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【Chapter/6 紅蓮の業火に咲く華】その1

「どうやら、敵は弓矢のような武器を使うようだ……気をつけて」


 ソウスケはサヴァイヴ級の格納庫にいた。近くにはパイロットスーツ姿のアスナがいる。


「なぁに、私の紅蓮のイフリートの前にはそんな《おもちゃ》効かないわ」


 アスナは自信げに言った。

 紅蓮のイフリート。一五十年前に地球圏で発掘された謎の兵器のうちの一つ。俗にいうアテナと呼称されるものだ。

 深紅のボディー、両手にある長刀。足こそないものの、重力圏でも活動は可能でそのスピードも計り知れない……と資料には書かれていた。

 アスナはゴクリと手のひらにある三錠の薬を飲むとイフリートのコックピットに乗り込んだ。


「じゃっ、勝ったら晩飯おごってね!」


 アスナはソウスケにブイサインをした。


「頑張れよ……な」

「言われなくても!」


 アスナはソウスケに微笑んだ。


 普通の女の子なのにどうして戦場なんかに……。


 ソウスケはやりきれない思いを胸に秘めたままアスナの顔を見詰めていた。よく見れば可愛い……普通の女の子。




「……ショウ先輩、すみません。私、ショウ先輩のことなにも知らないで……」


 ナギサとショウはいつもの展望デッキにいた。

ショウは自分の父親を殺したということをナギサに言った。勿論、ナギサも大体は分かっている。自分が人殺しだということを。


「いいんだ……俺の責任だもんな」

「私も先輩のお兄さんやたくさんの人たちを殺してきました……。それなのに私……最悪です」


 確かにそうだ。ナギサはたくさんの人を殺している。その小さな体に罪の十字架を背負って……。その十字架にはたくさんの人の猩猩緋の血で染まっている。

 滴るほどの量の。


「俺は人殺しをしていたということに気づいたんだ……ついさっきまでは気づいていなかった。でも、相手に銃を向けた瞬間に分かったんだ」

「人は直接、人を殺すことが苦手なんですよね……ですから兵器という《目隠し》をして人を殺す。そうすれば人の血も骨も肉も、見なくてすむ」


 ナギサのいっていることは正しい。要はそういうことだろうと、ショウは自分の中で納得した。


 みんな……軍人は気づいていない。自分が人殺しをしている事に……。

 汚い。卑劣だ。臆病だ。


「この宇宙にはたくさんの血が流れています。なのに……なのに、なんでこんなに星が綺麗に輝いているんでしょうか?」

「分からない……分からないから人は争いあうんじゃないかな?」

「哀しいですね」

「人が歩んでいった時代はいつも哀しいものさ」


 ナギサは顔を上げソラを眺めた。

 ソラに浮いている星々は皮肉なまでに輝いている。

 ナギサの瞳は虚ろながらもその血に染まった空をまっすぐに見詰めていた。


 守らなきゃ……この瞳を。


 そんな時、警報音が艦内に流れた。敵だ。




「ヘーデさん、遅れてすみません! 現状は?」


 ショウとナギサは急いで艦橋に向かった為か、息が荒い。

 艦橋内は騒然としている。どうやらオリンストが勝った艦隊は第一波らしい。現在、第二波の攻撃を受けている。


「左舷よりミサイル。さらに四時の方向から粒子砲!」


 リョウが叫んだのをショウは始めて見た。しかし、リョウは次第に落ち着きモニター画面を見詰める。


「Aフィールド展開用意! ミサイルは左舷に弾幕を張り相殺、粒子砲はフルスロットルで避けろ!」


 ヘーデは号令を出すとショウの方に向かっていった。


「オリンストを出してくれ。味方のレウス級を守れ。あそこには君のお母さんが乗っている」

「母さんが!」

「そうだ……技術主任になっておられる」


 母親はダブリス級の隣のレウス級に乗っている。

 母親はショウの憧れだ。父とは違い。人の役にも立っていて……ある意味これが普通なのかもしれないが。


 守ってみせる! 俺はそのために生きているんだから!


「ショウ先輩!」

「分かった! こい! 白銀のオリンスト!」


 俺は人殺しじゃない!

 守る側なんだ!

 絶対!




 ショウはオリンストのコックピットに入った。心なしか、いつもより操縦席が冷たい。

 まぁ、気のせいだと思うのだが……。


「ショウ先輩、敵がきます!」


 ナギサは至って冷静。

 ショウ自体、これに乗るのは三回目なので普通は慣れているはず。

 だが、どうしても慣れられない。この感じ。

 ナギサの手が自分の中に入っている気分が。

 違和感があるというわけではない。ただ、気を使うというか……一体化するということをまだ、受け入れられないのではないだろうか?

 そんなことを考えている間にも敵の四隻のグリムゾン級はミサイルを放ってきた。毎度のことながら、その数は多い。


「Aフィールドは?」

「使えます、先輩!」


 今度はなんとか使えるようだ。やはり、ナギサと話して気分が楽になったからなのだろうか? きっとそうだ。


 オリンストは右手を開くとそこからAフィールドを展開。ミサイルはAフィールドに妨げられ、そこで爆発してしまう。


「先輩、敵が……撤退していきます」

「やけに諦めが早いな……」


 四隻のグリムゾン級は後退していく。


「え……? 前方に高速で接近してくる物体があります!」

「戦艦?」

「いえ……この速さはアテナです!」


 ショウの目の前には《赤いなにか》がある。

 しかし、次に目を開いた瞬間、それはオリンストの目と鼻の先にいた。

 こいつ……速い!

 赤いアテナ?


―――紅蓮のイフリート―――


 紅蓮のボディーに両手の刀。胸部の三つの砲台からは粒子砲と強力なAフィールドを発生させる。足がなく、代わりに十七つものバーニアを備えた下半身。

 その角があり全体を黒い半透明のガラスで覆いかぶせられたフェイス。しかし、確かにその眼光は見えた。


 焔のように燃え上がるようなその眼光。


 その眼光の奥には確かな殺意があった。

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