【Chapter/45 過去との調律】その2
私がハザマのパイロットになってから三ヶ月が経った。
鉄の巨人、ハザマを操り、ワケの分からない敵と戦い続けた私。次第に滅んでいく、この身体。そんな中でも、神名くんは私を支えてくれた。いつも、傍にいてくれて……学校を二人でサボったり……でも、もう学校も無い。リヴェラっていう奴らに潰されて……ね。
神名くんは何とも思っていなかった。私も、神名くんが傍にいてくれるなら、と思っていた。でも、リヴェラは着実に世界を侵食していった。アメリカ、アフリカ、ヨーロッパ……全て、リヴェラによって壊滅した地域。
ハザマの真っ白なボディも、リヴェラの緑色の血に染まっていた。大人たちは痛んでいく私の体を見て……何も思っていないだろう。いつしか私は、大人に対して不信感を持っていった。
そんな時、神名くんは私を公園に呼び出した。
「何、神名くん?」
「僕さ、日本軍のマザーコンピュータにハッキングしたんだ。興味本位でね。だったら、すごい情報を手に入れたんだ!」
「ど、どんな?」
「これだよ、これ! ハザマの発掘調査の報告書!」
「発掘って……やっぱり日本軍の開発した兵器じゃないのね」
「それにさ! ハザマを使えばこんなことだってできるらしいんだ!」
それは恐ろしいことだった。ハザマを使って世界中の人間をマナ粒子化する。それが、神名くんの手に入れた情報だった。
「そんなことしたら……」
「こんな醜い世界……僕達が殺してやるんだ! そして、僕達が新たなアダムとイヴになってやるんだよ! 二人だけの世界……もう、苦しむこともないさ! 一日中、遊んで、寝て、ずっと一緒だ!」
「う、うん! それだったら嬉しい! 私もそうしたかった。大切な人は神名くんだけ。他は何にもいらないよ!」
だけど、その日から神名くんは変わってしまった。私をほったらかしにして、家で計画を練ってばかりいた。何十枚、何百枚、何千枚、計画書を書いている神名くん。狂っていった。ハザマの未知なる力に触れて、変貌していったの。
その頭脳と、欲望が一つになったとき、生まれるのは狂気。私は次第に『神名翔の性欲処理の道具』としか、見られないようになっていった。でも、嫌いになれなかった。
そして、あの日。私はハザマに神名くんを乗せて、計画を実行した。簡単だった。私が北極に行って、世界樹を目覚めさせればいいだけ。だけど、世界樹は半分しか現れなかった。地球にはった根は、予想以上に深く……しかし、神名くんは計画を実行しようって言った。
「ここで、終わってたまるか! 俺たちは……世界を殺すんだ!」
「で、でも……」
「保険はある! だから、やるぞ!」
その瞬間、ハザマは覚醒。リヴェラを含む、地球上の全ての生物がマナ粒子と化した。たった一日で。だけど、人類は極秘に月への移住計画を実行しており、人類は滅亡から逃れていた。
徐々に感じ始める罪悪感。閉鎖的な日常では感じたことのなかった、世界の大きさ。命の多さ、軽さ。神名くんの一言で何十億人もの人間が死に至る。彼の恐ろしさを知った。心の闇。
計画は失敗に終わった……はずだった。だけど、神名くんは諦めていなかった。ハザマの力は無くなった。しかし、何千年間、遺跡のモノリスの中に入れておけば、充電は完了される。そう、神名くんは言った。
そして、宇宙のハザマが再び覚醒したとき、各地に封印されているアテナも復活すると。私の精神は過去と現在に二分割されて、ハザマから生まれた、オリンストとマキナヴの中に封印された。
神名くんはモノリスに封印されて、宇宙のハザマのコアとなる証を、身体に刻んだ。そう、私たちは鍵だった。ただ、それだけ。捨てられたの? そうだったら、私はバカな女だ。
気がつくと、空間は再びねじれた。たどりついた場所は、純白の空間。虚無。目の前には私がいた。
【次回予告】
最後の聖戦が始まった。
歪んだ平和か、変わらぬ修羅か。
最後の審判?
それは人が決めるのだ。
次回【Chapter/46 ファースト・アタック】