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【Chapter/4 祭の後の酒の味】

「さぁ……ショウ・テンナの初陣記念パーティ始まるよ!」


 シュウスケはマイク片手に舞台の上で叫んだ。

 ここはダブリス級の艦内の空き部屋だ。広さは二十畳程とかなり広い。真ん中にはテーブルがあり、その周りに八人分のイスが並べられている。

 出席したのはショウ(半強制的に)とナシュウスケ、サユリのお馴染みのメンバーに加え、ナギサとリョウ(ヘーデに行けと言われたので)、ノリのよい整備班の方々と食堂のおばちゃん。そして、紺色の髪のショートカットの少女。見た目は十二歳ぐらいの少女。


「さぁ……今日は飲んで飲んで飲み干せ!」

「「「オー!」」」


 シュウスケは上機嫌のようだ。それもそのはず。諸国連合の軍隊の軍規には『未成年の飲酒を認める』と呼ばれるものが存在するからだ。

 つまりはシュウスケが待ちに待った酒が今日、飲めるのだ。

 ちなみにタバコもオッケーだ。


「ドンペリでもウォッカでもなんでもこいヤァ!」


 シュウスケは酒を飲む前から酔っ払っている感じがする。


「先輩はお酒飲んだことは?」


 ナギサは缶ビールを右手に持ち言った。


「ナイナイ……そんな事したら親が」

「そうなんですか、じゃあ今日が先輩のお酒デビューですね」

「ハハハ……」


 ショウは勇気を振り絞って缶ビールの口を覗き込み、そして飲んだ。


「ヴッ……」


 ショウの顔が蒼白になる。

 頭痛が……。


「大丈夫ですか?」

「だい……じょうぶじゃないかも」


 どうやらまだ、ショウにはお酒の味が分からないらしい。


「ところでこの子は?」


 ショウは紺色の髪の少女を見て言った。


「ああ、この子はミナト・アリア。この艦の癒し系です……よね」


 ナギサはニッコリと言った。


「……ブイ」

「?」


 ミナトは右手でブイサインをする。しかし、無表情だ。


「この子私が呼んできたの! 可愛いでしょー。特にこのほっぺたのフニフニ感が……たまんない!」


 サユリはミナトの頬を人差し指でフニフニした後、あまりの可愛さにぎゅっと抱きついた。しかし、無表情だ。


「さぁ……今回は皆さんにはビンゴゲームをやってもらいます! お手元のビンゴカードを見てください!」


 酒が回ってきたのかシュウスケのエンジンはオーバーヒート寸前だ。


「では、はじめます! 十二番……三十九番……十七番……」


 シュウスケが番号を高々と叫んでいる中、サユリはずっとミナトの頬をフニフニしている。しかし、無表情だ。


「私が一番のようですね」


 リョウはメガネを人差し指で整え舞台に向かっていく。


「え〜ビンゴした方にはクジを引いてもらいます! それで何等賞か言ってくれればそれに応じて商品が貰えちゃいまスイカ!」


 とうとう、シュウスケは意味不明な事を言い出した。末期だ。


「三等賞ですねぇ!」

「三等賞は……このティッシュペーパー一年分をプレゼントいたしまス!」

「……これだけですか?」


 リョウが貰ったのは駅前で無料で配っているポケットティッシュの袋詰めだ。


「これで一年は鼻がムズムズした時も大丈夫! 一年は持ちます……ッ!」


 リョウはシュウスケのノリについていけなくなり、黙って舞台から降りた。


「あんな人とショウさんは友達なんですか?」


 リョウはショウに聞いた。


「大丈夫です。今日で縁を切ろうと思います……」

「賢明な判断ですね」

「三十番……二十三番……」


 パーティーは約二時間続いた。




「ショウ先輩、なにしているんですか?」

「ちょっと宇宙を見たくてさ……」


 ショウは艦内の展望デッキにいた。ガラス越しに見える宇宙は神秘的だ。この間まで海王星の青い空をショウは《ソラ》として見ていた。

 しかし、今は違う。空は宇宙だ。宇宙と書いてソラと読む。悪くはない。

 ナギサはショウの隣に行き一緒にソラを眺めた。


「俺……オリンストに乗っている時、聞こえたんだ」

「なんですか?」

「人の叫び声が聞こえた。欲望に負けた汚い人間たちの……。ナギサはどうだった?」

「ん〜先輩と体全体が繋がっているような気がしました」


 ナギサはショウに微笑みかけた。なにひとつ不純物のない笑顔で。


「あの……よかったらもう少し先輩の聞こえた声の事、聞かせてくれませんか?」

「うん……。まず、なにかの枯渇と言ってたな。で、再生がなんたらかんたら……。詳しくは覚えていないけど、その中で女の子の泣き声がしていた」

「悲しそうですね……」


 ナギサは自分の胸に手を当て俯いた。

 ナギサの中にオリンストは入っている。戦うことを決意しオリンストを呼び出した時、ショウは感じた。ナギサの中に眠る鬼神を。その鬼神は使い方では人を守る守護神にもなる。

 しかし、使い方によっては災いを引き起こす悪魔にもなると感じた。

 その鬼神を解き放つ鍵をショウは持っている。


「あ、すみません。ちょっとこの缶ビールをヘーデさんに届けてきてくれませんか? お願いします先輩……では」

「あ……え……うん」


 ナギサはショウに缶ビールを二本渡し、足早に去っていった。

 パシられたのか?


 答えはイエスだ。




 ショウはナギサに頼まれた通りにヘーデに缶ビールを渡しにいくことにした。艦長室は意外と狭く、薄暗い。


「なにか御用かな? ショウ君」

「わっ、ヘーデ……さん? この缶ビールを渡せとナギサに言われたので」


 ショウはいきなり現れたヘーデに対しびっくりしたが、少し多めに息を吸い要件を話し缶ビールを渡した。ヘーデは一本目を開けショウに渡した。


 飲めと?


「ほら飲め」


 ショウの悪い予感は見事的中。


「あ……はい」


 ショウは《嫌な匂い》のする缶ビールをちょびっとだけ飲み近くの机の上に置いた。何回飲んでも、この匂いは無理だ。


「なぁ、なんで軍には未成年の飲酒を認める。というのがあるのが……知っているか?」

「いえ……」

「それはな、若い少年兵たちがビールの味を知らないまま宇宙に散っていた時代があったからだよ」


 確か今から三十年前は一番、『第一次太陽系戦争』がもっとも激化していた時代だ(今も続いてはいるが沈静化していたはず)。


 ショウは黙って聞いていた。


「私もそのような少年兵をたくさん見てきた。皆、口を揃えて「祖国の為に死ぬ覚悟はできております!」と言うのだ。だけど、死ぬときとなれば皆、祖国の事より家族の事を心配するようになる。不思議なものだ。だが、それが若さなのかもしれない……」


 ヘーデは机の引出しからタバコの箱を取り出した。『seven・wind』と書かれている。直訳すると七つの風だ。


「どうだ?」

「いえ……その、まだ、わからないと思います」

「まだまだ尻が青いな……」

「ひと段落が着いたら挑戦してみます」


 ショウは笑ってみせた。


「ちょっと聞いていいですか?」

「ああ、いいぞ」


 ヘーデがそう言うとショウは少し間を置き言った。


「ナギサの中にはなんでオリンストがいるんですか? なにがあったんですか?」

「……そうだな、まだ言っていなかった。一週間前、ナギサはオリンストに乗って中枢帝国の軍事基地を攻撃した」


 そういえば、一週間前にニュースで『土星圏の衛星軍事基地で中枢帝国と諸国連合の激しい武力衝突があった』というのがやっていた。最近では戦争も珍しくなったのでマスコミが騒いだ……らしい。


「作戦は成功。だが、作戦終了後にオリンストは暴走。ナギサ共々、オリンストは君のいる海王星に向かっていった。そして……」

「……」


 ナギサ・グレーデン。彼女は一体、何者なのだろうか。

 ショウには分からない。


 だが、確かに背負った鍵は重たかった。

【次回予告】

 海王星圏から一番遠いコロニー『イリア3』

 そこで少年は父と再会する。

 少年は憎悪を……

 オリンストはその憎悪を矢に込める。

 次回【Chapter/5 冷酷な眼光】

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