【Chapter/51 リバース・オリンスト】その3
突如、出現した所属不明のアテナの大群に同盟軍とエルヴィス軍は混乱していた。第三勢力の介入。それもオリンストと同スペックのアテナが数千機以上いる軍隊だ。オリンストの量産型……成す術も無く撃墜されてゆく、アヌヴィス。そして、同盟軍の戦艦。
「ソウスケさん……」
「サユリ、あとは頼んだ! 僕は指揮を取らなきゃいけない」
「はい……」
「大丈夫、処置は軍医の任せてある、サユリはミナトを励ましてやってくれ!」
「分かりました……やってみます」
ソウスケは返事も聞かず、ダブリス級の艦橋へ戻ってきた。
「艦長、所属不明のアテナから回線が繋がっています」
「回線を開いてくれ、アリューン」
「はい!」
モニターにキョウジの顔が映る。キョウジは落ち着いた様子で言った。
「こちらは黒金のマスティマのパイロット、キョウジ・ムサシ。同盟軍の味方だ」
「エルヴィスのアテナだろ! どうして……」
「私はリューレン・アーガルの弟子で、エルヴィスに潜り込んだスパイだ」
「あんたが……リューレンの送り込んでいたスパイ!? なら、こいつらの所属も分かるんだろ?」
「ああ、これは我々やエルヴィスとは違う……第三勢力だ。しかも、敵は一人だ。一人の少年によって動かされた軍隊」
「どうやって……」
「大群の中心部に存在するアテナがすべて遠隔操作している」
「ワケが分からない……一人の人間がこれほどの軍隊を従えられるだなんて……あんたの言ってることは信じがたいな……」
「ならば、事情はゆっくり話すこととしよう……ただ、やつらの目的を伝えなければいけない……。彼の目的は決して、太陽系の統一ではない。彼の目的は――全人類をマナ粒子化することだ」
「ますます、分からなくなってきた……な」
「詳しいことはこれが終わってからだ! まずは中心部のアテナを破壊しろ! そして、あのアテナを世界樹に近づけさせるな。あのアテナこそが、世界樹の真の鍵、宇宙のハザマだ!」
「要は、あのアテナさえ破壊すれば良いって話なんだろ? 分かった、あんたを信じることにする。ただ、これだけは約束してくれ」
「何だ?」
「僕たちも信じてくれ……」
「最初からそのつもりだ。私は宇宙のハザマに攻撃を仕掛ける。ダブリス級は動かずとも、周辺の戦艦に私の援護を頼んでくれ」
「分かった! 第七艦隊と第十二艦隊は全て、あの黒いアテナの援護に回ってくれ! 第五艦隊は引き続きダブリス級の護衛を!」
「圧倒的じゃないか……僕の軍隊は……」
翔は次々と沈んでゆく戦艦を見て、微笑を浮かべる。ハザマは世界樹へと向かっていっている。現在、撃墜されているリヴェンストは三機のみ。その他は健在だ。すでに敵艦隊の三分の二は行動不可能。
「こいつ……無駄だ」
―――業火のドラグルム―――
ハザマの後方から業火のドラグルムが全身に取り付けられたマシンガンを、乱射してくる。三機のうちすべてがこのアテナにやられた。紅蓮のボディーは既に弾丸の跡で黒く焼け焦げている。砲身も使用不可能になっている箇所が所々ある。
ハザマは背中のビットを展開。後方のドラグラムに向かってオールレンジ攻撃を開始した。無数の蒼の閃光が駆ける。しかし、ドラグラムはなおも健在……しかし。
「甘い……」
ドラグラムの後方に回り込んだビットの閃光がドラグラムの胸部を貫く。体勢を崩したドラグラムの機体に無数の閃光が突き刺さる。そして、ドラグラムは業火を噴出して、黒煙に覆われる。そして、完全に消滅。
「祖なるものに敵うわけがない……これは?」
黒煙に覆われるハザマの前方に高速で接近する物体があった。それは……マスティマだった。そして、マスティマの双剣が鋭く光る。
「黒金のマスティマ……オリンストと同タイプのアテナか」
「チェストォォォォォォッ!」
キョウジの咆哮とともにマスティマの双剣が粒子化し、一本の大剣となる。名刀、不知火の刃は紅銀の光を放っていた。そして、マスティマは重心を一気に下げて、ハザマの脳天に向かって不知火を振りかざす。
それをハザマは右手の平に発生させたAフィールドで受け止め、左手の平から圧縮粒子砲を放つ。それを何とか、不知火で防いだマスティマ。しかし、不知火自体はかなりのダメージを受けている。
「くっ……ッ! 名刀、不知火の刃が悲鳴を上げている……。これが宇宙のハザマの力! だが、しかし!」
「やるねぇ……だけど、僕のハザマに敵うわけないだろ?」
「性能差だけが勝敗を決める絶対条件ではないはずだッ! 轟け不知火!」
マスティマの周囲を紅蓮の焔が包み込む。そして、渦を巻いて広がってゆく。マスティマは不知火をハザマに向けて構える。マスティマの眼光は紅蓮に変わっていた。
灼熱の中、不知火の刃は焔を統べて、何もかもを両断する天上天下天地無双の刃と化していた。
「この不知火……早くお前の体を両断したいと嘆いている!」
「……僕もだよ、さぁ行こうか、ハザマ」
「いざ……ゆかんッ!」