食戟のミート
俺の名前はカズキ、ミートキングダム第一王子にして英雄「メタボリック」の称号を賜りし勇者だ。
ある日心筋梗塞で命を落とした俺は、友達が居なさそうで滑舌の悪い自称女神にダイエットをするよう強制され異世界「地球」の日本と言う国に飛ばされてしまう。
そんなある日、日本の医療機関に入院していた俺の前にリスナー募集で勝ち残ったキャラクター、豆腐料理人の刻み海苔 (名前) が立ち塞がり、俺に食決闘を仕掛けてきた。
「私のターン!包丁をドロー!まな板を水洗いしてターンエンド!」
「俺のターン!フライパンをフィールドにセット!エプロンを装備してターンエンド!」
「私のターン!私は…」
「ちょっと待ったああ!!」
「ん?」
「何ですか?盛り上がっているのに?」
「いやいや、何ですか今の!?何でいちいち「私のターン」とか「俺のターン」とか言うんです?あと何でいちいち交互に行動するんですか!?」
「いや、食決闘のルールだから。」
「そんな事も知らないんですか?女神のくせに?」
「なんかポット出のキャラにまでdisられたんですけど?」
女神が反ベソをかいている。
清々しい気分だ。
「水を刺されましたが続けますよ!私のターン!豆腐のパックのビニールを破ってパック内の水をシンクに流してターンエンド!」
「俺のターン!冷蔵庫からバターを召喚!」
「もう好きにして下さい。」
この後、食決闘は30分程続いたが、絵面が地味なので割愛する!!!
ある意味ターンエンドだ!!!
30分後。
「完成したわ!」
一足先に刻み海苔が高らかに宣言した。
得意げな表情で俺を含むその場の全員の前にとっておきの一皿、スペシャリテを差し出す。
「冷奴と蒸し鶏のレインボーサラダよ!さあ食べてごらんなさい!」
その皿は、まさに虹の宝石箱の様な煌びやかさだった。
「こ、これは…豆腐の上に…まるでケチ臭い庶民のフグ刺しの様に薄っぺらくスライスされた蒸し鶏が薔薇を象るかの様に飾られているわ!!」
言い方下手くそか。
「さらに周りにはサイコロ状に切られたサーモン、アボガド、チーズ、トマト、そしてまさかの苺にハバネロにコーヒー豆??あと…こ、この白い塊は何??」
「ふっ…それは角砂糖よ。」
「か、角砂糖!そんな物入れたら味が滅茶苦茶に!」
「良いから食べてみなさい。食道楽と言う名の天国へ誘ってあげるわ!」
ゴクリ…
女神とチャムが生唾を飲み込む音が聞こえて来る。
期待と不安を孕んだ表情を浮かべ二人は刻み海苔の料理を口に運んだ。
刻み海苔、名前ね。
ワカリニククテゴメンネ。
冷奴と蒸し鶏のレインボーサラダを食べた瞬間!
ビリビリビリビリビリビリバーイーンっ!!
…と二人の服が破れて弾け飛んだ…ら楽しいんだけど、あくまでイメージ。
「こ、これは…薄くスライスし過ぎたせいで蒸し鶏の味も食感も完全に消えているっ!まさにインビジブル!」
「さらにハバネロの辛さと苺と角砂糖の甘さ、サーモンの油臭さにコーヒー豆の苦さと…何だろうこれ、硬いジョリジョリ感!これら全てが混じり合って複雑なハーモニーを奏でています!」
「そしてそのハーモニーが邪魔をして豆腐の味も食感も消えている!まさにインビジブル!!」
インビジブル気に入ったのかな?この解説下手くそ女神。
「どう?私のスペシャリテ、冷奴と蒸し鶏のレインボーサラダ、略してヒヤトンボーの味は?」
略し方の癖が強い。
遥か高みから見下ろすように勝ち誇る刻み海苔 (名前)。
その声に呼応するかの様に女神とファムが答えた。
「「クッソ不味いわ!!」」
「…え?…え?え!?まずぃ???」
まさかの評価に大混乱する刻み海苔 (名前)
「素材自体にはたいして手も加えていないのになんでこんなに不味く仕上げられるのか不思議だわ、一周回って天才的よ!」
「これで学園2位の実力とか、美的センスだけでは物足りず味覚までぶっ壊れてるんですかミートキングダムの人って?」
辛辣な酷評に顔を歪めながらワナワナ振出す刻み海苔。
今にも泣き出しそうである。
「おいお前らもうやめてやれ。コイツのライフはゼロだぞー。」
たまらず仲裁に入る優しい俺。
「くっ…ま、まあいいわ。こんな低級な女神とナビゲート妖精なんかに私の崇高な料理が理解できるわけが無い。要はカズキ王子!貴方の舌を唸らせれば良いだけの話なのよ!」
仮にも女神にスゲェ言い様だなぁ。
「さあ、お食べなさい!私のスペシャリテを!!」
そう言うと刻み海苔は俺にずずいと皿を差し出して来た。
「食道楽と言う名の天国へ誘ってあげるわ!」
「それいちいち言わなくちゃダメなの?
決め台詞なの??
恥ずかしいんだけど。」
「いいから早くお食べなさい!」
ぷりぷりしながら刻み海苔が俺の口に冷奴と蒸し鶏のレインボーサラダをスプーンで突っ込んでくる。
「あーん♫」的な構図になってるからやめて頂きたい。
寸胴パンパン美女ならともかくこんなボッキュッボンボディーの女からあーん♫されても嬉しくない。
何はともあれ、俺は口の中に入ってきたソレをクチャクチャ咀嚼した。
「うむ…。」
「ど、どう?私のスペシャリテは?」
心なしかこいつの顔が恥ずかしがっている様に見える。
結局自分も恥ずかしいならあーん♫なんかしなければ良いものを…。
「なるほど、味は結構美味いな。」
「で、でしょ!そうでしょ!!美味しいでしょ!」
そう言うと、刻み海苔の顔が満面の笑みで満たされる。
ぷりぷりしてばっかりだったから気付かなかったがこんな顔も出来るのか。
惜しいな。
あと20キロほど贅肉が腹回りに有ったならばグラビア肉ドルにも慣れたかもしれないのに。
「あ、アレを美味いとか…やはり味覚がやられちゃってますね…。かわいそうに。」
「もう良いところが殆ど残ってませんねマスター。」
「外野は黙ってろ。コホン(咳払い)。だが刻み海苔よ、お前の料理には決定的に足りない物がある。」
「な、何ですって!?」
刻み海苔の顔から笑みが消える。
「俺のスペシャリテを喰えば解るさ。」
そう言うと俺は手早く料理を皿に盛り付け、外野2人も含めた三人の前に配膳した。
「さあ、おあがりよ。」
「…うわぁ、この人ソレを言っちゃいましたよ。いまや松岡禎丞さん以外言わないと言われているセリフを…。」
「貴方に似合ってるセリフはむしろアレです。怠惰です!怠惰ですってヤツよマスター!マジ引くわー。」
「やめて下さい。良いから冷めないうちに早く食べなさいよ!お皿が片付かないでしょ!」
「昭和のオカンですか!…で、コレは何なんです?」
「ふふ、この料理は…」
何となく週間連載漫画みたいな引きでお料理対決は後編へ続くのであった。
続く→