【Chapter/9 狂い出す自分】その1
そこはまるで地球にいるような気分にさせるジャングルであった。ここは天王星でも有数の熱帯雨林だ。そのジャングルに緑色の布を被り偽装しているダブリス級がある。
天王星自体は諸国連合の敵ではあるが、そこまで敵対もしていない。しかし、レジスタンスに対しては厳しく、ここでは満足に活動できない状況でもある。そこで諸国連合軍はそこのレジスタンスと《業務提携》している。つまり、味方になってくれているということだ。
サユリとリョウと何名かのオペレーター、そして艦長のヘーデは熱帯雨林の中を数台の車で走っている。ここの気候はかなり暑く、湿っぽい。緑も鬱陶しいほど多く、青臭い。そのおかげで、レジスタンスの基地を隠すにはもってこいの場所……というわけだ。
「ねぇ、まだ?」
額に汗を滲ませているサユリの疲労は限界だ。ダブリス級からの距離は長くはないが、この暑さのせいでいつもより時間を長く感じる。
「もう少しだ。ここを抜ければ……」
ちょうど木々が少なくなってきた辺りから人の声がしてきた。
そして、見えてきたのは灰色の鉄の色をした半径五百メートルもの大きなレジスタンスの基地だった。そこには女子供もたくさんいる。
外部から来る人間が珍しいのか、子供たちは「ワーワー」と騒いでいたり走り回っていたりしている。
ここのリーダーらしき中年の色黒の男性がヘーデに挨拶をした。男の声はとても乾いている。
「こちらはレジスタンス『リガ・ウルフ』のリーダー、ドンメル・アッカドだ。よろしくヘーデ・グラムス」
「よろしく……」
「さぁさぁ、中に入ってください。紅茶も用意していますよ」
「……ここはレジスタンス喫茶か?」
「そんなことは無い。ただ、昔から客人は丁重にもてなせと言われてきたものですので」
「じゃあ、いただこうか……」
そう言うとヘーデは基地の方に向かった。
ショウはシュウスケとサユリで近くの街に買出しに行くことにした。ヘーデからは「たまには休息も必要だろう。遊んでこい」と言われている。ただ、今のショウは到底休息などできる心理状態ではなかった。
車の運転手の運転は荒くそれに密林の獣道が合わさって、車の乗り心地はそこはかとなく最悪。シュウスケは酔いに弱いのかげっそりと死んだ魚の目でショウを見つめている。
「ああ……三途の川が見える。助けてくりぃ!」
シュウスケは口から朝に食べたものを地面に荒々しく吐き落とした。
「大丈夫?」
「ショウ、助けてくれ! 俺の目の前に死んだリナが手を振って……サユリぃ!」
「わっ臭ッ!」
サユリは鼻をつまみショウを軽蔑の目で見る。
「ま、そういうことだ」
ショウはそう言うと久々に見る青い空を見上げた。だがそこは見たことも無い蒼い空。海王星とは違う空だった。
さすがに大都会とは言いがたいがこんな密林地帯の近くにビルが何十軒も建っているなどショウには到底考えられなかった。ここは天王星の南部にある都市『ペグリー』だ。所々にある出店。変な宗教団体。
ある意味、海王星とは違った雰囲気をかもし出している。
ショウは一人、街をうろついていた。そんなショウの前に数人の白装束姿の男たちが現れた。皆、やせ細っていて不健康そうだ。
「あなたはマナを信じますか?」
一人の男は力の無い声でショウに話しかけてきた。
「い、いえ……」
不気味そうに答えるショウ。男たちは更にショウに迫ってきた。
「あなたはマナを信じていない。マナは全ての原理を壊すもの……我々はそれを神と崇めている。さぁ、あなたも信じなさい」
一人の男はショウの右腕を力強く引張ってくる。
「あなたはマナを……ぐっ!」
その時、一人の男の体は誰かに蹴られて吹っ飛んだ。その弱々しい体は中々、起き上がれなさそうだ。
「お前は誰だ!」
「僕は……中枢帝国の軍人、ソウスケ・クサカだよ。信条の自由……たしかこの国にはこのような法律があったよね。これ以上、変な真似をすると中枢帝国憲法の『刑法第三章第七項目のB―13』に基づき処罰の対象となるケド」
中枢帝国の軍人と名乗るその男は見たところ二十代前半に見える。目鼻立ちはしっかりしているが、そこに少し頼りなさが見え隠れするような幼さもまたあった。
それを聞いた男たちは早足で去っていった。
「大丈夫?」
「ええ、、まぁ……」
ショウは頭を抱え答えた。
「この辺はこんな奴らがたくさんいるから気をつけてね」
「あの〜中枢帝国の方がなんでここに?」
「ん〜休暇かな?」
そう言うとソウスケはショウの目の前から去っていった。前にもどこかで会った気がする。どこかで……。