【Chapter/52 紅蓮の業火を纏う君へ】その3
「マスティマ……これは」
オリンストは落ちていた名刀不知火を持ち上げる。ショウはしばらくすると理解した。キョウジは死んだのだと……。周りにはマナが溢れている。緑色のマナ粒子がオリンストを覆っている。
「キョウジさん……」
ナギサはそっと手を伸ばす。するとオリンストの胸部の中に名刀不知火が、すうっと入っていった。
「あなたのことは忘れません、この名刀不知火、貸してもらいます」
「ナギサ……」
オリンストを包み込んでいたマナ粒子の光が大きくなった気がした。気のせいだろう。
ショウは視界を覆っているマナ粒子を見た。神名翔の言ったとおりに人類がマナ粒子化したらこうなるのだろうか、と思い右手を握り締めた。確かに綺麗な景色だった。だが、そこには喜びも苦しみも無い世界があった。
こんなんじゃいけない……そうだろ、兄貴。
「行くぞ、ナギサ。ここの近くに世界樹内部への入り口があるだろう」
「はい……」
オリンストは機体を覆っているマナ粒子を振り払い、移動を再開した。
「これでも……くらぇぇぇぇぇぇッ!」
イフリートは咆哮。それと同時に渦巻いていた劫火が無数に枝分かれしてリヴェンストの機体を貫く。そして、接近してきた三機のリヴェンストを焔刀で横に両断した。
「アスナ……アスナなのか!」
「ええそうよ、ソウスケ。でも、私は生き返っていない……結晶石が一時的に修復されただけ……だから、すぐに消えちゃうの」
「もう会えないんだな……本当に」
「こうして会えたんだから、泣くんじゃないわよ! ばかソウスケっ!」
イフリートの機体は蒼い焔に変わってゆく……。
「消えろォォォォォォッ!」
イフリートの劫火は巨大な龍となりて、リヴェンストの大群を一掃した。跡形もなくなったイフリートの前方には無限の宇宙が広がっていた。広大な宇宙はこんなにも綺麗だったのかと、ソウスケはそれを見つめていた。イフリートは振り返り、ソウスケの方を見た。
「ソウスケ……これで最後よね。だけど、泣かないんだからっ!」
「色々、アスナと話したいことがたくさんあったよ。だけど、もう駄目なんだよな。分かってる。僕はアスナのおかげで変われた気がする。だから、お礼が言いたかったんだ」
「……なによ」
「ありがとう、アスナ……」
「うるさい!」
顔を真っ赤にして照れているアスナの顔がソウスケの頭に浮かぶ。そして、そういうふうなこと昔あったな、と少し懐かしくなってしまった。
懐かしい……のか?
確かに結晶石に入った魂の影響で一時的にソウスケに前に現れたアスナだが、いずれは消えてしまうのだろう。だが、ソウスケはそれでも良いと思っていた。アスナに言いたいことを言ったからだ。
ありがとう、と一言を。
「マナというものは不思議なものだな……本当に」
「私だって、何故ここにいるか分からないもん。だけど、イフリートの中から見ていたんだから、ソウスケのこと……」
「そうだったのか……」
イフリートはなおも迫ってくる大群を退けながら、ソウスケの方を見つめていた。
「守らなきゃ……ソウスケを!」