【Chapter/49 サード・ララバイ】その2
「世界樹防衛線、強化されていきます!」
「サユリ、分かった。急げ! 退路はない! エターナリア級とインフィニティッド級と合流後、敵の防衛線を中央突破する!」
ダブリス級は全砲門を開き、一斉砲撃を開始する。ダブリス級の前方のレウス級は敵の砲撃により撃沈。ダブリス級の艦橋を黒煙が覆う。
「ジークフリード……てぇぇぇぇッ!」
諸国連合と中枢帝国の連合軍、序盤は優勢だったものの、やはり戦力差により徐々に押され始めている。味方艦の五分の一は失われていた。それでもなお、前進を続けている。退路はない。
既にダブリス級を中心とする中央突破艦隊は、前も後ろもエルヴィス艦隊に囲まれている。宇宙に轟く無数の閃光。命の華。
「世界樹の前方より、大型の熱源! こ、これは……」
リョウはモニターを見て驚く。見たこともない巨大なエネルギー反応。
「何だ!?」
「分かりません……ですが、これはコロニーレーザーの時と同じ熱源反応です。それも、あの時よりも三倍以上のエネルギーです!」
「Aフィールド展開! 周りの味方艦も覆えッ!」
ダブリス級を中心とする中央突破艦隊の前方は巨大なAフィールドで覆われる。そして、ソウスケは巨大な閃光を見た。世界樹防衛部隊の後方から放たれたレーザーは前方の艦隊を一掃する。中央突破艦隊はAフィールドのおかげで無傷だったものの、範囲に入っていなかった戦艦は、その閃光の中に消えたいった。飛び散る生命の鮮血。慟哭。恐怖。
「これは……死神の光なのか……」
ソウスケは通信の途絶えてゆく味方艦からの通信を、よそに立ち尽くしていた。しばらく、その閃光はソウスケの視界を光に染めていた。
「超高圧粒子砲、発射されました。エリアX―24―2からエリアS―02―9までの敵艦隊を一掃。しかし、一部はAフィールドを展開し……」
ガイア内の艦橋ではオペレーターのフル稼働で情報を整理している。そんな中、中央のアルベガスは肘を付いて、モニターを眺めていた。次々と消えてゆく敵艦。どこかの連鎖ゲームのようだ。
「上出来じゃないか……私の深緑のガイアは」
深緑のガイアは船体の先端部が縦に展開されていた。そこから巨大な閃光が放たれたのだ。
鋭い先端部分を横に分割して、その奥に現れた砲身。冷却中なのだろうか、砲身からは白い水蒸気が噴出している。その白はガイアの船体の緑色をうっすらと濁していった。
「装填まであとどのぐらいだ?」
「はい! 約十二分二十七秒です! その他機器系統に異常は見られません。システムはオールグリーン」
「分かった……敵残存戦力は?」
「まだ、三分の二が残っています……」
「なるほど……さて、次で終わらせるとしようか……」
アルベガスはその隣にいる少女を見て言った。真っ白なロングヘアー。まだ幼さの残る顔立ち。十歳ぐらいであろうか。純白のワンピースを纏い、ただ前を見つめていた。
ガイアとシンクロしている少女。無感情。何もない。空っぽの精神。彼女の体はガイアとシンクロするためだけにある。いわば戦闘マシーン。
紫色にフェードアウトした瞳。両手を前に広げて、少女は無機質に呟く。
「敵艦隊、射程内に進入……これより殲滅を開始する」
ガイアは射程圏内に入ったグリムゾン級二隻を捉え、側面部にあるホーミングレーザ砲を展開して、一斉に発射。ガイアの側面部から放たれた無数の緑色の細長い閃光は、二隻に突貫し船体を貫く。穴だらけになった二隻は爆発もせずに、宇宙空間に浮かぶ屍と化す。
「さすがだな、実戦体X―03とガイアのシンクロ率は……」
実戦体X―03……それが少女の名前。実験体ではなく、実戦体であるだけマシだと人は言う。だが、戦いが終わっても彼女に自由はない。兵器として一生を捧げなければいけないのだ。
だが、少女は何も感じない。無感情に……されたから。農作物のように卵子を遺伝子調整されて、誰のか分からない精子と試験管の中で受精させられた。そこに愛はなかった。無数に生まれた実験体。それも、少女以外、すべて廃棄処分にされた。そして、彼女は実験体から実戦体へと変わったのだ。
「敵、殲滅を確認。待機します」
少女はそう呟くと目を閉じて、何も言わず立ち続けていた。そこに悲しみはない。空虚な空間のみが彼女の中にある。彼女にとって十年は、一日に近いものであったようだ。