悪魔
二人が歩き出したのはいいが、男が目指している銃ショップまでは歩くには遠すぎる。
少し先にガレージがあるので、二人はとりあえずそこに向かうことにした。
「少し怖いところも多いかもしれないけど頑張れよ。慣れるしかねえから」
男は少女に向かってそう言う。
少女の前でも構わず殺戮をする予定の男に、少女は頷いた。
「よし、いい子だ。」
男は少女の頭を撫でた。
ガレージに到着し、男は自分の車であるセダンの鍵を解除する。
「さぁ、乗ろうか。」
荒れ果てた世界でうまく運転できるか心配だったが、男はエンジンをかけ、車を走らせ始めた。
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車を走らせているが、やはり辺りに溢れた車のせいで進めず、迂回しなければいけない道もあった。
そして途中で生存者である女の人を見つけたが...
「あれはお母さんか?」
男が少女に問いかける。
「ううん。違う。」
少女は首を横に振り母親ではないことが確認できた。
「無視するか。」
横を通り過ぎるタイミングで、案の定窓をたたかれる。
「なんだよ」
窓を開けて窓を叩いてきた女に男が声をかけた。
「ちょっと降りなさい!女の子も!」
「この子は無理だ。俺だけ降りる。」
降りるように請求されたので男は一度車から降りる。
「で、なんだ。」
なぜ降ろしたか聞いた次の瞬間、女は男につかみかかる。
「私を助けなさい...!はやくっ」
今にも感染者が来そうなほどの声で叫ぶ女に、男は腹に蹴りをとりあえず食らわせる。
「黙れ、そんな余裕はない。」
腰からナイフを取り出し、抵抗しようとしてくる女に向ける。
さすがにナイフに恐れおののくが、まだ助けてほしそうな目で男を見つめる。
「私も限界なの...お願いっ...」
「無理だ。」
腹を抱えて立ち上がる女の顎を殴り、倒れたタイミングで近くのポールと手首を手錠でつなげた。
「な、なにするのっ...」
「この世界では、生きるか死ぬか、それか殺されるかだ。」
女のポケットから携帯を出し、指紋を使ってロックを解除する。
時計のアプリを取り出し、タイマーを30秒後に設定し、音量を最大にして男はその場を去る。
もともとこの男には、女に対して苦い思い出があるようだ....
「ごめんなさい!私が悪かったから!助けて!」
車に乗り込み、発進し始めた男に泣いて詫びるが、すでに男は話を聞いていない。
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車が去り、タイマーが大音量でなるが、手錠でつながれている彼女には解除する術を持たない。
たちまちその場に感染者が現れ、彼女の腹を噛みちぎり、内臓をむき出しにさせて殺した。
まだ、車が発進してから30秒後の話である。
__私が...悪かったから....__
死ぬ間際まで、彼女は男に詫びていた。