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約束のサラダランド

俺の名前はカズキ、ミートキングダム第一王子にして英雄「メタボリック」の称号を賜りし勇者だ。

長い長い旅の果て、俺はついに魔王城に辿り着き最終決戦に挑むのだった。


「フハハハハッ!愚かなる勇者よ、我は無限!我は混沌!我は常闇!いかに貴様の力が絶大であろうとも我に刃が届く事は無いのだ!」


全長20メートルにも及ぶで有ろう巨体から発せられる悪意に一瞬意識が飛びかける。

…が、俺の脳裏にいままで出会った人々の笑顔が過ぎる。

あの笑顔を曇らせている巨悪の根源が今眼前に居るのだ。

命に代えても使命を成し遂げなければならない。


「世界に平和をもたらすためにも、俺はこんな所で倒れるわけにはいかないんだっ!皆っ、力を貸してくれ!!」


ここまで一緒に旅してきた美しき魔法剣士と可愛らしい大魔導師に俺は目線を送る。

すると、可憐な二輪の花々は俺の視線に呼応するが如く最後の力を振り絞り立ち上がった。


「アナタなんかに世界を崩壊させるわけにはいかない!」


「私だって伝説の魔導師の末裔なんだからっ!」


2人を見ていると不思議と俺にも力が湧き上がってくる気がした。


「太陽神アポロンよ!カズキに力を!!」


「月の女神アルテミスよ!聖剣フォアグラに力を!!」


2人から解き放たれた暖かで力強い魔力が、俺と愛刀である聖剣フォアグラに注がれていく。


「破壊の神よ!闇に帰れ!トリプルパウチスラアッシュッッ!!!」


混ざり合った3つの力が1つになり、その力は3倍…いや10倍…いやもう景気良く100万倍になり、魔王が呼び出した破壊の神は消滅した。


こうして俺の必殺剣トリプルパウチスラアッシュッッ!!!…によって世界は守られた…はずであった。

はずであったのに…


「トリプルパウチスラアッシュ!トリプルパウチスラアああああっしゅ!!ダメだ全然出ないいいいっ!た、助けてーーー!!」


「ええ加減観念してグルグル巻きになりなはれー!そんで顔面舐めまわさせてーな!」


「フシュー!フシュー!腹のニグをギラゼナさーい!!」


「いやあああああああああー!!お助けーーー!」


ある日心筋梗塞で命を落とした俺は、友達が居なさそうで滑舌の悪い自称女神にダイエットをするよう強制され異世界「地球」の日本と言う国に飛ばされてしまう。

嬉々として進まないダイエットに痺れを切らしたボンクラ無能クソ女神はダイエットコーチと称して大天使達…大天使??…達を俺に嗾しかけ、無理やり走らせてダイエットをさせようと言うクソみたいなプランを実行したのだった。


…そして1時間後。


「ゼエハア…ゼエハア…な、何とか逃げ延びた…多少顔面舐めまわされたけど…」


「ベチャベチャですねマスター。生ゴミのようですよ?」


「やかましいわ!」


「どうですか?美しき私の偉大な作戦は?少しはカロリー消費して駄肉は減りましたか?」


「駄肉って言うな!!あと、1時間前にも言ったがこんな急激な運動したら心筋梗塞が発病する前に俺死んじゃうよ??違う方法にして、お願いだから!」


「もうっ、ワガママですね貴方は。まあ仕方ありません。全知全能の女神で有るこの私が違うプランを考えてあげましょう。」


「自画自賛が酷いな!…もう運動系は辞めてくれよ?」


「運動系で無いとすれば、、、食事制限ですね。」


「食事制限!!あ、あの邪教徒が年末年始とかに薄暗い洞窟でやっていたあの食事制限!?」


「マスター、それは狂った貴方の国ミートキングダムだけです。普通は食事制限くらい女子中学生でもしていますよ?」


「狂った国って言うな!」


「とにかく、肉や米ばっかり食べているから痩せないのです。貴方にはしばらく野菜生活を送ってもらいます。」


「や、野菜っ!?あの下級国民が食している雑草の事か!?あんなカロリーの無いものを王子であるこの俺に食えと言うのか!?バカなっ!?」


「野菜農家に土下座して下さいマスター。」


「土下座とな!?」


「今すぐ焼き土下座して下さい。」


「焼き土下座とな!?」


「…まあ、貴方の事ですから赤ちゃんみたいに「野菜食べたく無いでちゅママー」とバブバブ文句を言うのは想定していましたよ。」


「なんて!?」


「そんな事もあろうかと」


「いや無視しないで?」


「野菜の精霊をお呼びしておきました!」


言うやいなや、女神の前の空間が歪み、中からスラリとした幼子が現れた。


「ネギの精霊・スプリングフィールドです。」


「お野菜食べて…ね?お兄ちゃん♫」


上目遣いで懇願するようにこちらを見てくるネギの精霊スプリングフィールドの言葉に対して、俺は熊ん蜂が毒針を敵対生物に容赦なく刺すような鋭さで即答した。


「断る!!」


「「あれ??」」


なぜか女神と精霊が同時に首を傾げた。


「おかしいですね?世の中の男はみんなロリコンだから幼女のお願いは絶対断れない…と書いてあったのですが…。」


「何だその歪曲した知識は!?ソースはどこだよ!?」


「天界の大人気作、タピ・岡太郎先生の100万部越えの大ヒット書籍【異種族性癖レビュアーズ】に…」


マジか…天界大丈夫か??


「女神様、その知識はかなり偏っているかと。」


女神が遣わしたはずのナビゲーターシステムであるファム・チャウも流石に呆れ顔で否定した。


「そもそも、幼女だろうが熟女だろうが、そんなヒョロヒョロガリガリの女に俺が絆される訳が無いであろう!全くもって趣味じゃ無いわ!!」


「成る程、スリム系はダメですか。ならば…これならばどうですか!?召喚!!!」


またしても女神の前の空間が湾曲し、先程の精霊よりも一回り大きな女が現れた。


「人参の精霊・バニーパフパフレシアです。」


「ちょっと君、野菜…食べてくれるわよね?」


目の前に現れた巨乳女の問いに対して、またしても俺は獲物を天空から素早く捕食する鷹の爪の様な鋭い切り返しで答えた。


「断る!!」


「アッレー??ナンデー??男はみんな巨乳バニーにイチコロだってタピ・岡太郎先生の著書【異世界人類ポカン計画】に書いてあったのに!?」


「お前は一回タピ・岡太郎から卒業しろ!あと多分タピオカあと一年ぐらいで消えるから!ブーム終わるから!」


「そうです!アレは一過性のブームです!みんなそろそろ味が無くて上手くも不味くも無い事に気が付きますから!!そのくせカロリーがめちゃくちゃ高い事にも気がつきますからー!!」


ファムまで錯乱して訳の分からないことを叫び始めた。


「ええ〜!?」


女神も自信が遣わしたナビゲーターシステムの突然の反乱に困惑の表情を浮かべた。


「だいたいなぁ。あんな胸とケツがボンって出ていて腰がキュッと括れてる奇妙な体型のやつなんか気持ち悪すぎるだろ!!本当の魅力的な体型ってのはな、上から120・120・120みたいなボンボンボンのドラム缶体型の事を言うんだよ!!」


趣味の悪い女どもに俺は悪魔を貫く聖剣エクスカリバーの様な鋭さで高らかと宣言した。


そんな俺をめちゃくちゃドン引きした様な、信じられない汚物を見る様な目で見てから、ファムチャムは呟いた。


「…すみません女神様、一番歪んでいたのはタピ・岡太郎の本の知識では無く、コイツの性癖でした。」


「酷く無い!?」


「成る程、可哀想に。」


「ねえ酷く無い!?」


「ではそんな性癖歪みまくりのゴミ…では無く貴方の為に、とっておきの精霊を召喚して差し上げましょう。」


今ゴミって言った?

ゴミにゴミ扱いされた気分。


「ジャガイモの精霊・ジャガー横美ちゃんです。」


女神の眼前の空間が三度歪み、そこから先程のバニーパフパフレシアよりもさらに一回り大きな女が姿を現した。


顔と身体の境界線である首が、顎の肉で埋もれ確認できず、ウエスト、バスト、ヒップが均等に肉付けされている為、その境界も確認できない。

さらに手足も短く申し訳程度に付属している様にしか見えない。

これは…この姿は…円。

そう。

楕円形だ。

楕円形の女がフヨフヨと近づいてきて俺の前に止まった。


「ジャガー横美だす。オラが作った野菜料理、うんめーから食べてけろ。」


しゃがれた声でジャガー横美は俺に囁きかけてきた。


「い、いや女神様!いくらマスターの性癖が歪みまくっているからと言っても、いくらなんでも流石にコレは」


ファムが何か言いかけたその時、俺は思わず口走ってしまった。


「美しい…。」


「え?…え??」


ファムが引きつった顔でこちらを二度見した。


「こんな理想的な体型の女性、わが故郷ミートキングダムにも存在しなかった。ぜひ、貴方の手料理を毎日食べさせて下さい!」


「え、それって」


「僕と一緒に、暮らしてくれませんか?」


「えーー!?」


ファムと女神の声が、祝福の鐘の音の様に天高く鳴り響いた。


こうして俺、ミートキングダム第1王子カズキとジャガイモの精霊・ジャガー横美は同棲生活を開始したのだった。


続く→

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