【Chapter/48 それでもこの世界が好き】
「ここはどこ?」
「ここは私たちだけの世界……モノリスの中」
「……不思議だね。まだ《私たち》って言えるのね……」
「そうだね、渚。でも、人間はいつも二人なのかもしれないよ? 過去の自分が今の自分の中で生き続けている……。それって誰にでもあることじゃないかな?」
「じゃあ、私たちの存在も……普通なのかな?」
「ただ、実体があるだけ……それ以上、それ以下でもない……」
「こうやって、自分に触れられること……特別なことなのかもしれない」
過去の自分……。
―――分かっているんです。私だって怖いんです、人を殺すのが。私、オリンストで敵を倒すときに聞こえるんです、人が死んでゆく時の声を……。でも、そんなこと言ったらショウ先輩が戦うことが、いっそう嫌になるんではないだろうかと思っていたんです。だから……―――
―――いいですよ。私もあなたのことが……ウザいですし―――
―――夜明け前だというのに私は……。こうやって、ショウと交わっている。可笑しい。少し前までは、嫌悪の対象だったのに。今は大切な人になってる。私って、変だよね。こんな身勝手な……うんん、今は違う。私の事を思ってくれている。誰よりも、ずっと―――
そして、今の自分。
「そこにいる、あなた、今のあなた」
「私……ナギサ。・グレーデン……のはずだった。だけど違った……」
「あなたは何のためにいるの?」
「私は……この子が笑顔で暮らせる世界が欲しいだけ」
ナギサはそっと自分の腹部に手を添えた。大事な人との間にできた、軽いけど重たく感じる命。殺そうと思えば殺せる命。なのに、何故か重たいよ、って言ってしまう。そういうものなのだろうか?
「いいなぁ……でも、私にもある。私は大切な人に言いたいの……昔のあなたはカッコよかったって……そして、言ってあげるの。でも、今のあなたは嫌い、って……ね」
渚は笑ってみせた。
「ねぇ、ナギサ―――ショウ・テンナっていう人の何処に惚れたの?」
「う―――ん。最初は嫌いだったなぁ……だけど、ショウは悪くない。悪いのは私……なのかもしれない。だけど、ショウは初めて会ったときよりも、今の方が大きく感じる。どうしてだろ?」
「あなた自身も大きくなったから……じゃない?」
「どういうこと?」
「あなたも、ショウも成長したってことよ。でも、私は変われていない。昔のまま……馬鹿な女よ」
「今のままで良いんだと思うよ。それがあなただもの。そして、私だもん」
「じゃあ、受け入れてくれるの? 私を……」
「うん! 私だもん! 私は私。ここにいるのも私。あなたも私」
「ありがと……もう、あなたはあなたじゃなくなるのよね?」
「そうだよ……私になるんだよ?」
「嬉しいな……」
渚はナギサに倒れこんで優しく唇を重ねた。ゆっくりと……背中に両手を回す……。ずっと一緒。そして強く抱きしめあった。
感じる……あなたの鼓動。もう、ずっと一緒だね。
そして、二人は一人になった……過去と現在が一つになって、本当の自分に戻ったのだ。何もイレギュラーな存在ではなかった。ただ、これが普通のことなのだ。それに気づいたナギサの瞳から、雫が一滴。
渚は唇を重ねたまま、抱きしめたまま……光となって、ナギサの中に入っていった。消えたのではない。
「私は……ナギサ・グレーデン。それが……今の私よ!」
ナギサがそう叫ぶと花畑は消え去り、モノリスの外に出る。そして、モノリスは静かに姿を変えて、白銀の巨人へと生まれ変わった。
「ナギサ……帰ってきたんだね」
「ショウ……未来を取り返しにいこ……二人で」
―――新生のオリンスト―――
【次回予告】
戦いは終焉を迎えようとしていた。
戦う意味がある。
守るべき大切なものがある。
それを胸に戦士たちは散ってゆく……。
次回【Chapter/49 サード・ララバイ】