【Chapter/43 再会ハ慟哭ノ涙ニ濡レテ】その1
「よし……できるだけ早く、ダブリス級に合流するぞ。回線が繋がったしな」
「はい……行きましょう」
クシャトリアは月面基地を脱出して、ダブリス級と合流しようと、地球奪還作戦の作戦開始予定位置まで向かっていた。
その時、警告音が鳴り響く。後方に敵が五機接近。
「こんな時にッ! どこもかしこも、敵だらけかよ!」
クシャトリアは横に一回転して、機首を下げて敵アヌヴィスの頭部をアンカーで掴み、粒子砲を放つ。そして、脚部のミサイルを放つ。ミサイルは鮮やかな煙のアーチを描きながら、アヌヴィスに向かってく。回避しようとするアヌヴィス。
スピードを急に弱めて、後方にバック。ミサイルを巻く。しかし、もう一方からきた追尾ミサイルが直撃。膨張、爆発。
「まず一機」
クシャトリアは側部ミサイルを本体の後方部から、無数のミサイルを放つ。ミサイルは白い雨となり、アヌヴィスに降り注ぐ。二機は本体に被弾し、撃墜される。もう、二機はなんとか回避。ミサイルで返してくる。
ミサイルの無数がクシャトリアに突貫してくる。鮮やかな弾道はクシャトリアに迫ってくるが、クシャトリアは機首を若干下げて、両翼を折りたたみ、速度を低下させ、ミサイルの真っ白な尻を見た後、マシンガンで撃ち落す。
そして、二機のアヌヴィスの後方にアンカーが回りこんで、本体を掴み、粒子砲を放つ。二機の胸部に大きな穴が開いたと思えば、次の瞬間、爆発。
「よし……」
「命……これでまた、消えていった」
「そうだよな、俺たちも奪う側なんだ……そうだよな」
しばらくすると、前方にダブリス級が見えた。
もうすぐ、会える……神名くんに。
ここは第一始文明が作ったとされる遺跡。どうやら、第一始文明は月にまで、その勢力を伸ばしていたようだ。そして、渚のマキナヴとイリヤのアグラヴァイが立っているのはエントランスのような場所だ。柱が何本もある。
イリヤには、冷たい風が装甲越しでも感じられる気がした。
「イリヤ……大丈夫、怯えないで」
「うんん、ここがとっても深いところだと考えると、息苦しくて。でも、渚と一緒なら大丈夫」
「じゃあ、行きましょ。神名くんが待ってるわ。マキナヴの中で……」
そう言うと、マキナヴは奥の方へと向かっていった。
「彼女が……もう一人の渚」
イリヤは膝に抱えているナギサの顔を見て、呟いた。
「ここは……」
ショウがたどりついたところは、巨大なステンドグラスが張られている場所だった。天井の高さはオリンスト二つ分ぐらいはある。明るく、ステンドグラスには第一始文明の頃の様子が書かれていた。魔法使いらしき人に向かってゆく、戦士達。それはまるで、ファンタジー。
第一始文明……実在してたんだな。
それはマナが存在することにも、ようやく納得できた。ここに何かがあるはずだ、とショウは確信する。
ショウは自分の袖口を見た。血の臭いが取れない。そして、自分の無力さを実感する。
そう、俺はオリンストが無ければ無力なんだ。兄貴が死んだときと何にも変わってない。ただ、死んでいくのを見ているだけ。傍観者。どうあがいても、運命は変わらない。
その時、後方から何かが近づいてくる音がした。鈍い金属音。アテナのものだ。あれは……マスティマだった。
「マスティマ? でも……たしかあいつは」
「そこの人間! ショウ・テンナ……だな」
「ええ、そうです!」
「やっぱりな……乗れ! ここからはアテナがないと行けないぞ」
マスティマからした声はキョウジのものだった。味方のようだ。ショウはそれを確信していた。なので、疑心は持たなかった。
マスティマのハッチが開いて、そこからキョウジが出てきた。始めて見たキョウジの姿……幾度となく剣を交え合った二人。目と目をこうやって合わすのは、初めてなはずなのに、新鮮さがない。
「すみません……俺がオリンストを失ったせいで……」
「気にするな。ただ、どうして私が味方だと分かった? それだけ、教えて欲しい」
「いつも、俺にとどめを刺さなくて……剣を交えていると、敵って感じがしなくて。もっとこう、他人の腐った理念に飲み込まれるような人じゃないって、思ってましたから。それに俺を殺すんだったら、こいつで踏み潰せば良いですもんね」
「ああ、私も同じことを思っていた。剣を交えているときは、敵という感情は持たなかったな」
キョウジは笑ってみせた。
「さぁ行こうか、君のガールフレンドを助けに」
「なんで知っているんですか?」
「君の瞳の奥を覗けば分かる」