【Chapter/5 冷酷な眼光】その3
ソウスケはサヴァイヴ級を降り、合流したグリムゾン級の船長の艦長室に向かっていた。ちょうど今は海王星圏のコロニー、イリア3の近くの宙域だ。
グリムゾン級の艦長はかなりの硬者だと聞く。ソウスケは緊張している。
「失礼します……」
ソウスケは恐る恐る艦長室のドアを開けた。
「……中枢帝国第三十七艦隊隊長のクラウド・アウラだ。よろしく、クサカ中尉どの」
「は……はぁ」
ソウスケはクラウドと握手をした。それほど怖そうでは無い。
「ちゃーす! 紅蓮のイフリートの専属パイロットになりましたアスナ・マリでーす!」
ノックもせずにアスナは艦長室に入ってきた。
頭痛の種が来た!
「ごらぁぁぁぁぁぁ!」
「ひやん!」
クラウドの怒鳴り声は艦内に響く。
「助けてください! ソウスケ中尉ぃ……」
「お前なぁ! とりあえず出てけ!」
「そんなぁ、昨日の夜の中尉は優しかったのにぃ……(ニヤリ)」
「だから……あの時のどこが優しかったんだよ!」
「かぁっ、私の《初めて》を奪っておきながらぁ!(ニヤリ)」
「僕はお前からなにも奪ってないぞ!」
「……ソウスケ中尉」
艦長室に二人の痴話喧嘩の声が響く。クラウドは大きなため息をし、大きく息を吸い怒鳴った。
「アスナは今すぐここを出てけ! ソウスケ中尉はここに残れ!」
「なんで僕まで!」
「さよならぁ! ソウスケ中尉、部屋で待ってるね!(ニヤ〜リ)」
「待ってるなよ……」
「ソウスケ中尉、静かに! まぁ話は後でするとして」
「はい!」
胃薬飲まなきゃ……。
「本作戦の内容を話す」
やっと、本題に入った。
「今回はイリア3に潜伏中の新型艦、ダブリス級の破壊を目的とする。しかし、目的はもう一つある。先日、伝えたように例の巨人の破壊も作戦の内容に含まれている。よって紅蓮のイフリートの発進許可も出す」
「はい……」
「なら、準備をしろ。もう第一波が交戦中という。今から三十分後、我々も目標と交戦するだろう」
戦いが始まる。ソウスケにとってこれが初陣だ。
ソウスケの手にはびっしょりと汗がついていた。
「ダブリス級は?」
「まだ、格納庫にいます」
ショウとナギサはオリンストに乗り込み辺りを見回していた。遠くには敵の艦隊が見える。グリムゾン級が七隻。
静寂な宇宙。
しかし、それはすぐに破られた。敵艦隊は一斉にミサイルを撃ってくる。それも数十どころではない。数百だ。
「ホーミングレーザーは?」
「一発ならいけます!」
「なら……くらぇぇぇぇぇ!」
オリンストの胸部からホーミングレーザーが放たれた。それに当たったミサイルは次々と爆発する。しかし、幾つかのミサイルはオリンストに当たる。
手でミサイルを受けようとした。しかし、間に合わず胸部にミサイルが当たって爆発する。
ショウは張り裂けるような痛みを胸部に感じた。痛みは直接、操縦者にフィードバックするのだ。
「くっ、敵は?」
煙で覆われた敵の姿。次の瞬間、敵艦隊のうちの一隻がオリンストに向かい特攻してきた。
無人?
Aフィールドも粒子砲も使えない。
なんでだ? やはり心理状態も関係するのか?
オリンストはイリア3の外壁に叩きつけられた。特攻した無人の艦はそのまま自爆。オリンストからまたしても痛みがフィードバックする。
「くそ……ホーミングレーザーも、もう使えそうにないし……」
こんなところで死ぬのか?
答えはノーだ。ノーにしてやる!
「俺はまだ死ねないんだ!」
そのときショウの頭に一つの言葉が浮かんだ。
『グラウディウス・アロー』弓だ。
オリンストは手を前に出し光を放つ。そこから白銀に輝く弓が現れた。
「……」
ショウは無言のまま敵艦隊を見詰める。オリンストは弓の先端に人差し指をあて、そこから徐々に自分の体の方に光の糸を引いていく。
そして、その光の糸は硬化し弓矢と化す。
狙いを定めて……放つ!
弓矢は目に見えぬ速さで敵艦隊のうちの一隻を貫く。そして、爆発。
「次……」
狙いを定めて……放つ! 次に炸裂。そして爆発。
残りの五隻は一斉に粒子砲を撃ってきた。
「……」
真ん中に照準を定める。粒子砲のド真ん中に。しかし、ショウの手は震えてはいない。
狙い、貫き、炸裂。そして、爆発。
どうやら敵もこの力を恐れたのか撤退していく。しかし、ショウは容赦なく敵に向かい矢を放つ。そして、炸裂。
「逃がしはしない……」
「もうやめて!」
意識の中のナギサが叫んだ。ショウの気が散ったのかオリンストの持つ弓は消えていった。
「ごめん……取り乱していた」
どうやらこの弓を使うと操縦者の感情の起伏が抑えられ、冷徹・残忍な思考になってしまうようだ。
ショウは自分が怖くなった。
なんのためらいもなく人を殺す自分に……。
「先輩!」
「……ん? これはダブリス級!」
イリア3の中から黒煙を纏い、三隻のレウス級とダブリス級の船体がオリンストの前に姿を現れた。
【次回予告】
少年は自分の行為に言い訳をする。
あの時は殺ししかなかったんだと……。
しかし、過去は変わらない。
過去を悔やむ少年に紅蓮のイフリートがその姿をあらわす!
次回【Chapter/6 紅蓮の業火に咲く華】