【Chapter/After 道標】
第八次星間戦争……いつしかそう呼ばれるようになった戦争は、人々に深い傷を負わせたことだろう。
エルヴィス財団は解体されて、代表者は全員自殺。完全に無くなったとは言えないが、ある程度マナの信仰は治まったようだ。中枢帝国と諸国連合は一時的ながら、同盟を結び共に戦った。それが引き金となったかは知らないが、二つの勢力の対立は停戦協定を結んだことで沈静化。
人々は再び訪れた平和に歓喜したことだろう。
世界樹は地球にて諸国連合と中枢帝国の両勢力によって、管理されており再暴走の危険性は無いようだと言われている。そして……。
「この世界は……いかに醜いものか。前大戦で我々は痛いほど痛感いたしました」
中枢帝国首都バルセラム。第八次星間戦争終結記念公園の追悼者慰霊碑の前で演説をしている男がいた。緑の生い茂る公園に、溢れんばかりの民衆が集まっていた。
「前大戦から十ヶ月という月日が経ちました。この街も徐々に活気を取り戻してきました……人々の笑顔も少しずつではありますが、増えてきました」
その男はまだ若かった。二十代前半であろうか。
「ですが、私たちは決して忘れてはいけません! この戦争を……。人々はまだまだ不完全な生き物です。醜い戦いをしては互いを傷つける。そして、滅ぼしあう。だからこそ、私たちは学び続けなければいけません! 互いを傷つけることが如何に無駄なことかということを!」
そう言うと男は前に出た体を戻した。
「これで終わります。世界がいつまでも平和であらんことを願って……」
「ソウスケ・クサカ上院議員の演説を終わります」
民衆の歓声で司会の者の声は聞こえていなかったようだ。
「あ、最後に……これは個人的な話なのですが……」
ソウスケは最後に付け足した。
「私のことを慕っていてくれた一人の少女がいました。ですが、彼女もこの戦争によって殺されました。そう、この戦争に……。だから、彼女に向かって、この場を借りて言いたいことがあります」
そう言うとソウスケは大きく息を吸った。そして、叫んだ。
「アスナ、僕はここにいるからなッ!」
僕がやるべきこと……それはこの世界を正しいほうへと導くことだ。
君が僕の道標を創ってくれたのだから。
「リョウ艦長、こちらはもうバッチリです。いつでもダブリス級を出せますよ?」
シュウスケは言った。ダブリス級の艦橋。艦長席に座っていたのはリョウだった。
エルヴィスの作り上げた擬似結晶石の技術によって人類は太陽系の外側を航行できるようになった。そう、空気の無い宇宙に……。
「補助用アテナのメンテナンスは大丈夫なのですか?」
「あーっ! すみません! 確認、まだでした!」
「ったく……」
リョウはため息をつく。
ダブリス級はあの戦いの後、改修されていたのだ。そして今日、ダブリス級を中心とする艦隊は太陽系の外へと旅立とうとしていたのだ。そこに何があるかは分からない。乗員は不安と期待を胸に、宇宙を見上げていることだろう。
「お姉ちゃん、準備バッチリ!」
「……そう、じゃあ、行きましょ」
ミナトの反応にムッとするサユリ。だが、これでもマシになった方だとソウスケは言った。
「……ソウスケさんとはどうしたの?」
「ああ、ソウスケさんのことね……。あの人、どうやらまだやるべきことがあるらしいのよ。何か「この世界を変えるんだ!」って言ってさ」
「……中枢帝国議会の上院議員になってるからね」
「むぅ……私と政治……どっちが大事なんだかっ!」
「……でも、毎日電話してるんでしょ?」
「ま、まぁね!」
「……それってわがままよ、サユリ」
「はぁあ……ま、こうやって私も夢に向かっているんだからね! お父さんの意思を継いで……さ」
「……そうね。さ、行きましょ」
そして、ダブリス級は遥か彼方の宇宙を目指して出航した。
私たちという道標とともに……。
地球……そこは風が気持ちよかった。少し遠くに見えた世界樹。そして、蒼い海。砂浜には貝殻が一つ、落ちていた。
「風が気持ち良いよ、ナギサ……」
「はい……そうですね」
ナギサの背中にいる子供は既に寝付いたようだ。何処と無く顔がショウに似ていると、ナギサは言っていた。その時はショウも少し照れたものだ。だが、嬉しかったという感情を持っていたのは、本人も覚えている。
「海……静かだな」
「海はいつも私たちを見てくれています……。だから、静かなのでしょう」
ナギサは微笑んでみせた。
「こうやって……君の暖かみが俺の手を通って伝わってくる。だから、見えなくても分かるんだ。ナギサ、今笑っているでしょ?」
「大正解ですよっ!」
「この子……やっぱりナギサに似ているな」
「むぅ……照れます」
「ナギサは俺に似ているっていたけれど、女の子だろ? 可哀想じゃないか? やっぱり……」
「ショウだって可愛いですよ?」
「なんだか、褒められている気がしないなぁ……」
後ろの方から声が聞こえた。
「おーい、ショウさんにナギサさんーっ! ご飯が出来ましたよーっ!」
アリューンが呼んで来てくれたようだ。その隣にはクロノもいた。奥のほうには海岸に建てたログハウスが見えていた。半年前から四人はここで暮らしているのだ。
「早くしないと、俺たちが全部食ってしまうぞ!」
「そんなこと、したら……ね」
「アリューン……顔が怖いよ」
「そうですかぁ?」
「ああ、十分」
相変わらずな二人に、ショウとナギサは笑ってしまう。
「じゃあ……行きましょうか?」
「そうだな……」
ショウとナギサは寄り添いながら、我が家へと戻っていった。目の見えないショウ……。だが、隣に彼女がいるだけで安心できた。ショウは一歩ずつ、確かな足取り砂浜を踏みしめた。
ようやく分かったよ、俺。ナギサがいなきゃ歩いていけない……。この真っ暗な世界に彼女がいてくれるから、俺は生きている。互いに支えあってるんだと……分かったんだ。
彼女が俺の道標だから……。
―――――おわり―――――
【あとがき】
遂に完結いたしました……宇宙のハザマ! 楽しんでいただけたでしょうか? そうであれば、幸いです……。
《キャラクターについて》
個人的にはこの作品に出てくる登場人物はそれぞれに、確立した信念があると思っています。ショウ・テンナでいえば、ナギサを守ること……。神名翔でいえば、世界を粛正することなど……。
一番好きなキャラはアスナですね! 本当にまっすぐな奴で大好きなんですよ……。最初は私の中では影が薄かったのですが、段々彼女に感情移入するようになったのです。物語の展開上、死んでしまうのは分かっていたのです。まぁ、死んでからもソウスケの気持ちに多大な影響を与えている点では、ショウとアスカの関係に似てますね。
友達はアスカが大好きだと言ってました。たしかにあの人は良い兄貴でした。正直、一話で死なせてよかったのかと思ってしまうほどでした。
あと、気に入っているのは神名翔です。彼の言っていることは、あながち間違っていないっているところが怖いんですよ……。人の醜い部分だけを知ってしまうと、こうなってしまうぞーっていう感じがして。誰でも神名翔になってしまう可能性があるんですよね、本当に。
《ストーリーについて》
企画段階ではアテナはオリンストだけにして、ショウもオリンストに乗り込まずにナギサだけが戦うっていう展開だったんです。そして、最後はショウとナギサ以外の人類が全滅するっていう……。
イデオン的なストーリーだったんです。ただ、これだと悲劇的過ぎるので結果的に、こういうストーリーとなったわけで……。まぁ、オリンスト級という戦艦がオリンストに変形するっていうのは、ダブリス級の設定に引き継がれているんですが……。
《次回作について》
次回も宇宙を舞台としたロボットものをやりたいと思っています。ですが、次回はリアル路線で勝負します。えーっと……とりあえず、友情ものかな? 次回も死力を尽くして頑張りたいと思っていますのでよろしくお願いします!
《最後に》
長い間、本当にありがとうございました。たくさんの読者様には本当に感謝するしかありません……。これからもどんどん、感想を募集しておりますので、気軽に書き込んでくだされば幸いです。
これからも、よろしくお願いします!