【Chapter/7 デブリ帯の死闘】その3
一方、ダブリス級は一時の方向と七時の方向から敵艦に挟み撃ちにされていた。しかし、退路はある。
隣のレウス級は火を噴いて、デブリ帯に沈んでいく。
幸いショウの母はダブリス級にいて無事ではあるが……。
「左舷の火器、完全にオフライン!」
リョウの言葉にヘーデは息を呑む。こちらは味方艦一隻が撃墜。左舷の火器は完全にオフライン。しかし、敵は前方、後方合わせて健在。
依然、状況は最悪だ。
「くそ……どうすれば」
「お父さん! いい考えがあるんだけど……」
サユリは少し不安そうに言った。しかし、顔には自信が垣間見れる。
「ねぇ、こっちには全機能をオフラインにしたレウス級一隻がくっついてるんでしょう? ならそれを《オトリ》にしてはどうかな……」
「そんな無茶な……」
リョウが呆れ言った。
「確かに無茶かもしれん……しかし、やってみる価値はある」
「そんな……」
「今はそれしか方法が無い! この艦は船体を下げてデブリ帯の瓦礫で偽装しながらこの宙域を突破。スモッグを射出! レウス級のメインコンピュータは全てオンライン。敵に気づかせない為にもできる限りこの艦の機能をオフラインにしておけ! 航行システムだけで十分だ!」
「無茶だとは思いますが……分かりました。レウス級の切り離しまで後5……4……3……2……1……切り離します!」
その瞬間、ダブリス級の航行システム以外の機器の電源が全てオフラインにされた。照明が消され、艦橋を闇が包み込む。
「スモッグ射出! 船体を下げろ!」
ダブリス級の周りから紫色の煙が出てきた。スモッグだ。
「進路良し! そのまま船体を下げてデブリ帯を脱出する!」
そして、ダブリス級は静かに敵艦隊の前から姿を消した。
ソウスケの顔は強張っていた。これで二回目の対艦戦。しかし、今回のフィールドはやや特殊だ。
ソウスケは静かにモニターを見てクラウドの指示を待っていた。砲撃開始から約五分、そろそろ敵も沈む気配を見せてきた頃だ。
イフリートもオリンスト相手に善戦しているらしい。まぁ、アスナ曰くではあるが……。
その時、ダブリス級の船体から紫色のスモッグが放たれた。スモッグはダブリス級の船体を覆い隠す。
「砲撃中止! このまま様子を見る!」
たとえスモッグを使ったとしてもそう遠くにはいけまい。しかし、ダブリス級は動こうとしない。
しかし、その熱源は先のダブリス級より一回り小さい。機能のほとんどがオフラインになったということか? だとすれば、もうすぐダブリス級は沈む。
いや、これは……レウス級だ!
「クラウド艦長、これは罠です! 今すぐ砲撃準備を解き、目標の追跡を開始してください! あれはレウス級です!」
ソウスケは急いでクラウドに回線を開き叫んだ。
「なんでだ? 今ある反応は……」
「あれは前の戦闘で航行不能になったレウス級です! おそらく目標は航行システム以外を全てオフラインにしています」
ソウスケはふと見たモニターの一部分を見てそれを確信した。それは、微かだが囮のレウス級の少し下にある熱源だ。
「よし、分かった。全艦、砲撃準備を止め直ちにポイント13―Z―チャーリーにある微かな熱源を追え! あれが目標だ! 繰り返す……」
クラウドの号令にソウスケは嬉しさで少し笑うが、すぐに顔を上げ号令をかけた。
「ポイント13―Z―チャーリーに向かえ! 敵はすぐそこにいる!」
どうやら最後の手も敵に看破されたらしい。
敵艦の七隻がこちらに向かっている。そのうち一隻は新型艦だ。もうすぐで敵の射程範囲に入る。
「リョウ……ミナトの状態は?」
「あれを使うのですか?」
「今、我々が……いや、この艦を沈めさせないためにも使う」
「分かりました。ミナトの状態は現在、ダブリスとシンクロ可能な状態にあります。侵食現象進行率、やや高めです」
リョウはそう言うとヘーデの方を向き真剣な目で見つめた。
「流麗のダブリスを発動させる! システムオールグリーン。艦内はこれより無重力状態になる。総員、近くの掴まれる物に掴まれ!」
その瞬間、艦内の重力はなくなる。
ダブリス級の右舷と左舷は割れ、その先端から巨大な手が現れる。船尾の方も鈍い金属音とともに二つに割れ、強靭な足へと変わる。
艦橋は中に収納され船体の先端は一八〇度回転しそこから大きな頭が現れた。単眼の緑色に輝くそのフェイス。
敵艦隊の目の前に現れたのは水色のボディーに緑色のラインが引かれた巨人だった。その豪腕に強靭な足。その姿は昔、第二始文明が栄えていた頃の神話に出てきた単眼の巨人を彷彿とさせる。
戦艦が人型の巨人に変形した? 皆、目の前で起こったことを現実に受け止められていなかった。特に敵側は。
そう、これはアテナだったのだ。その名は……
―――流麗のダブリス―――
【次回予告】
遂に発動した流麗のダブリス。
そして、ソラに命が散る。
しかし、その散った命でさえ……
宇宙にはなにも影響はしなかった。
なにひとつ。
次回【Chapter/8 命散って】