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【Chapter/53 終焉の赤い林檎】その3

「ここは……」


 ショウが目覚めた場所は名も無き広大な草原。隣にはナギサがいた。ショウはナギサの震えた手を握り締めて呟いた。


「大丈夫、俺たちは死んでいない……ここは世界樹の中枢コアが造りだした仮想空間だよ、多分」

「何で分かるんですか?」

「何でだろう……だけど、分かるんだ」

「そうです。ここは世界樹の中枢コアです」


 声が聞こえた。透き通ったような清純な声が。


「あなたは?」


 ショウは訊いた。声は女性のものだった。次第に姿が見えたきた。どこかの皇女なのだろうか、真っ白で清潔そうなドレスを身に纏っている。少女は長い黒髪を靡かせ、ショウたちに話しかけてきた。


「私は第一始人類です。名前はユイリス。この世界樹を創った者です。世界樹の中枢コアに封印された魂……とでも言っておきましょうか」

「世界樹を……創ったもの?」


 ナギサは手の震えが収まると、ゆっくりと呟いた。


「はい。私のいた世界ではマナによる争いが続いていました……。そこで私たちの国はマナを司る存在を創りだし、それによってマナの使用を抑制しようと考えたのです。そこで生まれたのが世界樹です。ですが、争いは終わらずマナの抑制効果も虚しく、マナを栄養源にしていた第一始人類はマナの枯渇を理由に滅亡してしまいました……」

「じゃあなんで、今ここに人間がいるんですか?」


 ショウは訊いた。


「人間という存在は一種類ではありません。ごく僅かのマナを栄養源にしていない種族だったのが、今日で言う人間です」


 空は蒼かった。風がゆっくりとショウの体を撫でた。


「もう一つ訊いて良いですか?」

「はい……どうぞ」

「何故、俺たちをここに呼んだのですか? あ……いえ、何か理由があるのかなーって思っただけですから……」

「警告しにきたのです。あなたたちは世界樹を暴走させています。間違った使い方をしているのです。ですから……」

「そうしたのは俺たちじゃない。神名翔という少年がそうさせたんだ!」

「知っています……あの少年のことは」

「俺たちは、その間違った使い方をする奴を倒して、人間……いや、あらゆる物質をマナに還元するという行為を阻止するのが目的だ」


 ショウは前に出て言った。ユイリスは微笑んで言った。


「私はあなたたちを信じることにします……ですから、あなたたちも私を信じてください」

「はい、俺たちはそのつもりです」

「あの少年は闇に喰われてしまっています……おぞましい闇に。もう、戻ることは出来ないでしょう。彼は自分以外の人間を受け入れようとはしていません。誰も信じていないでしょう……」

「……ユイリスさん」

「私のいた世界も、他人を信じずに我だけを信じる者のせいで滅んでしまいました。彼の排他的な思考は破滅しかもたらしません……。私たちのいた世界みたいに、この世界も滅んで欲しくないのです。ですから……」

「俺たちもそのつもりだ」

「やっぱり……あなたはグリッドに似ていますね」

「グリッドって?」

「私の婚約者です……とても勇敢な人でした。彼もまた、あなたと同じようにアテナに乗って戦っていました。ですが、私が世界樹に封印されるようになり、彼とは生き別れのようなものになりました」

「…………」

「長い間、私は世界樹の中で眠っていました。何千年という時間を……でも、まだ私は彼のことを忘れられないのです……」


 ユイリスの瞳から涙が零れ落ちた。


「彼は勇敢な戦士……あなたも勇敢な戦士です」

「いいえ、俺は全然勇敢じゃありませんよ。ただ、彼女がここにいるから俺は無理しちゃうんです」


 ショウはナギサの右手を握った。


「あとで思うんです。あの時は怖かったなぁーって。でも、その時は感じないんです。後になって後悔するっているか……彼女のことになるとついつい、無茶しちゃんですよ、俺って」

「それで十分ですよ、本当に」

「だから、俺は世界を守るためには戦えません。俺はナギサを守るためにあいつを倒して、世界樹の暴走を止める……」

「…………」


 ユイリスは無言で二人に微笑みかける。


「この世界……いえ、彼女を守ってください。あなた方のご無事を祈ります……それしか私には出来ないゆえ……」

「それがあなたのベストなら……。そろそろ行きます。行こう、ナギサ」

「はい。ユイリスさん、さようなら……」


 ショウとナギサは抱き合う。そして、ショウは静かな声でそう呟く。


「こい……新生のオリンスト」

【次回予告】

 そこに君がいるから俺は戦えた。

 世界の行く末とか真剣に考えたことはあまり無い。

 ただ守りたかっただけなんだ、俺は。

 さよなら……ナギサ。

 次回【Chapter/END 宇宙そらを継ぐもの】

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