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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ねえ、知ってる?二年前に閉鎖したあの廃駅の事務室にある鏡に、幽霊が憑いてるんだって

これだけは言っておきます。


無口っ娘ロリは至高です。

「ねえ、知ってる? 二年前に閉鎖したあの廃駅の事務室にある鏡に、幽霊が()いてるんだって」


「「「へー、知らなかった」」」


「……あんたらに聞いたアタシが馬鹿だったわ」


 燃えるような紅い目と髪をした少女――乾日向(いぬいひなた)はため息をつきながらそう言った。


 時間は放課後の夕暮れ時、怪談話をするにはまさにうってつけの時間帯だ。……盛り上がれる相手がいればの話だけど。


「それで、その幽霊がどうかしたの?」


「満月の夜に深夜の12時から1時までの一時間だけ現れてその人の寿命と引き換えに願い事を叶えてくれるらしいのよ……まあ噂なんだけど。それで今晩見に行くだけ行ってみないかなって」


「いいんじゃないか? どうせデマだろうけどな」


 そう答えたのは茶髪のワイルドなイケメン、平坂勇磨(ひらさかゆうま)だ。


 こいつは学校では顔が良いだけでなく性格もよく勉強もできて運動神経も抜群とかいうチートキャラで通っている……が、ある程度付き合っていればわかる。こいつはバカだ。


 勇磨は恐らく典型的な「スペックは滅茶苦茶高いけどそのぶん何処かしら壊れてる奴」だ。


 勇磨の場合その壊れている部分が人間としての知性だったんだろう。哀れな奴だ。


「……おい(たくみ)、お前今ものすげぇ失礼なこと考えてるだろ」


「いや? ただ勇磨はこんなにバカなのになんで学校のみんなは気づかないんだろうって思っただけだよ」


「てめぇにだけはっ!! 言われたくねぇっ!!」


「あぶなっ! なにするんだよ!?」


 こいつ、事実を言っただけなのに殴りかかってきやがった!


「お前には分からねぇだろうなぁ! 世界一のバカにバカだと言われたこの屈辱が!」


「誰が世界一のバカだ! 少なくとも勇磨の行動をバカだと思える時点で勇磨よりは賢いよ!」


「巧てめぇ! それは人類に言っていいレベルを越えた侮辱だぞ!?」


「明らかに勇磨の方が失礼でしょ!」


 勇磨の拳をバックステップで(かわ)しながらそう叫ぶ。もはやこの怒りはあいつの首に貫手を叩き込むまでは収まらない!


 確かに定期考査で常にトップ争いをしている勇磨に比べたら平均点の少し下程度しか取れていない僕は勉強面では彼よりバカだろう。


 でも人間性という点においてあれに負けている(はず)がない……!


 激しい怒りで胸を焦がしながらも、頭だけは冷静に相手の出方を探る。向こうもこちらを探っているのか全く動く気配がない。


 二人の間に言葉はないが、奇妙な感覚を覚えていた。先に動いた方が負ける、と。


 どうする。考えろ、考え――


「ん。暴れちゃダメ」


「クペッ!」


 突然息が出来なくなり、視界が真っ暗になる。ヤバイ!苦しい!


「平坂も構えといて」


「あ、ああ。悪い……」


 ヤバイ……マジで落ちる……。


 あまりの苦しさに意識が消えそうになったとき、ふっと首に絡まっていた腕がなくなり、呼吸が戻ってきた。


「落ち着いた?」


「けほっけほっ。……あの……(りん)? 次からはもっと優しく止めてくれると嬉しいな」


「考えとく」


 興味なさげに彼女――安静凛(あんじょうりん)はそう呟いた。


 凛は腰まで伸びた銀色の髪に真っ赤な目を持った小柄な少女で、受け答えの声も小さく触れれば壊れてしまいそうな程儚げな印象を受ける。


 しかしその実凄まじい身体能力を持っており、体力測定で何一つ上回れたためしがない。


 僕は勇磨と普段殴りあっているため同年代と比べるとかなり鍛えている。


 それでも凛の記録とは二回りも違うと言えばその力は推して知るべし。……そのため僕は彼女のことを裏でゴリラの妖精と呼んで――


「変なこと考えない」


「ずびばぜんでじだ」


 本当に反省してるのでこのアイアンクロー外してください。


「……それで、その廃駅に行くにしても何人くらい集まるんだ?」


「ここのメンバーにしか声をかけてないから四人よ」


「ん。待って」


「どうかしたか?」


 大分脱線した話を元に戻して廃駅行きの話を決め始めた勇磨達に凛が待ったをかける。


「私、行きたくない」


「あっ僕も僕も!」


 よかった、行きたくないと思ってるの僕だけじゃなかったんだ。


「一応理由を聞いてもいいか?」


「ん。抜け出すのすごく大変だから」


「そういや安静は結構良いとこの娘だったな」


「はいは~い! 僕は危なそうなことに首を突っ込みたくないでーす!」


「うーん、出来れば全員で行きたかったんだが、まあ仕方ないか」


 勇磨は少し残念そうにそう言った。


 行かなくて済んだことに胸を撫で下ろしていると、日向が凛の耳もとに駆け寄ってきて、何かをゴニョゴニョと話し始めた。


 数分後


「やっぱり行く」


「ええ!? なんで!?」


 凛が行ってみる派に切り替えた。日向といったいどんな話をしてたんだろう。


 不思議に思う僕を差し置いて勇磨は安堵した様に喋りだす。


「それは良かった。やっぱり人数(ひとかず)が多い方が楽しいからな」


「それで、集合場所はどうするの?駅に直接集合?」


「直接はなんかやだ」


「確かに現地集合は少し味気ない気がするな。じゃあ……」


 行く組が楽しく計画を立てているが唯一行かない僕は会話に参加できず、疎外感を感じる。


 でも行こうとは思わない。だってこういう時一番の貧乏くじを引かされるのは決まって僕だから。


 結局三人は最終下校時刻のギリギリまで話し合い、門が閉まる寸前で校舎から出てそれぞれの帰路についた。


 ちなみに帰る直前にやっとアイアンクローを外して貰えた。……絶対跡残ってる。




 ◇




 さあこれから寝ようかと考えていたところで携帯に通知がきていることに気づいた。


「ん? 勇磨からL○NEだ。なんだろう」


 11時半過ぎに送られてきたということに少し違和感を覚えたもののとりあえず確認してみる。


『○○駅前にさっさと来い。さもなくばこいつをバラ()く』


 次に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が送られてきた。


「イヤァァァァァァ!! 僕の黒歴史がァァァァァァ!!」


 僕は動揺で震える指でできる限り最速で文字を打ち込む。


『なんでおまえがもっててるんだ!』


『そんなことより急がないと乾と安静に押しきられて見せちまうぞ?』


 その返信を見た瞬間手頃にあったものを(かばん)に押し込み、そのまま家から飛び出した。


「行ってきます!」


「えっ? こんなじか……」


 お母さんには悪いが話している時間はない。待ってろ勇磨、今八つ裂きにしてやるからな!




 ◇




「死ねぇぇぇぇぇ!!」


「ちょっ、それは洒落になってねぇ!」


「ちぃ! 避けるな、峰打ちだから!」


「自転車に峰打ちも糞もねえよ!」


 クソッ、渾身の自転車アタックが躱されるとかどんな運動神経してるんだ?


「……あれを躱したのは凄いけど信じられないくらいキモい動きしてたわね」


「ん。比類なき必滅の槍(デッドリーグングニル)(笑)を避けるにはあれくらい必要」


「ぶふっ……た、確か……にw……そう、ね……w」


 凛が出した名前とそれを聞いて笑いをこらえる日向の姿に全ては手遅れなことを理解した。


 そっかぁ……。


 体が自然と体育座りをする。光が感じられるのが鬱陶(うっとう)しくて目を閉じて額を膝につける。


「なんで僕は人間なんかやってるんだろう……。貝になりたい」


「おい、二人ともあんまり茶化してやるなよ。黒き救世主様(ブラッキーメシア)常闇の奈落(ダークネスサイド)に落ちちまうだろうが」


「死にたい……」


 今すぐ喉をかっ切りたい気持ちで一杯になっていると、二人ぶんの足音が近づいてきて……僕の肩にぽん、と手がおかれた。


 顔をあげるとそこには凛と日向がいた。


 二人は慈愛に満ちた表情でゆっくりと口を開く。


黒き救世主様(ブラッキーメシア)、そこまでダサくないと思う(棒)」


「……格好いいと思うわよ、ぶ、黒き(ブラッキー)め、メシ……ぶふっ、ちょ、ちょっと待ってね……w、こ、呼吸整える……w、……やっぱ無理っ!」


「台無しだよ!」


 優しく慰めてくれるのかと思ったら傷口にタバスコを擦り込まれたっ!


「ん。ちゃんと耐えて」


「だって! コイツがあんな格好つけた文かいたって考えたら……っ! あはははははっ!」


 日向はお腹を抱えて狂ったように笑い続ける。かくいう僕はというと……羞恥心が一周回って菩薩のような穏やかな気持ちででそれを見つめる。


 他の人に見られたら確実に通報されるようなその光景は十分以上続いた。




 ◇




「ごめん、かなり時間とっちゃった」


「いや、そもそもコイツが遅れたのが悪いんだ。気にするな」


 そう言って勇磨は僕を指差した。……え? 僕?


「僕、来たくないって言ったよね?」


「?なんでお前は拒否権があると思ったんだ?」


 勇磨の言葉にうんうんとうなずく二人。


「おかしい、なんで僕だけ扱いがこんなに酷いんだ……?」


「いいから早く行こうぜ。誰かさんのせいで時間が押してるんだ」


「むう……」


 もっと言及したかったのだが、もう進み始めている女性陣を見て諦めた。


 勇磨は黙って歩き始めた僕を見て満足げにうなずいている。


 くそ、なんかコイツの手のひらの上で上手く踊らされてるみたいで滅茶苦茶腹立つな。


 しかしできる嫌がらせも大したことのないことばかりだし……くそう。


「なに百面相してるんだ?」


「……なんでもない」


 僕は思考を振り払い、歩き始める。


 事務室は駅の入り口付近にあり、あっさりとたどり着いた。


 しかし、


「……ねえ、これ誰が開けるの?」


「「「……」」」


 完全に錆つき、蔦が張った扉の前で立ち往生していた。


 鎖で封鎖されているわけでもなく、噂では鍵すらかかっていないらしい。


 でも、開けられない。


 だって、……今まで見たことないぐらい気持ち悪い虫がドアノブにびっしり張り付いてるから。


「……おい、巧」


「絶対に嫌だからね!?」


「普段ダサいところしか見せてないんだ。ここらで一回格好いいとこ見せたほうがいいんじゃないか?」


「余計なお世話だよ!」


 というかもし開けても全員格好いいとは思わないだろうし、確実に汚いものとして扱われるはずだ。モッ○ー知ってるよ。


 絶対に逃げ切ってみせる。そう考えたとき、凛が扉に向かってゆっくりと歩き始めた。


 ま、まさか開けるつもり……なのか?あのクトゥルフにでてきても違和感がないくらい気持ち悪い虫が止まっている扉を?


 ちらりと隣を見ると、心配そうに凛を見つめながらも無言で見守る二人が見えた。呼び止めないのは巻き添えをくらいたくないからだろう。


 視線を戻すと扉の前で立ち止まった凛が()()()()()()()()姿が目にはいった。……まさか!?


「ん」


 バガァァンッ!


「はあ!?」


 激しい音が鳴り響き、凛が蹴り飛ばした扉の残骸が部屋のなかに吹き飛んでいく。


「なるほど、賢いな安静」


「開けてくれてありがとね、凛」


「ん」


 えぇ……、二人ともなんで平然としてるの?


 目の前で起こったことの現実感のなさに茫然としていると、凛から声がかけられる。


「入らないの?」


「う、うん、入るよ。開けてくれてありがとう」


「ん」


 そう呟くと凛はさっさと入っていってしまう。


 一人だけ外で待っていてもしょうがないのでもはやただの穴になった扉をくぐる。


 中はひび割れまくった壁と扉の残骸、そして一番奥に一点の(くもり)りもない、綺麗な姿見が一つあるだけの殺風景なものだった。


「へー、結構綺麗なんだね。もっとごちゃごちゃしてるのかと思ってたよ」


「こんなにぼろぼろの状態を綺麗と言えるかどうかは微妙だけどね」


 日向が壁の亀裂を見てそう言った瞬間、勇磨は真剣な目付きで鏡を見つめはじめた。


 なにか見つけたんだろうか? とりあえず聞いてみよう。


「どうしたの? なにか見つけた?」


「いや、ちょっとな気になることがあってな……」


 そう言われ鏡をじっくりと見てみるが、特に変わったところは見当たらない。


 見回してみても木製の枠の部分に変な傷があるわけでもなく、よく見かける市販の姿見そのままだ。


「特に変わったところは無さそうだけど?」


「そうなんだが、なんか引っかかるんだよな……」


 勇磨は違和感の正体が分からず苛立たしげに頭をかく。


 力になってやりたいが、何も思いつくことは……


「あ」


「ん? 何か気づいたのか? なんでもいいから言ってみてくれ」


「うちのお母さんがこの前これに凄く似てる姿見を買ってきたんだけど……」


「ああ、うん。分かったから一生口閉じてろ」


「酷い! なんでもいいって言ったのは勇磨なのに!」


「TPOをわきまえろ」


 くそう。まあすっごい下らない話だからいいんだけどね。


「それで、その姿見なんだけどね?」


「……はあ、なんでもいいって言ったのは俺だしな。オチだけ簡潔に言え」


「大きいし目立つから結局部屋に置けなくて荷物部屋送りになった」


「本当に下らね……え…………っ!」


 勇磨は何かに気づいたように部屋を見回し、すぐさま凄く焦った表情で携帯を取り出し、何かを調べはじめた。


 なんだなんだと全員の視線が集まったところで勇磨は顔をガバッと上げ、ぼそりと呟いた。


「……ここ、割りとヤバいかもしんねぇ」


「今言うそれ!?」


 もう時計は12時の5秒前を指している。今から走っても確実に間に合わない。


 4秒前


 3秒前


 2秒前


 1秒前


 ……12時になった。


 しかし鏡になかにかが映っているというわけでもなく、自分の体にも異常は無さそうだ。


 よかった、と思ったそのとき、足下がいきなり田んぼに入れ替わったかのように感触が変化した。


「うわっ!」


 地面の感触の気持ち悪さに思わず飛びのくも、跳んだ先もやはり同じ感触がする。


「おいっ! 大丈夫か!?」


「ちょっ、それ大丈夫なの!?」


 かなり必死の形相で日向と勇磨が詰め寄ってくるが、足下の感触が変化した程度で大した被害はない。


「うん。靴の中に泥をいれる幽霊だったみたいで、地面の感触がちょっと気持ち悪いけど大したことないよ」


「絶対ちげぇよ!とりあえず鏡みろ!」


「なんでそんな焦ってる……の……まじですか」


 そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()が映っていた。


「なにこの鉄分不足か肝臓やられてるっぽい人!? しかもよく見たら体沈んでるし!? ちょ、二人とも見てないで僕を引っ張って!」


「……なんか、余裕そうね」


「……ひとまずギリギリになるまで置いとくか」


「なんで!?」


 なんで二人ともそんなのんきなんだ!? くそ、やっぱり自分の身は自分で守るしかないのか!


 僕は急いで鞄を開け、除霊できそうなものを探す。せめて塩的なものがあれば……これはっ!


 つポテ○チップスのり塩味


 いける……か?


 袋を開け、パリパリと食べこぼしが幽霊に当たるように食べていく。


 幽霊は全く気にも止めずに僕を引きずりこみ続けている。


「分かってたけど全然効かない!……美味しい」


「逆になんで効くと思ったんだよ。しかも直接かけるんじゃなくて食べこぼしかよ……」


「だってもったいないじゃん」


 食べこぼすのもかなりもったいないが、直接かけるよりはましだ。


 まあ効かないって分かったから残りは普通に食べるけどね。


 パリパリと一袋食べ終わる頃にはかなり気持ちが落ち着いてきた。食べ物の力は偉大だね。


 しかしその間も体は沈み続け、もう腰から下が全て埋まってしまった。そろそろまずいだろう。


「で、実際のところどうする? あと日向は笑いすぎ」


「だって……のり塩除霊……あはははははっ!」


「日向のことは諦めろ。助かる方法を考えた方が建設的だ」


 とりあえず部屋を見回してみると、ここに来てから完全に空気だった凛の姿が目に入る。


「……なにしてるの?」


「清めの塩を手にすりこんでる」


「……なんで?」


「ん。こうするため」


 そう言うが早いか残像が残るような速度で幽霊に近づき、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 グシャリという音が聞こえてきそうな勢いで幽霊の頭が弾け飛び、残った体もさらさらと消えていく。


 消えゆく幽霊に凛はぼそりとひと言呟く。


「私のおもち……大切な人に手を出したのが運のつき」


「え?」


 ……え?


 その瞬間姿見に大きな罅が入り、埃の被った古くさいものへと変化した。


 それにともなって沈んでいた体も気づけば元のコンクリートの床にたった状態に戻っていた。


「お、ちゃんと戻ったな。よし、じゃあ帰るか!」


「はあー、やっと笑いが収まってきた」


「ん。早く帰ろう」


「ちょっと待った!」


「なんだ? 眠いから早くしてほしいんだが」


 勇磨がめんどくさそうにこちらを見てくるが、これだけは譲れない。


「みんなと僕とで凛に対する認識に大きな差がある気がする「解散」ちょ、ちょっと待ってよ!」


 凛の号令でぞろぞろと出口に向かって歩きはじめたみんなを慌てて追いかける。


 部屋を出たところでふと振り返ると、ひび割れた鏡がなんだか寂しそうに見えた。


 もしかして寂しかったから僕を引きずりこもうとしたんだろうか?


 そんな気がして何となく鏡に手を合わせ、拝んでおく。安らかに眠れますように、と。


「おーい、本当に置いてくぞー?」


「あ! ちょっと待って!」


 勇磨の呼びかけに凛の被害者(ゆうれい)に拝むのを止め、駅の出口に向かって走り出す。


 気のせいか、後ろからありがとうと声がかけられた気がした。




 ◇




 あのあと自然解散となり、凛についてもうやむやにされてしまった。


 でもやっぱり金属製の扉を蹴り飛ばしたり僕をおもちゃとして認識していても驚かないあたり絶対変なんだよなぁ。


 そしてあの廃駅は取り壊しが決まったようだ。


 元々壊す予定だったそうだが、駅員が持ち込んだ姿見に地下に埋まっていた遺骨の霊がとりついて工事が出来なくなって、結果廃駅として心霊スポットに、ということらしい。


 姿見を持ち込んだ駅員はその霊の末裔だったそうで、姿見をそこに設置したのも半ば無意識だったそうだ。


 まあ全部日向から聞いた話だからどこまで正しいかわからないけど何となく信憑性(しんぴょうせい)は高い気がする。鏡の噂も半分本当だったし。


 でもまあ生きて帰れただけ儲けものと考えとこう。


「巧! てめぇよくもやらかしてくれやがったな!」


 ……うん、現実逃避はここまでにしないとマジで殺されそうだ。


 僕は今勇磨と命懸けの鬼ごっこをしている。


 ことの発端は帰り道に返してもらった黒歴史ノートだ。


 燃えるごみに捨てる前に一応パラパラとめくってみたら全てのページに点数と添削が書き込まれてた。


 そりゃまあ発狂するよね。で、あいつにも同じ苦しみを味わせたいと思うでしょ?


 だから勇磨のお母さんと妹に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を送りつけるでしょ?


 じゃあこうなったよね。しかし後悔はしていない。ざまあみやがれ!


「諦めてさっさと止まれ! 今ならひき肉にする程度で許してやる!」


「それ死んでるじゃん! 許す気が微塵も感じられないんだけど!」


「当たり前だ!」


 そう言う勇磨の声は少しずつ近づいている。


 焦って廊下を曲がったとき、岩にみまごう何かにぶつかった。


「ぶへっ! 一体何が……おはようございます増田先生」


「ああ、おはよう西浦。言いたいことは分かるな?応接室に来なさい……もちろん平坂も一緒にな」


 卑怯にも逃げようとした勇磨の背中にゴリマッチョこと増田先生はそう声をかける。


「「……はい」」


 その後ゴリマッチョのありがたいお言葉と反省文のダブルパンチをくらい、勇磨と二人仲良く燃え尽きた。

悲報、日向がゲラになってしまう。


本当はこんな風になるはずではありませんでした。次回から気を付けます。


ここで軽いネタばらしを。


勇磨は駅の事務室に姿見があることに全く違和感を覚えなかったことに気づき


→そういや閉鎖から二年にしてはズタボロすぎじゃね?


→というか姿見埃一つついてなくね?


→調べたらここ昔墓地だったのかよ。やばくね?


といった感じでヤバさに気づきました。


ちなみに凛は巧のことが気になっており、巧の前ではかなり力をセーブしていました。


でも他のところでは範馬勇○郎もかくやという力を発揮していたので日向と勇磨は驚きませんでした。


あと巧が見てて面白いおもちゃなのはクラス全体の共通認識なので、そりゃ驚きませんよね。


他にも色々考えてたんですが、上手く話に組み込めずそのまま記憶の彼方に飛んでいってしまいました。(仕方ないという許容の心)

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