだ……バカなんだ!


 ナギサとオリンストに乗る前にしたやり取り。あの時の自分は今見ても傑作だ。「じゃあ、この戦いが終わったら《昨日の続き》をさせろ」だって? 普通、これは自分が言うようなことじゃない。これを言ったのは自分じゃない。そうだ、だけど。


 俺でもある。


 この違和感はなんだ?

 だけど戦う意味もなく戦ってきた自分が原因なのは確かだ。自分は戦いたいとか戦いたくないとか言って……どうしたいんだ?

 その優柔不断さが結果的にナギサを傷つけた。そして、自分も狂わせた。


 どうすればいい?

 どうすればいい? どうすればいい?

 どうすればいい? どうすればいい? どうすればいい?


 今のショウは狂ってもいて、迷走してもいて……要するに苦しんでいるのだ。

 しかし、ショウのいる瓦礫の山にはその問いに答えてくれる者はいない。

【次回予告】

 少年は迷っていた。

 少女は苦しんでいた。

 二人の運命は大きく変わろうとしていた。

 その運命の行く先にはなにがあるのだろう。

 次回【Chapter/10 Don,t cry】

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