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【Chapter/8 命散って】その1

「くそっ! もうやめろ!」


 オリンストの光の剣とイフリートの刀が、ぶつかり合う度に辺りは光に包まれる。


「あんたなんかに……あんたなんかに!」


 イフリートは下半身のバーニアを吹かしオリンストの攻撃を避け、回転しオリンストに向かって刀を振りかざす。

 刀はオリンストの胸部を切り裂くがオリンストは動じず、イフリートの細い腰を右足で蹴り飛ばした。体勢を崩したイフリートに向けオリンストは近距離でホーミングレーザーを放つ。

 それはイフリートの全身に当たるが大したダメージではない。


「もしこれが粒子砲だったら……私はとっくに死んでたって言いたいんでしょ!」

「違う! 俺は」

「何が違うの! あんたは私を殺すことができないの? それなら私があんたの首を引きちぎってやるんだから!」


 イフリートは両手を伸ばしオリンストの首根っこを掴み、その両手に力を入れた。


「大丈夫ですか、先輩!」

「い……きが」


 ショウは息をしようとも、なにかが気道で引っかかり息ができない。と同時に、締めつけられるような痛さにも襲われた。

 ショウの中にある《死への恐怖》が動き出してくる。


「……兄貴?」


 消えゆく意識の中、ショウは兄の姿を見た。


 死んだのか?


 しかしその瞬間、ショウの意識はまた別の所にいった。

 そこには草原に立っている二人の少女。一人はナギサだと分かった。もう一人は……黒髪をなびかせナギサと反対の方向を見て微笑んでいる。その顔には目隠しがされており、はっきりと分からなかった。

 ショウの意識は戻った。目の前には狂気じみた眼光でオリンストの首を絞めているイフリートの姿がある。

その時、ショウの頭に一つの言葉が浮かんだ。


『ラグナ・ブレード』剣だ。


 そしてショウは叫んだ。


「ラグナ・ブレード!」


 その時、オリンストの右手が光に包まれた。その光は次第に大剣のシルエットを映し出してくる。大きさはオリンストの全長の二倍ほどだ。その姿は第二始人類の頃の中世に出てくる日本刀の刃の如く銀色の輝きを放っていた。


「こいよ! 俺を倒したいんだろ!」


 好戦的な性格になったショウの眼は赤く染まっている。


「こいつ……ナメてるの? だったらぁ!」


 イフリートは大きく刀を振りかざすが、それをオリンストは姿勢を低くしてかわす。そして、大剣を大きく振りその反動でイフリートの体ごと吹き飛ばした。


「ウザいんだ……よ」


 イフリートはなす術も無く戦艦の残骸に体を打ちつける。オリンストに大きな隙が見られるがそれをイフリートは無視し逃げ去ろうと、バーニアを吹かしオリンストから距離をとっていく。


「散々、でかい口叩きやがって! 結局は逃げんのか!」


 オリンストは大剣を大きく縦に振りかざした。それが衝撃波となってイフリートに襲い掛かる。イフリートの下半身のバーニアの半分はその衝撃波で爆発し、オフラインになった。


「嘘……こんな奴に」

「死にな……」


 《速さ》を失ったイフリートは易々とオリンストに追いつかれる。


「裂けろ!」

「いや! 死にたくない! まだ……まだ。死ねないの! イヤイヤイヤイヤイヤイヤ嫌ヤァァァァァァァァァァァァァ!」


 そして、その大剣がイフリートに襲い掛かろうとしていたその時。

 ショウの頭の中に少女の泣き喚く声が延々と聞こえる。それは死ぬことを拒絶しようと声を枯らせながら天に祈る。


 無駄なことだ。




 ショウの心になにかが響いた。恐怖という不協和音が。

 自分は人を殺そうとしている。

 敵だからいいのか?

 自分を殺そうとしているからいいのか?

 自分が死ぬから殺してもいいのか?

 死ぬのが怖いから戦う……そして人を殺す。

 今までこうしてきた。親も殺した。

 でも、それが本当に正しいのか?

 答えはイエスでもノーでもない。

 これは数学や世界史のように明確な答えの無い問題用紙だ。それが今、自分の前に置かれている。


[問1]

 あなたの戦う理由はなんですか?三十文字以内で説明しなさい。


 ただ、自分の解答用紙は白紙だ。

 思い浮かぶのは『母親を守るため』だとか『ダブリス級にいる友人を守る』という陳腐なものだ。しかし、それは不正解だ。

 今までは答えのある問題だけを解いてきた。Xやα、Φそして解が出る。第七次星間戦争。フレミングの法則。

 その全てを知っていたとしてもこの問題は解けない。

 兄貴だったらこの問題は解けているだろうか?


 多分、解けているだろう。多分……。




 イフリートの頭でその白い鋼色は止まった。

 微かな衝撃波の余韻を残し、その鋭い眼光の奥に明確な迷いが奇怪な声を上げて踊っている。


「生きてる……」


 少女はそれだけ言うとオリンストから残ったバーニアを精一杯吹き、オリンストから距離をとり逃げていった。


「……怖いよ」


 今まで黙り込んでいたナギサが急に声を出した。その声は恐怖と悲しみで枯れている。ショウは黙ってソラを見上げた。

 ソラにはいつものように星々が輝いていた。ソラは皮肉が上手いらしい。


「帰りましょう……」


 ナギサも聞こえていたのだ。あの少女の声が。オリンストはナギサ自身だ。だから敵を倒すときの感触も直に伝わってくる。そして、人が死んでゆく時の恐怖に満ちた声も。

 ナギサもショウと同じ悲しみを抱いていたのだ。

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