3. 双子の試練
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宝物庫の一角の壁や台座に立派な意匠を施された武具が並べて飾られている。
どれもが名工が打った得物か、もしくは迷宮から発掘されたのだろうか、逸品であるのは間違いない。だって宝物庫だもの。とアルスは何となく納得した。
属性効果が付いた付与武器や、持ち手の能力を向上させる強化武器、中には魔剣と称される物……効果は不明だけど魔剣の名前が台座のプレートに刻まれている。ワクワクしながらそれらを眺めていると…………次に目に映ったのは、他のに比べて留め具やら飾り台が――細工技術に秀でているロット族もかくやと思わせる――立派な装飾なのに対して、まるで祀るかの如く飾られていたのは見るからに錆かけている古い片手半剣だった。
最初に視て思ったことは、不釣り合いすぎて奇妙な違和感しかなかった。そして次は何かが滲み出すような、湧いてくるような力を感じたのだった。……何故か目を離せなくて、まるで、さあ手に取ってくれと言わんばかりの存在感を主張している気が、した。
(うーん……魔剣かな? 呪われたら……まあ大司教様にお願いしよっと。どうせ暇そうにしてるだろうし)
力は感じるけどさして邪な気はしなかったので、まあいいかと、訓練で使う木剣を扱うかの如く気軽さでその剣を両手で取り上げる。目の前で改めて見ると錆びてはいるが装飾はとても凝っている感じ。柄頭・握り・鍔、鞘など無造作に触るが、持った瞬間手から離れなくなりました、みたいな呪いはないようだ。そして直に触れてみて判った。古臭いのに宝物庫にある他の武具に匹敵する……いやそれよりも強い魔力を纏っているのだ。
「この剣、スゴイ魔力を感じる……あれ? 抜けない」
錆びているからかな? と思い、力を込めるけどまったく微動だにしない。両足で動かないように挟み込み両手で思いっきり引き抜こうとしたり、色々試してみたけどダメだった。何というか抜ける気がしなかったのだ。そして試しに身体強化を使ってみるかと魔力を込めようとしたところで――
「ねー二人とも、なんか変な物があるよ~」
ミューンの間延びした声が少し離れた所から聞こえたので少し気が抜けた。妹の方を見ると……興奮してるな? 目がキラキラしてる。面白い本でも見つけたかな? だけどミューンの方にも気になるのだろうか、あっちに行こうとしているので僕も立ち上がり、無意識に、ごく自然に、最初から持っていたかのように、剣を手にして二人の所に向かっていった。
◇◇
「おー如何にもな邪気を感じる……ちょびっとだけど」
妹が古い木箱を前にして感想を述べている。僕も微かに感じているが、リーシャは魔術が得意だからより細かく判るのかな。
「随分と古い封呪の札だね。箱の方もだいぶ傷んでるけど」
「ね、ね、ひょっとしたら大昔に大暴れした大魔族とか、邪神とか封じ込められたりして?」
「ないない」
「もしそうだとしたら、とっくにお隣に焼き滅ぼされているよ」
「むしろ使役してそうだよね」
「アンタたち、帝国にどういうイメージ持ってんの?」
ミューンが好奇心全振りな妖精らしいワクワクしたりビクビクしたり、感情の剥き出しそのままかの如く、大仰な素振りで小さな身体で表現するのを、スレた気持ちでツッコんでいる。
棚の奥にあった箱を僕らが取り出し、宝物庫の少し広めの空間の床にそっと置かれたそれを囲むように座って検証ゴッコをしていた。封呪の札は触っただけで破けそうだし、木箱の方もちょっとの衝撃でバラけそうなんだよな。邪気が漏れているのもそのせいだと思う。何十年と放置されていたんじゃないか?
「というか、遅かれ早かれこのままだと封印解かれるんじゃ?」
「ええっ、じゃあ宝物庫の番人さんに教えないと!」
「…………」
「…………」
ああ、コイツ純真だな……僕とリーシャは妖精に優しく憐んだ瞳を向けた。
僕たちはコッソリと宝物庫に来ているのだ。小国とはいえ、多重施錠、対魔法障壁、対人感知諸々ガチガチ対策された宝物庫に、だ。王家の裏技を使って遊びに来て、『ヘイ封印解きかけの怪しい箱を見つけましたゼ』と伝えたら不法侵入を許し管理不行き届きによって番人さんが路頭に迷うことになる。当然僕たちも怒られる。誤魔化すように伝えても、あの宰相なら絶対に真実へとたどり着くだろう。それだけは何としても阻止しなくてはならない。 めっちゃ反省文書かされるから!
リーシャが妖精をむんずと掴み、ええ子やねぇと頭をテキトーに撫でている。あ、人形遊び感覚でやってるのが判る。ミューンはエヘヘと喜んでるけど。妹よ、目が笑ってないぞ。
「じゃ、開けるか」
「いつでもどうぞ」
「えっ? 何その流れ」
流れに乗れてないミューンが驚いてる。もちろん決まっている。僕たちで封印された『ナニか』を対処するんだ。
まあ勝算はある。確か座学で聞いた封印術は……受け皿となる入れ物は基本的に封印されるモノの力の大きさに比例する。神様なら世界半分、古代龍なら大陸一つ、竜なら山一つという風に。目の前にある小さな木箱だと漏れ出ている邪気の少なさも考慮して、何とかなるという算段だ。リーシャの魔法もあるし、僕も武器を持っている。……ん? こんな剣で大丈夫なのか? ……ま、いいか。魔力を纏っているからそのまま叩いても効果はあるだろう。それにこんなおもしろ……いや、これは”試練”なのだ!
「うん、面白そうだ」
「アル兄さん、口に出てる」
そして……僕たちは後悔することになる。
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