【Chapter/40 デスティニー・クラシス】その2
「今回の作戦の概要はこうだ……」
リューレンは静かに話し始めた。周りの者も、それに真剣に耳を傾ける。
「まず、現在私が考えているのはあくまで《推測の域》だ。確実ではない。ただ、これが本当でなければ我々に勝ち目は無いだろう……続けてもいいな?」
「はい、お願いします」
「エルヴィス軍は北極点に何かを設置している。私はそれをマナを一点に集結させる装置を起動させる《鍵》であると考えているのだ。装置とは言っても機械ではないだろうし、第一始人類の残した何かであろう」
「待ってください! 第一始人類はそもそも、存在すら疑われている存在で……」とミウは鋭く切り込む。
「アテナが起動している時点で、そう考えるのが妥当だと私は思うが? いや、これはあくまでも推測の域での話だ。あ、ああ、話を戻そうか」
プロジェクタの画像が地球の北極点にズームアップした画像に切り替わる。
「ここの地下に何かが眠っている。そう私は感じている……。つまりだ、ここにある装置、もしくは鍵を破壊すればエルヴィスの目的は達成できなくなる。ここまでがフェイズ1、と言ったところか。そして、破壊が完了したと同時に、軍を一旦撤退させて、戦意喪失したエルヴィス軍に畳み掛ける陣形で、一機に叩く、フェイズ2。そして、フェイズ3として、残党の後処理をするのだ。と、壮大な作戦を考えているのだが、ここまで上手く、私の予想が当たるとは考えられない。だが、私の推測はある人物からの情報提供によって創り出されている」
「ある人物とは?」
「エルヴィスに潜伏するスパイだ。私が雇った……軍を引退してからの私の弟子だ。詳しいことは言えまいがーーー私は前々からエルヴィス財団の動きを疑っていた。それで、その人物にエルヴィスのスパイを頼んだのだ」
「信用できるのですか?」
「ミウ艦長とやらよ、ここで習得した情報が確定情報でなければ、我々に勝ち目は無いのだよ。信じるしかないだろう?」
「それは……分かりました。信用に値する情報であるならば、それを元に作戦を立てることに私は賛同します」
「よろしい。さて、まとめるとするか……皆、明日は一日中寝られるぞ」
リューレンの言葉通り、彼らが眠れたのは次の日の真昼間であった。
「おはよう、ショウくんにナギサちゃん……」
朝、ショウとナギサが食堂で見たミウはゲッソリとした様子だった。まだ、寝不足のようで、ふらついている。よほどのハードワークだったのだろう、とショウは同情する。
「寝不足のようですね……」
「そーよ、ナギサちゃん。私、二十七時間三十七分五十七秒の間、眠っていなかったのよ? あーこんなにハードな体験をしたのはじめて……」
ミウは目の前にあるチーズバーガーをかじり、机に両手を広げてだらける。ショウはそれを見て、少しため息を吐くときつねうどんをすすり始めた。
「ショウ……ミウさん、どうします?」
「とりあえず人は疲れているときには、喋りかけずに見守っておくのが得策だよ。ま、こんなところで寝られる人はまぁいないと思うけどさ」
しかし、しばらくするとミウはすぅっと眠りについた。こんな中でも寝れらるミウに対し、ショウは少し感心した。
リューレンは一人、月の展望台にてある人物と通信していた。展望台は基地の近くにあり、回りには一面月の大地が広がっている。それを眺めながら、リューレンはノートパソコンの通信画面を開いた。
周りに人に気配はない。密談するなら、ここは絶好の場所だ。こんな時間に人は来ないはずだ。
「それは真か? ならば、真の敵は神名翔ということか……」
「そうです、師匠。アルベガスはその存在にも気づいてはおりません……」
「ならば、キョウジよ。月に宇宙のハザマが残っているのか?」
ある人物とはキョウジのことであった。声のみで顔は見えないが、声で分かる。長年の付き合いで聞きなれているからだ。
「おそらく……彼の存在を知っているのはごく少数の人間でしょう」
「しかし、彼の目的は何だ?」
「単なる自己満足です」
「確かにそう考えるのが妥当であ……」
「どうしましたか、師匠?」
「通信を切る」
リューレンはそう言うと通信を切り、後ろを見た。耳を澄ますと階段から足音が聞こえてくる。誰かが来た。上ってくる、誰かが、ここに。
万が一、自分自身が死んでも通信履歴は残らないようにしてある。そう、リューレンは覚悟した。そして、銃を構える。跡をつけられてしまったのか? そうだとしたら……。彼の銃はもう、引き金を引くだけで撃てる状態になっている。
「おはようございます……私のこと知ってますよね?」
それはナギサだった。リューレンは資料で彼女の顔写真を見たことがあったので、味方だと分かった。ほっとし、リューレンは地面に銃を置く。
「ああ、ナギサ・グレーデンか……ッ!?」
「ええ、そうよ、下が違うけどね。あなたは知りすぎたのよ……神名翔について」
そう言うと渚は右手に隠し持っていた銃を取り出し、その銃口をリューレンの頭部に向けて構える。
「よい死後を……サヨナラ」
渚は不吉な笑みを浮かべて、引き金を引いた。