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三話 予期せぬトラブルに


 私の忌憚のない言葉に瞠目し、一瞬ばかし、ルークさんが呆気に取られる。

 でも、それも刹那。


「……成る程、確かにあいつらはロクでもないからな」

「そういう事です」


 実感のこもった言葉と共に、同調の言葉が一つ。続け様に、微笑が向けられた。


 とはいえ、未練がましく語りはしたものの、もう大方の事は割り切れていた。

 妹だとか、両親だとか、その他諸々の事を。


 だから、別に今更見返してやろうだとか思わないし、対抗意識なんてものも何処にもない。

 故に、過去の事は過去と割り切って私なりに気ままに過ごしてやるつもりだった。

 『聖女』の力があるのに、それをひた隠しにして治癒に徹していたのもそんな理由からだった。


 今生も『聖女』として生きる気はこれっぽっちもなければ、嫌いな貴族や教会連中とわざわざ関わらなきゃいけなくなる道をあえて選ぶ理由はどこにもなかったから。

 そう、他でもない私自身が決めたから。


「私は『聖女』ではありませんが、皆さんのお力になれていたなら、良かったです」


 ————『聖女』ではない。

 その部分をあえて強調しながら、私はそこで会話を終わらせようとした。


「ああ。ルナ嬢さえ良ければ、これからもよろしく頼む。魔物と戦ってる以上、人死は避けられないが、出来る事ならアイツらには死なないで貰いたくてな」


 優秀な治癒魔法使いがいれば、それだけで救える命もあるだろうから。


 そう言って頭を下げられた事で、踵を返そうとしていた私の足が止まった。

 それはもう、無意識のうちにだった。


 不意に心臓が、ドクンと脈を打ち、在りし日の光景が蘇る。



『————オレの頭ひとつで、臣下の命が救えるのなら、オレは喜んで頭を下げよう。土を食えと言うならば、オレは喜んで土を食おう。覚悟を見せろというのなら、今ここで覚悟を見せよう。オレにとって臣下は、そういうもんなんだよ』



 ……重なる。

 ずっと昔に見た筈の光景(記憶)が、一瞬にして私の脳裏に沸き立っていた。


 姿は似ても似つかないのに、過去の私が唯一、親友と呼べる間柄だった男との思い出が思い返される。あいつだったら、きっとそう言ってただろうなって、そんな確信すら覚える羽目になって、やがて気づいた時、私の胸の中にはポカポカとした温かい感情が広がっていた。

 

「……似てますね」


 自分にだけ聞こえる声量で呟く。


 誰とは言わない。

 もう、名前や顔だって朧げであった。

 でも、その思考は、言葉は、あいつとよく似ている。心からそう思った。


 あいつが今の私を見たら、失望するだろうか。

 悲しがるだろうか。怒るだろうか。


 そんな事を考えたけど————あんたの人生だ。好きに生きればいい。勝手気ままに、生きればいい。などと言われる気しかしなくて。


 どうせあんたは、人の意見なんて聞きやしないんだから、いつも通り自分らしく生きればいいだろって投げやりに言われる気がして、無性に笑いが込み上がってきた。


「……うん。決めた」


 少しだけ悩んで。

 そして、実家からはもう追い出されたし、好き勝手やってやろうって改めて割り切る。


 だから、私もルークさんのように、予め決めてあった己の意見を変える事にした。


 手伝う気なんて、なかった。

 『聖女』として生きる気もなかった。

 力を使う気も、勿論。

 その上で、気ままに過ごしてやるつもりだった。でも、やっぱりそれは止める事にした。


「あの、ルークさん」

「……?」


 改めて、視線を合わせる。


 昔の友人を重ねてしまった。

 そんな不純な動機ではあるけど、でも私は目の前のルーク・ランドブルグの助けになりたいと改めて思った。だから私は、気ままに好き勝手する事にした。教会だとか、実家だとか、そんなものは全部投げ捨てて、


「明日から、についてなんですけど……治癒ではなく、魔物の討伐を私にも手伝わせてはいただけませんか」


 話の脈絡すら無視して、そんな事を口走ったんだ。




「————で、何でこうなるかなあ」


 その翌日。


 私はルークさんと共に魔物の討伐に————は向かわず、城の中でせっせと治癒魔法に勤しむ羽目になっていた。そしてその側にはルークさんの右腕とも言える臣下の一人、ロイドさんが私を見張っていた(、、、、、、)


 あの後、分かったと了承する空気になっていたと思ってたのに、ルークさんはあろう事か、女を前に出すワケにはいかないと拒絶。

 そこに、でも、と私が食い下がった事により、一人で勝手に魔物の討伐に向かわれたら敵わないと思われてか、護衛という名の監視役をつけられ、城で待機する事になっていた。


 だからこそ、思わずにはいられない。


 なんでこうなった————と。


 本当に、どこまでもルークさんはアイツに似ている。女が前に出るなとか、そういうところとか特に。そしてそれが決して侮っているが故に出てきた言葉でなく、本心からの心配なのだから一層タチが悪い。


 無理矢理にでも!


 とか思いもしたけど、彼のその感情のせいで一瞬にして気は萎えてしまった。


 ロイドさんもルークさんから私を外に出すなと厳命されているのか、常に私の近くにいる。

 だから、城を抜け出す余地もなくて、ため息を漏らさずにはいられなかった。



 そんな、折だった。


 城の外に出ていたであろう騎士が息を切らしながら脇目も振らず、中へと駆け込んでくる。


 そして、一直線にロイドさんの下へと向かい————領民の子供を助ける為に、ルークさんが一人で森の奥へと足を踏み入れてしまった。

 と、慌てた様子で紡がれた内容は、側にいた私の耳にまで届く事となった。


 その助力をと、駆け込んできた騎士は、ロイドさんを呼びに来たらしい。


「……なにも、今日に限って……っ」


 下唇を噛み締めながら、ロイドさんが呻く。

 でも、今は口を動かしている場合ではないとすぐさま、頭の中を切り替え、助けに向かおうと試みていた。


「私も、連れて行ってください」


 そんな彼に、私は言葉を投げ掛ける。

 今は一分一秒が惜しい時。

 だけど、それでもと私は言う。


「魔物が相手であれば、必ず役に立ちます(、、、、、、、、)


 私は躊躇なく、そう言い切った。

 それが冗談でも、見栄でもなく、本心からなのだとロイドさんは見抜いてなのか。


 数秒ほどの逡巡を挟んだ後、


「……一人で行動をされるくらいなら、一緒にいた方がまだマシか」


 そう、答えてくれる。


 ただ、やはりルークさんと同様、私が向かう事に対して安易に許容は出来なかったのだろう。


 だが、今回ばかりは仕方がないと割り切ってか。なんとか許可が下りていた。

 そして私達は、ルークさんが足を踏み入れた森とやらに向かう事となった。

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