【Chapter/43 再会ハ慟哭ノ涙ニ濡レテ】その2
目覚めた時、私の目の前には真っ白な天井があった。
「ミナトちゃん……目が覚めたのね!」
「……サユリ? うん、大丈夫」
ミナトは医務室のベットの中で眠っていたようだ。サユリがずっと、ミナトの前にいたようだ。まだ、体は痛むがミナトにとっては問題ない。だが、足の方は痺れていた。感覚がない。
「……足の……感覚がない」
「うん。軍医の人から聞いたの……足、細胞が変異しちゃって動かなくなってるんだって。あ、でも現代の医学ならなんとかなるって……」
「……そう」
ミナトはそう言うと目を瞑る。目の前に妹がいる。しかし、何ていえば良いだろうか? ミナトには分からなかった。
「……水、欲しい」
「あ、そうね、持って来るわ! 昼ご飯、まだでしょ? 何がいい?」
「……ニンニクラーメン、チャーシュー抜き」
「分かった。すぐに持ってくる」
サユリは笑顔をミナトに向けると、医務室から出て行った。隣にはヘーデが眠っている。まだ、意識は戻っていないようだ。
早く……言わないと……でも。
「目覚めて……神名くん」
渚は奥にある灰色の石碑に手をかざして言う。そして、眠っているナギサの手も、かざさせる。部屋は狭く……薄暗い。冷たい金属質の壁。イリヤはその様子をじっと見つめていた。
鍵は揃った……神名くん、やっと。
渚の右手にはマキナヴの結晶石が握られていた。そして、それを石碑にはめ込む。
「本当に神名くんは平和な世界を創ろうとしているの? 争いのない?」
「ええ、それが目的でこんなところに眠っているんだから……」
石碑が光りだして黄金に変わる。部屋の内壁は崩れ落ちて、巨大な中枢部の姿が見える。モノリスが何十基も集まって球状の内壁を造りだし、開けた奥には巨人が眠っていた。
冷たい風が吹き込んでくる。何千年前の風なんだろうか。
そして、石碑が人の形に変わる。本来の姿。眠っていた。意識は無かった。冷たかった。しかし、風が気持ちよかった。
現れた青年。落ち着いた黒髪。垂れ下がった前髪。優しい瞳。まだ幼さが残る体つきに、学生服のブレザー。二千年前に人類の九十九パーセントをマナの粒子に変えて、世界を滅ぼした少年、神名翔。
彼は二千年前、全ての人類が滅亡していないことを悟って、ここに宇宙のハザマとともに眠った。もう一度、世界を滅ぼすために。人一人残さず……全て。誰もがなしえなかった英雄的偉業を達成するため。
渚はニ分割されて、時とともに目覚める仕組みにしていた。そして、互いにニ分割された鍵を埋め込んだ。オリンストとマキナヴだ。そして、二人を巡って戦争が起き、マナによる支配を行うだろうと……そして、世界樹の復活とともに、それを乗っ取り、世界中による全人類のマナ粒子化を目論んでいるのだ。
つまり、ままでの出来事は全て、彼の手の平の上で動かされていたことなのだ。彼の天才的な頭脳の予言によって……。
「しかしーーー計算不足なところもあった。宇宙のハザマが単なる鍵だったということだ。全て、粒子化するほどの力もなかった……」
青年は優しい声でそう言った。そして、渚に近づいてキスをした。熱く、激しく……絡まりあう。イリヤはそれから目を逸らす。
そうよね……渚だって、女の子。私が、そんな、いいえ、忘れよう。
「いつまでたっても変わらない味だ……ありがとう」
「神名くん……」
「だけど、君は用済みだ」
翔は渚の懐に入っていた銃を奪い渚に銃口を向けた。
「へ? 神名くん?」
「僕は……神だ。そうなる存在。一度、銃で人を撃つこと……やってみたかったんだ。いいよね?」
「嘘?」
「好奇心は人を刺激する。っていうのは嘘で……忘れたいんだ。もう、僕は渚にかまっていられない。君を満足させることも……。僕は英雄になるんだ。それに君は僕の重荷になる。許してくれ」
「いいえ、私は……」
言い終わる前に、銃声は響く。