【Chapter/49 サード・ララバイ】その1
「スラスター、展開! 最大出力! 避けられるのかよ……」
クシャトリアは急速旋回。蒼のエルフェリードのホーミングレーザーの隙間を抜けるように飛翔。ホーミングレーザーはクシャトリアの速度を捉えきれずに、不規則な軌道を描き次々と爆発していく。
立ち込める黒煙。その中から現れた焔の大剣。クシャトリアの脚部ミサイルポッドを斬る。そして、現れた機体。紅のエルフェリードだ。
「二対一って……がぁッ!」
もう一本の焔がクシャトリアの右翼を切り落とす。そして、右足でクシャトリア本体を蹴り落とす。
「クロノさん!」
「アリューンか……支援を頼む!」
「分かりました!」
蒼のエルフェリードの砲撃がクシャトリアの肩を突く。鈍い金属音。直撃は免れたようだが直撃すれば、まず機体の原型は留められないのは必至だろう。そして、紅のエルフェリードが突貫する。
その瞬間、クシャトリア後方のダブリス級から射出された、数十発のミサイルが紅の機体を引き飛ばした。再び立ちこめる黒煙。その中からクシャトリアのアンカーが紅のエルフェリードの右手を掴む。
「こいつでも……くらぇぇぇぇぇぇッ!」
右手を掴んだアンカーが光に包まれた。次の瞬間、粒子砲が放たれる。粒子砲は掴んだ右手の関節部を完全に溶解させ、紅のエルフェリードの右手を爆散させた。
「どうだ? これで互角だろ?」
クロノは操縦桿を握り直して、口の中にある味のなくなったブルーミントガムを吐き捨てる。
「アリューン……お前は俺が守る!」
クシャトリアは再度、紅のエルフェリードに突貫。エルフェリードが焔を振り上げた瞬間、クシャトリアは至近距離で右足の脚部ミサイルポッドを展開。そして、射出。
紅のエルフェリードの胸部の塗装が剥がれて、内部の電子機器が丸見えになる。蒼のエルフェリードがスナイパーライフルを構えて発射。しかし、クシャトリアに見切られてしまい、機体にはかすりもしなかった。
「動きが…………」
クシャトリアはスナイパーライフル発射の反動で硬直している蒼のエルフェリードに向かってアンカーを放ちながら突貫。アンカーから放たれる粒子砲を回避し続ける蒼のエルフェリードだが、クシャトリアに間合いを詰められて蹴り飛ばされた。
「見えんだよッ!」
クシャトリアは体勢を整えた二機を睨みつける。
「どうやら最初から互角だったようだな……」
エルフェリードは二機で一機のアテナだ。当然コアも一つ。搭乗者も一人。つまり、二体同時に操作するのは不可能なのだ。どちらかを動かしている間は、もう一方の期待は簡単な回避行動しかできないのだ。それを見抜いたクロノは……。
「もう、怖くねぇッ! いくぞ!」
同時刻、月面には無数のアテナが現れていた。諸国連合の月面基地を制圧したエルヴィス。月面基地からでもはっきり、その大群は見えていた。本隊との通信を試みるが、強力な妨害電波が発生しているため、聞こえるのはノイズのみだった。
太陽の光をバックに現れたアテナの大群。数十……数百……いや、数千だろうか? 目視でも千機はいる。その姿は白銀のオリンストにそっくりだった。純白のボディ。その名は……。
―――創世のリヴェンスト―――
全てオリジナルの結晶石をコアとして持っている。宇宙のハザマの覚醒とともに目覚めた、世界樹の守護神たち。感情は持たない。ただ、世界樹を守る。そして、祖となる者を守ることが使命なのだ。
その大群の中心には、黄金に輝くアテナが……全てのアテナの祖となる存在、宇宙のハザマがいた。そのコアは英雄となるべき少年、神名翔だ。彼はもうすぐ世界を殺す。今まで誰もが成し遂げられなかった偉業。
一人を殺せば殺人犯。千人殺せば英雄。ならば、全員殺せば何になるのだろうか? それは……。
「……神だ」
神名翔は呟く。そして、リヴェンストは降下して、月面基地に残留しているアヌヴィスたちの殲滅を開始した。