【Chapter/40 デスティニー・クラシス】その1
ダブリス級を含む艦隊が月に到着して十日経った。地球の情勢は一分単位で変化していた。地球の大気圏外には各国の富豪の宇宙船が入星許可を待っているところだ。その数なんと、二百三十七隻で入星した船も合わせれば千を超える勢いだ。皆、空気の無くなる宇宙に対し、唯一大気層がある地球に入星したがっているのだろう。
すでに地球を掌握したエルヴィスにとって、彼らは迷惑この上ないのだろう。ただ、迷惑だからといって撃墜させれば、地球圏の批判の目を買って今後の統一国家としての権威が無くなってしまう恐れがあったのだ。それで、渋々、入星許可を取っているのだ。
しかし、財力を持ち合わせていない地球圏以外に住んでいる人々はきっと、絶望に暮れているだろう。何を行うのかは不明だが、これほど大きな動きを見せている今、太陽系にあった空気がなくなるのも考えられないことではなかったのだ。
そして現在、月のアルマニア基地の中枢部にて、各艦隊の代表者による地球奪還作戦の軍議が行われていた。薄暗い議場、計二十四名もの艦隊長と副艦隊長が、円卓状に並び議論を繰り広げている。その中にはヘーデとミウもいた。しかし、二人とも話そうとはしない。
「事態は一刻を争う。エルヴィスの艦隊は既に北極点付近に集結し、不審な動きを見せている。これは第二始文明の滅びた理由でもある、マナの還元と呼ばれる行為をしようとしているのではないのだろうか?」
「聞いているのですか? 答えは分かっているであろう。地球圏にてエルヴィス財団の代表、アルベガスの演説のより、その目的ははっきりしている」
「ただ、情報量の問題だ。どうやって、マナを還元するのか? どのようなものを使うのか? 全て分かっていない。しかし、第二始人類はマナの還元に失敗して、マナを構成する粒子へと変わったのは確かだ」
「ならば、逆に地球の人々が還元されてしまうのではないだろうか? 本当の目的はマナを地球圏のある場所に集積させることなのだ、とアルベガスは演説でそう言っていた」
その時、ヘーデが立ち上がり、声を荒げた。
「そんなことは後で考えればいい! 今はエルヴィスに乗っ取られた地球を奪還すること、それが今話し合うべきことなのではないのか?」
ヘーデがそう言うと、論議をしていた人間は静まり返った。しばらくすると、ミウが口を開けた。
「今回の作戦のプロトタイプを立ちあげた人は誰ですか?」
「あ、ああ、私だ」
そう答えたのは初老の男性。ゆっくりと手を上げて、濁った声でそう答える。彼の名はリューレン・アーガル。第七次星間戦争時には軍神と呼ばれた男だったが、戦争が沈静化していくと彼は戦場から一歩退いた。
しかし今、地球がエルヴィスに乗っ取られ、リューレンは再び諸国連合の制服を纏い、戦場へ戻って来たのだ。呼び戻したのはヘーデであった。彼もまた、軍神と共に戦場を駆け抜けた者の一人であった。
「この作戦の計画書……A4の紙で三枚。いったいどういうことですか? これほどの作戦の計画を、たった三枚の計画書で済まして良いんでしょうか?」とミウは鋭い口調で言った。
「何も、三枚で終わらせることはない。ただ、現時点での作戦概要は私の頭の中にしかない。今、これを皆に話そう。そして、ここにある二十四個の知恵で、それを吟味しようではないか……」
「では、お願いします」
「分かった……プロジェクタを出してきてくれんか?」
リューレンは落ち着いた口調で言った。彼がそう言うと、近くにいた者が奥の部屋に入りプロジェクタの準備に取り掛かった。しばらくして、準備ができると、リューレンはポケットに入っていたデータチップを挿し込み、話を始めた。プロジェクタには地球の立体映像が大きく映し出されていた。
「あーあー、マイクの調子が悪いようだな?」
「いいえ、電源を入れてないからだと……」
近くの者がそう言うと、リューレンはもう一度確かめた。電源はオフになったままだった。呆れる、ミウ。急いで電源を入れて「すまない。では、始めるとしようか」
サユリとシュウスケ、それにショウは月の表側にある自然公園にいた。ここは無重力地帯ではないが、三百メートルも上に浮くと宇宙空間となる場所だ。しかし、空気が薄いわけでもなし、周りには殺風景な月の大地が広がる。その真ん中にこういう風な場所があるのだ。自然公園といっても、本当に何も整備されていない所だ。
土も固く、空は青くなく、真っ黒な宇宙の星々が広がっている。それもまた新鮮な光景であると、ショウは思う。それと同時に見飽きた風景でもあった。何にも無いのにこうやって人が集まるのには理由がある。
その理由は単純だ。争いとは無縁の一般市民がこうやって、手軽に宇宙を見ることができる場所というと、ここしかないのだ。まさに平和ボケの象徴。しかし、ショウ自身はそれがそんなに悪いとは思っていない。
むしろ、こういう思いをもう一度感じてみたいと思ったのだ。でも、到底、そんなことは感じられないであろう。そう考えると、ショウは憂鬱になる。
「ねぇ、明日ここでコンサートやるんだって!」
「見に行くのか? つーか、誰のだよ?」
シュウスケはめんどくさそうにそう答えた。
「かの有名な……」
「あーああ、いいさ。俺は明日はシフトがあるんだ。ショウとでも仲良く行ってきな」
「俺、明日、ナギサと遊びに行くし……」
「仲むつまじいようでーーけーっ、イチャイチャしやがってよーっ!」
シュウスケは口を尖らせて、ショウを細い目で見た、。ショウはさりげなく、目を逸らす。
「うぐーッ! 結局、暇なのは私だけーっ?」
「そ、いうこと」とシュウスケ。
「もういい! ソウスケさんを誘うからーッ!」
「ひゅーひゅー。付き合ってるのか?」
「なわけ無いでしょ!」
「きゅーんきゅーん、きゅーんきゅーん、私のカレは艦長さーぁん♪」
「だまらっしゃいッ!」
「ガッ!」
サユリはシュウスケの顔面をグーで殴る。鼻から真っ赤な花びらを噴出させて、シュウスケは倒れる。
「私、シフトあるし、このバカの世話、頼むわよ」
「……了解。っておい……」
ショウが振り向いたときにはサユリの姿は無かった。仕方がないのでシュウスケを引きずりながら帰ることにしたショウであった。
こういう、光景……また見れる……よな。