肉滅の刃
俺の名前はカズキ、ミートキングダム第一王子にして英雄「メタボリック」の称号を賜りし勇者だ。
ある日心筋梗塞で命を落とした俺は、友達が居なさそうで滑舌の悪い自称女神にダイエットをするよう強制され異世界「地球」の日本と言う国に飛ばされてしまう。
俺は大天使に全力マラソンさせられたり、同棲したり別れたり、食決闘に快勝したり、てんやわんやな毎日を過ごしていたが…そんなある日、自称女神の改造手術により異世界ナビゲート妖精のファムが身勝手の極意に覚醒。
調子に乗ったファムは俺を必殺のファムハメ波で
彼方まで吹き飛ばしたのだった。
「ふむ。なかなかのパワーですね。」
腕をコキコキ鳴らしながら空中でこちらを見下す様に見据えるファム・チャウ。
「ちょっとファム、いくらなんでもやり過ぎよ!カズキ、心筋梗塞で死ぬ前に普通に死んじゃうわよ?」
諫める自称女神に対してファムは意外な行動にでた。
「ペッ!」
ペチャ!!
「ぎゃあ!?汚い!!」
なんと唾を吐き掛けたのだ。
「な、何をするのです!?」
「女神様…ちょっと思ったんですが、この力、神の領域に達しているんですよね?」
「え?…ええ、身勝手の極意は神の身技です。神の中でも上級神にしか扱えない極意ですが…」
ファムの口元がニヤリと歪む。
「じゃあ、女神様。この力が有れば貴方を倒すことも可能ですよね?」
「…え?」
何を言われているか分からず惚けた顔をする女神。
「ずっと思ってたんですよ。ワタシは何の為に生まれたのかって。一生マスターの肩の上でフワフワと、自堕落な生活を送り続ける贅肉の塊を眺めている人生なんてごめんなんですよ。」
「覚醒しても相変わらず口が悪いな。」
「だまりなさい駄肉。」
ファムの気が暴力的に膨れ上がる。
「うわ、恐っ!?」
「最初はマスターのせいだと思っていましたが…よくよく考えてみると全部女神様のせいじゃあないですか。」
「え!?何でわたし??」
「貴方がこんな仕事をワタシに与えたから、ワタシがこんな肥溜でどぶさらいみたいな事をしなければならないのですよ。」
「酷すぎない?」
「だまりなさい駄肉。」
「2回目!!」
「ちょっとファム!仕事が辛いのは解るけど、ちゃんと対価を払っているでしょ!日給1500円!」
「「安いわ!」」
あ、ハモっちゃった。
「それに…たとえ日給が倍の3000円だったとしても…」
「どっちにしろ安いな。」
「そのお金を使う暇が無いのです。休みが無いのです。ブラック企業も逆立ちしてゲロを吐くレベルですよ。」
「なにその例え。」
「だからワタシはこの神の力で貴方を…いいえ、この世界を滅ぼす事にしました。」
「な!?ファムお前!」
「何ですかマスター。何か文句でもあるのですか?文句があるならば力尽くで止めたらいいじゃないですか?まあ肥に肥えた貴方ではワタシには指一本触れられませんがね。」
「お前の言い分は分かった。だがな…」
「だが、何ですか?」
「恨むから女神を恨めよ!女神一人を!!」
「え?」
「は?」
「悪いのはこの自称女神だろ!?俺や世界を巻き込むなよ!」
「ちょっと!何で私を生贄にしてるんですか!?」
「いや事実だし。」
「ファム!恨むならカズキ一人を恨みなさい!さあこの豚を殴るなり蹴るなりしてストレスを発散するのです!」
「おいーっ!それが仮にも女神の言うことか!!」
「醜い。神も人も醜い。やはり全てを滅ぼします。」
「ちょっと!どうするんですかカズキ!?」
「知るかよ!?お前女神だろ!何とかしろよ!」
「私は記憶と喜びと舞踊の女神ですよ!?人に力を与えたり人を移動させたりは出来ますが戦闘能力は皆無なんです!」
「あー、なんか第一話でそんな事言っていたな!みんなもう忘れてるわそんな設定!」
「皆んなって誰ですか!?」
「読者だよ!」
「メタ話はもういいですか?そろそろ滅ぼしますねー。」
「いやちょっとストップストップ!ポップストップストラップ♫なんてな!」
「はいつまらないでーす。どーん。」
そう言うとファムは手から破壊光線を放った。
ドッカーーーーーン!!!
街が半壊して消え去る。
「うっそーん!?街滅んだ!?」
「手加減しすぎました。次は日本を沈めますねー。」
「マジかよ、これギャグ小説じゃなかったっけ?」
「し、仕方ないですね。これ以上この世界を破壊されるわけにはいきません。本当は規約違反なんですが…」
全部の元凶女神がなんかぶつぶつ言い出した。
「仕方ありません!特例です!カズキ、貴方に元の世界、ミートキングダムにいた頃の魔力を戻してあげます!」
「は?そんな事出来るのかよ!?」
「掟破りの裏技です!本当は絶対やっちゃいけないんです!政治資金横領みたいなモノです!」
「それは皆んなやってるだろ!?」
「怒られる!怒られるからやめて下さい!!」
「…まあイイや。」
「とにかく、今から魔力を戻しますからファムを止めるのです!!」
「は??何で俺が??お前が原因だろ!?止めるのです!じゃなくて止めて下さいカズキさん!だろ!?」
「うぐっ…この男!この局面で!!」
「え?なに?聞こえなーい。」
「と、止めて…下さい。」
「カッコいいカズキさん。」
「か、カッコイイカズキサン!!」
「しっかたねーなー。」
「くっ…屈辱。」
スッゲー気分が良い。
「では魔力を戻しますよ!ほんじゃらけーほんじゃらけー」
「まて?何だそれ?ふざけてんのか?」
「儀式の呪文です!ほんじゃらけーほんじゃらけーパッパラパーのプピレットパロ!」
クネクネ踊りながらアホズラを晒している自称女神。
うむ、気持ち悪い。
「魔力よ!もーどーれっ!!」
クンッ!
ぐわわわわわわわわわわわわわわわわっ!!
物凄い勢いで力が溢れてくる。
「呪文と踊りは馬鹿丸出しだったが…」
「だまりなさい!」
「まあ、力はまあまあ戻ったな。」
「まあまあ?」
「全盛期の三割位だな。」
「え!?何で!?」
「まあ環境の違いとか食べ物の違いとか気圧とか寒暖差とか色々だろ?」
「ヤブ医者ですか!?ヤブ医者の診療結果ですか!?」
「ふふふ、女神のアホアホダンスが面白かったから待ってあげていましたが…」
「アホアホダンスって言うな!」
「残念でしたねマスター。」
そう言うとファムはゆらりとその死神の鎌とも取れる右腕を翳したのだった。
続く→