【Chapter/40 デスティニー・クラシス】その3
ヘーデとミウは皆をダブリス級の艦橋に呼び出して、地球奪還作戦の概要を話し始めた。ショウとナギサとミナトにクロノら、アテナのパイロットは特に真剣な顔でその話を聞いている。そして、ヘーデは皆の前に立ち話しを始めた。ソウスケは参謀としてダブリス級にいるため、ヘーデの事務作業に一晩中付き合わされたためか、目の下に隈ができている。
「これが、作戦の概要だ。まずフェイズ1として地球圏を防衛しているエルヴィスのアテナ網を突破する。そして、フェイズ2として北極点付近にいるエルヴィスの艦隊を叩く。そしてフェイズ3は、エルヴィスが握っているであろう《マナの還元に必要な鍵、もしくは装置》を破壊する。ただし、フェイズ2まで成功する確率は十分の一もない」
「じゃっ、十回やりゃあ、一回成功するんだよな?」とクロノ。
「君はポジティブだな。いや、悪いことではない。ただし、フェイズ3が成功する確率はそのまた半分の二十分の一だ。次に編成される部隊の確認だ。先行される第七小隊にクロノのクシャトリアが、第三艦隊の護衛にダブリス級が、第四艦隊の主戦力にショウとナギサのオリンストが配備される。参加する戦艦は百三十三隻のレウス級、二十五隻のジンリュウ級、七隻のアヤナミ級、四隻のラングレー級、旗艦のエターナリア級、そしてダブリス級とヴァルキリー級だ。作戦開始時刻は今から二時間後だ。他は先に渡した作戦書に書いてある。作戦開始まで、全ての項目に目を通しておくように……」
そう言うとヘーデはダブリス級の艦橋に倒れこんでしまった。皆、一瞬騒然とするがすぐに救護班を呼び、ソウスケは心臓マッサージを始める。サユリはヘーデに駆け寄り、彼の右手を握る。
「父さん! 大丈夫? ねぇ、父さん!」
「大丈夫だ! クロノ、電気ショックの用意を持って来てくれ!」
「ああ、分かった!」
クロノはそう言うと電気ショック専用の救命装置を取り出して、ヘーデの胸部に取り付け電源を入れる。その瞬間、電流が流れてヘーデの体は小刻みに跳ねる。
意識は戻らないものの、呼吸は再開し山を抜けた。しかし、しばらくしてサユリが医者から聞いたのは、衝撃的な事実であった。一時的な心筋梗塞を起こしたらしいのだ。安静にしておかなければ、また再発するであろうと医者は言った。
ヘーデはベットの上で尚も意識は戻っていない。安静にする、それは艦長の仕事ができなくなるということだ。サユリとミナトはヘーデの前に座り、うつむいている。そこにソウスケが現れた。
「艦長の仕事、しばらくできないって言われました……」
「サユリ、僕が臨時に艦長をやっていいかな? 勿論、ヘーデ艦長の許可を貰ってからだけど……さ。考えていたんだ、僕が何をすべきなのか」
「それは……いいと思います。でも、大丈夫なんですか? あ、失礼いしました! そういうことじゃなくて、こんな大作戦に参加したこと無いって、前に言ってましたから……」
「僕はオリンストやダブリス級と戦ってきたんだ。対アテナの戦い方は分かっているはずだ……それにここで見てるだけっていうのも、アスナに悪いからね」
「……頑張って」
ミナトはソウスケを見てひっそりと呟くと、視線をヘーデの方へ戻した。
「みんなに言ってくる。他の人たちの許可がいると思うけど……なんとか言ってみる。それでダメだったら、そこまでだけどーーもし、艦長をやらしてもらえるのならば……勿論、エルヴィスに勝ってみせる!」
「カッコいいです……ね、ソウスケさんって」
その時、警報音が鳴り響く。敵襲のようだ。こんなタイミングで敵が月に攻めてくるとは、誰も予想していなかったであろう。ソウスケとサユリは急いで艦橋へ戻ることにした。
一刻の猶予もない。早く船を発進させて地球への攻撃可能ラインまで行かなければならないのだ。ましてや、月で全滅してしまっては本末転倒なのだ。
ショウとナギサは艦橋にいた。ミウたちはヴァルキリー級に戻っているところだ。リョウは慌しく動いている。シュウスケとサユリとソウスケは今戻っているところだ。
「ナギサ! 敵が攻めてきてる!」
「はい……そのようですね、行きましょう!」
「こちらは任しておいてください。オリンストは敵の殲滅よりも、ダブリス級の護衛を頼みます。では、御武運を……」
リョウは振り向いて、敬礼をする。
「行くぞ! 白銀のオリンストッ!」
そして、月面上に白銀の巨人、オリンストが現れる。彼の見つめる先には三十七機のアヌヴィスが、宇宙を背景に蠢いていた。
最後の戦いが始まる……。
【次回予告】
月面上にてエルヴィスと諸国連合は激突する。
そんな中、遂に渚は行動を開始。
大切な人……それぞれの想いが交差する。
二つの正義がぶつかり合う決戦が遂に始まる。
次回【Chapter/41 月面上の死闘】