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【Chapter/39 月にて】その1

 あれから一週間経った。月のアルマニア基地に到着したダブリス級とヴァルキリー級を含む三十七隻の大艦隊。月に無事到着した戦艦は百九十二隻で、その三分の一はエルヴィスに撃墜された。今のところの主力は、オリンストとクシャトリア、ダブリスだけだった。そして、結晶石が破壊されたイフリートの残骸のみだ。結晶石が破壊された以上、はっきり言って戦力外だ。動かせないただの巨大スクラップと化している。

 それでも、ソウスケにとっては大切なものでもあった。この中にまだ、アスナがいるような気がしたのだ。だからこうして、ソウスケはイフリートの前に立っている。

 周りは薄暗く、金属音が聞こえる。ダブリス級の中ではあるが、そんな感じは一切しない。イフリートは四肢を無くし、何にも保護されず保管されている。扱いは悪いと言わざるを得ない。


 ここにいるなら返事をしてくれ……って、さ。そんなこと無いと思うけど、いたら返事をしてほしい。僕はまだ、アスナに頼っている。もう少し、自分で考えないといけないのにね……。




「え? 妊娠?」


 ショウは驚いた。ここはショウの部屋でまだ、薄暗い。向かいに座っているのはナギサだ。そう、ナギサは妊娠していたのだ。嫌なことではなかった。むしろ、嬉しかった。


「はい……今日調べたら。ショウ……私は嬉しいです。でも」

「俺も嬉しいよ!」


 ショウはナギサに抱きついた。ギュッと抱いて、ナギサは苦しそうにしている。

 戦いばかりで疲弊していたショウに、唯一嬉しいニュースとなったのだ。希望が生まれたと同時に守らないといけないものが、また増えた。その使命感を抱えながらも、ショウはそれを素直に受け止めて、喜んだ。


「むぐむぐ……苦しいです」

「あ、ごめん」

「でも、本当にいいんですか? 私なんかと……」

「ああ、勿論さ! 結婚もしよう! だったらさ、新築の家を建ててさ!」

「は、話が早いです!」


 ショウのはしゃぎっぷりに少し呆れるナギサだが、悪くは無かった。普通の高校生だと悩みの種となるところだが、ショウは悩まず素直に喜んでくれた。それが空元気だとは思わなかった。いや、悩むべきことはたくさんあるだろう。だが、それ以前にナギサの意思を分かってくれて、拒絶せずに受け止めてくれたのだ。

 戦争のことは? 学校のことは? ショウは考えてはいた。しかし、どうもこの嬉しさの中では、頭もろくに働きそうもない。クールダウンしなければならないのかもしれない。


「そのー……」

「分かってる。考えなきゃいけないことも知ってる。ただ、これは喜ぶべきことなんだよ? 戦ってばっかりの俺たちに生まれた希望なんだ!」

「私……そんなに喜んでくれるなんて思ってもみなかった。中絶しろ、とか言われると思ってて……」

「そんなことできないよ! 俺はナギサの子供なら育てる自信はある。仕合せにする自信もある。勿論、ナギサもね。学校の事だって、ナギサが行きたいなら、生んでから行けばいい。俺は学校を辞めてもいい。それぐらいの覚悟はしているよ。それで、ナギサが幸せになれるならさ」


 私のことを真剣に考えてくれる人……。ショウってこんなに優しかったんだ。いいえ、私が気づかなかっただけなのかもしれない。自分の事をあまり考えず、他人のことを考えすぎる。ショウのお兄さんも同じような人だった気がする。やっぱり、似ているんだ、兄弟って。


「分かりました……軍医の人にはそう伝えておきます」

「俺も一緒に行くよ。俺の子供でもあるんだからな」

「そうですね!」


 ナギサはショウに微笑んだ。ショウとナギサは軍医の所に行き、その意思を伝えた。軍医はあまりにも素直なショウとナギサに感心し、妊娠時の注意事項などを丁寧に教えてくれた。

 今時、このように妊娠を素直に喜べない人々が多い中、ここまで素直になれるショウとナギサは珍しい。それも高校生同士で……だ。本当に互いのことが好きなのだろう、と思いながら軍医は去っていく二人を見ていた。


「で、どうする?」

「行きましょ! ここは月ですよ! デパートに行って洋服も買いたいですし!」

「テンション、高けーな。ま、嬉しいのは分かるんだけど」


 月の側面にできた都市で、アルマニア基地からリニアで三十分のところにあるヒュースト。ここはデパートからマニアショップ、和食から洋食まで揃う若者の街……いや、老若男女が集まる大都会。そこにショウとナギサは二人で行くことにした。

 駅から降りるともう既に大都会の匂いがした。ガリア教寺院にいた頃とはまた別の匂いがする。正反対だが、懐かしくも思う。ショウは一度ヒューストにアスカと行ったことがあるのだ。子供だけで行った為、後で両親に起こられたのはいい思い出だ(海王星に両親が転勤する前にはショウたちは月に住んでいた)

 駅を出てすぐそこには広場があり、そこの噴水前でデート相手を待つのだ。しばらくするとナギサも来た。わざと二人は時間をずらして、こうやって待ち合わせをしたのだ。


 どうしてかって? とくに意味は無いですよ。そういう気分を味わいたかっただけ!


「こういうのも悪くないなぁ……」

「そうですか? さ、お腹も空いたんで、食べに行きましょ!」

「リィド、するナギサって……」


 ナギサも普通の女の子なんだなと、ショウは思うのであった。

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