【Chapter/41 月面上の死闘】その1
ソウスケはダブリス級の艦橋に戻ると艦長席に着き、各艦隊に指示を出す。勿論、臨時に艦長をやるというのを許可されていない。だが、そんなこと今はとやかく言ってられないのだ。
モニターには続々と敵の機影を現す赤い点が映し出されていく。鳴り響く警報音。基地の方は既に、攻撃を受けている。
「ダブリス級参謀のソウスケ・クサカがダブリス級の臨時の艦長を勤めることとなった! 以降、第三艦隊と第七艦隊の指揮は私が取ることとなる! ダブリス級、非戦闘時プロテクト解除! ダブリス級に続き、レウス級とジンリュウ級を浮上させろ! リョウ、敵の数と陣形は?」
「量産型が三十七機、敵戦艦が七隻に旗艦が一隻。しかし、後方には量産型が百十七機、敵戦艦が十八隻。波状攻撃を行うと思われます……」
「フォーメーションα―23、ポイントチャーリーから敵艦隊を突破する! 後方のヴァルキリー級はオリンストのバックアップをッ! クシャトリアはエターナリア級を護衛、イズモ艦隊の第三アヤナミ級およびジンリュウ級はポイントアルファにて敵を迎撃しろ!」
ソウスケは的確な指示を出していく。あの頃の感覚が残っているのだーーーそう、中枢帝国で戦っていたときの……。
「ですが……突破しようにも敵の数が多すぎます! こう易々と……」
「ミナト、流麗のダブリスに変形させられるよな?」
「……ええ、大丈夫よ、多分」
「分かった、話を続けよう。まず、ダブリス級を基準に第七レウス級と第十一レウス級と第十二レウス級をX―12Sへ、第一アヤナミ級と第二ジンリュウ級はX―79Aへ、第三ジンリュウ級と第二レウス級はX―172Мへ、第十七レウス級と周辺の艦隊はX―163Kへ移動させろ」
「これって……どういうことですか?」
「ダブリス級の射線上に敵が集まる、と僕は予想している……あくまで、希望的観測ではあるが、射線上に現れた敵を、ダブリスのソヒスティケイティッド・クラッシャーで一掃する。まぁ、僕の予想の範囲内でだけど……分かってくれた、サユリ?」
「あ、あ、はい! そんな戦略が思いつくだなんて……スゴいです!」
「ありがとう。だけど、褒めてくれるのは、この作戦が終わってからにしてくれないか? 現時点では《ただの作戦》なんだからさ」
「は、はい! 敵の正確な位置座標を表示します!」
「助かる、そうしてくれ」
ソウスケがそう言うと、モニターの表示が二次元映像から三次元映像に切り替わった。敵は月を囲む形で進行してきているようだ。十分な戦力が無いソウスケたちの艦隊にとっては絶望的な陣形であるが、逆を言えば、風船のように針で穴を開ければ勢いが一気に弱まる陣形でもあるのだ。
それをソウスケは利用して敵を一射線上に集めて殲滅し、そこにできた穴から脱出し、北極の攻撃可能地点まで向かおうとしているのだ。無論、他の艦隊が幾つ生き残るのかは分からない。ただ、今は攻撃地点にて一隻も多くの戦艦と合流することを、祈るほか無かったのだ。
「砲撃用意! 今回の作戦は射線上の敵を全て殲滅し、北極の攻撃可能地点まで向かうことだ! 第十七砲撃隊および、全ての火器をオンライン! 粒子砲のチャージおよび、冷却装置の稼働率を三十%引き上げろ! もうすぐ敵の攻撃が始まる。ミサイル一つ、この艦に被弾させるな!」
ソウスケの指示とともに、ダブリス級の両側に備え付けてある砲台が敵艦隊に向けられ、各部のミサイルポッドが開く。指示された艦は指定ポイントまで向かい、ダブリス級を中心にしている艦は砲撃用意をする。鈍い金属音が宇宙空間に鳴り響く。そして。
「砲撃開始ッ!」
同時刻、オリンストは敵と交戦中だった。オリンストの両サイドにはアヌヴィスがマシンガンを構えている。オリンストは両手から光の剣を伸ばして、両サイドにいるアヌヴィスの武装を破壊する。
「こいつ! やめろよ!」
「ショウ、前方よりアテナがッ!」
「大剣のやつッ!」
オリンストに向かってアグラヴァイは大剣を振りかざす。しかし、それはオリンストに軽々と避けられてしまう。オリンストはグラディウスアローを取り出し、構えてアグラヴァイの右肩に狙いを定める。しかし、次の瞬間。
「頭がッ!」
「ナギサッ! 大丈夫か?」
「あいつが……私が……来る!」
その時、オリンストに突貫してきたのはマキナヴだった。マキナヴは右手のレーザー刀を振りかざし、オリンストの装甲の一部を切り裂く。
ナギサは頭を抱えて悶える。頭の中を誰かが荒らしまわっているような感覚に、ナギサは耐えられなかったのだ。不協和音が永遠と流れる。
「オリンストッ! それに私! こうやって再会できたのも運命なのかも知れないけど……付き合ってもらうわ!」
「こいつッ! やらせるか!」
マキナヴの胸部にある粒子砲が光る。間一髪、回避したオリンストだが次に、後方から襲い掛かってきたアグラヴァイの大剣にオリンストの右肩の一部は切り裂かれて宙を舞った。
「あなたが必要なのよ、私ッ! そうしないと、神名くんが目覚めないの! また、神名くんと一緒にお喋りできないのよ!」
「そんな勝手な理由で……ナギサを苦しめるなぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
オリンストはマキナヴにラグナブレードを構えて突貫し、マキナヴの両手に装備しているレーザー刀にぶつかり、粉砕する。しかし、後方から来たアグラヴァイにラグナブレードを持っている右手を切り裂かれて、右手の感覚が無くなり、ラグナブレードを月面上に落とす。
宙ぶらりんになっているオリンストの右手。神経は通っていない。それを左手で引きちぎり、オリンストは二機の方向を睨みつけた。その緑色に発光する眼光の先に、ナギサの敵がいる。そう、ショウは確信していた。
「やってやるさ……こんなやつ……俺がッ!」