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【Chapter/8 命散って】その3

「はぁ〜あ、こんなところで寝ていたのか。俺って……」


 シュウスケは自動販売機の前のベンチの上で横たわって眠っていた。目が覚めてみれば朝の十時だ。そして目の前にはミナトがいる。


「……廊下で寝ていたからこっちまで引きずってきたわ」

「ありがとな」

「……どう致しまして」


 そうシュウスケは言うと自動販売機に向かってオレンジジュースを買いミナトに渡した。不思議そうにオレンジジュースの缶を見つめるミナト。


「ほら、お駄賃!」

「……サイダーの方がいい」


 目が点になったシュウスケだが、もう一度自動販売機に向かってサイダーを買いミナトに渡す。


「……ありがと」


 そう言うとミナトはサイダーの缶を開け、ゴクゴクと飲み始めた。


「……旨」


 それだけ言うとミナトは去っていった。彼女は実に不思議な子だ。




 ソウスケはアスナに駆け寄った。吐いた血で真っ赤に染まっているアスナのパイロットスーツ。山場は乗り越えたらしく医師たちも一安心している。

 しかし、血の量は多く医務室全体に鉄分の匂いが充満している。


「スガモさん! アスナは!」

「大丈夫だよ。まだ目は覚めていないようだけど。どうやらなんらかのストレスや恐怖によるものだと思うよ」


 白衣を着て長身で色白な男性。彼はサヴァイヴ級の軍医、スガモ・ジョジアだ。金髪のオールバックはとても医者には見えない風貌だが腕は一流だと聞く。


「よかった……」


 ソウスケは胸を撫で下ろすが、スガモの表情は硬くなった。


「ソウスケ君、聞いてくれるかな?」

「はい、なんでしょうか?」

「侵食現象について知っているかな?」

「なんですか、侵食現象って?」

「なんでかは知らないんだけどアテナと呼ばれる兵器に乗ると遺伝子の一部が、そのアテナの構成原子の形に変わっていしまうんだ。勿論、一回や二回で健康に支障が出るってことは無いけれど、それが何回も続くと徐々に体の遺伝子がそのアテナの構成原子に対応しきれなくなって遺伝子の崩壊が始まっていくんだよ」

「どうなるんで……すか?」

「最終的にはイフリートと同化してしまって完全に消滅してしまう。死に至るまでの経緯はざっとこんな感じだけど……」

「それを止めることは!」

「できないよ。もしあるならば僕に教えてくれ。あんな普通の女の子が傷つくところなんて見たくないから……さ」


 ソウスケはアスナに近づきその瞳を見つめた。それにはまだ輝きがある。

 哀しき運命を背負った少女の瞳だ。




 しばらくした後、アスナは目を覚ました。服も血まみれのものから真っ白のシャツに変わっている。目は虚ろだが確かに開いていた。


「アスナ!」


 ソウスケは一日中アスナの傍にいたのかしていたのか、目には疲れが映っている。しかしアスナが目を覚ましたときは、それ感じさせないぐらいの笑顔で叫んだ。


「ソウス……ケ? なんであんたがいるのよ」

「大丈夫か? 痛いところはない?」

「あ……うん、ないわ」

「ほら水だよ」


 ソウスケはコップに入った水を渡す。


「……牛乳がいい」

「わかった! ちょっと待ってて!」

「ねぇ、あんた気持ち悪い」

「なんで?」

「親切すぎるのよ! 嫌なら嫌でちゃんと断りなさいよ! こっちだってこんなに親切にされたら……困るの!」

「病み上がりの可愛いお嬢さんの言うことを聞かないのは男じゃないだろ?」

「うぐぅ……」


 アスナは顔を赤面にしてしまい、それを隠すように顔をソウスケから背けた。それが分かったソウスケは微笑んだ。

 自分にできることはなにか?

 ソウスケはその笑顔の裏でそれを必死に考えていた。



 ヘーデは艦内放送を通じて今後の航路について詳しく皆に説明をしていた。その声は少しこわばっている。


「これより当艦は天王星のレジスタンス基地に身を隠すこととする。なお、当艦の被害は甚大で左舷の火器とエンジンがまったく機能しない。よってこのような決断をした! 繰り返す……」


 それを聞いたショウは目が覚め、それに耳を傾けた。

「……」


 無言でショウはベットから降り、一人展望デッキに向かった。展望デッキのガラスの向こうには真っ黒なソラの中にキラキラと星々が輝いている。ショウの右手にはアスカの写真があった。

 ショウが小学四年生の時に『劇場版ゴウガンナー』を見に行った時の写真だ。肩を組み合った二人の顔に不幸の文字は一つも無い。

 もし、あの時アスカが死んでなかったらどうしていただろう?

 こんなつまらない事で悩んでいなかったのだろうか?


 わからない……。


「ショウ先輩?」


 ショウの後ろにはナギサが立っていた。


「ごめん、あんなことして。嫌だったろ?」

「いえ……私こそ」

「なにも変わらなかった」


 ショウは言った。


「へ……?」

「俺はオリンストに乗ってなにも変わらなかった……。結局俺はただの高校一年生だったって事だよ」

「……」

「……」


 その時の二人は黙り込んで視線を逸らしていた。まるで相手がわけのわからない生物だと認識しているように。

 ショウはガラスの向こうを見た。ガラスの向こうの眼下に見えたのは天王星だ。

【次回予告】

 狂いだした自分。

 少年の心の歯車はちゃんとかみ合わずバラバラになっていた。

 少年の迷いは新たなる悲劇を呼ぶ。

 次回【Chapter/9 狂い出す自分】

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