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古典落語 禁食欲門番

作者: コータ・ツー

食欲は三大欲求の1つ。

大食、少食、肥満、痩身、多いにせよ少ないにせよ、適量が要である。特に悪いのは暴食。

有名どころでは、七つの大罪にも挙げられる。そんなお話。



その昔、王さまの主催するお茶会が開かれた。

その宴席で、出された食べ物の怨みが絡んで、相手の若者を殺めてしまった。事が及んで、ハッと冷め、慌てたが後の祭り。

結果、自分の命で償うこととなった。

食べ物のせいで若者二人を亡くした王さまが、質素倹約令を出した。


最初の内は禁令が守られていたが、その内グズグズになって、禁令何処吹く風になってしまった。

これでは二の舞だということで、見張り門を立てて、禁令の取締と贅沢・高級食材品の持ち込みを厳しく取り締まった。

これを誰言うとはなしに

禁食欲門番《gatekeeper(ゲートキーパ)gluttonies(グラトニィーズ)

と呼んだ。


ある時、食べることが何よりも好きな伊達さまが贔屓の屋敷前の飲食店を訪れ、あれだこれだとに旨そうに平らげた。

そして帰り際、

「金に糸目は付けないから、寝る前のオヤツにクレマドールヨーグルトを届けてくれ。食べて寝ちゃえばカロリーゼロだから」

と言い捨てて、店を出ていった。


店の者は常連中の常連である伊達さまの言うことと、禁令の事情が充分判っているので、さあ困った。

小僧の一人が、高級食材をもっては門をくぐれない。

そこで店の者が重湯を積めた瓶の中にクレマドールの瓶を用意し紛れ込ませれば、分からないという一計を案じた。


すっかり支度を整えて、門を潜ろうとすると

『おまえは何者だグア?』

店の者はびっくりして、声の方を向くと、

ダルッダルのシャツを着ているシワクチャの犬が座っていた。

『おまえは何者だグア?』

犬が喋っていることに驚き、それが門の番人(人?)だと気がつくと、更に驚いた。

だが動揺して荷物の中身が露呈しては、捕まってしまう。

店の者は動揺を隠しつつ

「向こう町の重湯屋です。伊達さまのご注文で、濃いめの重湯を持参しました」

『伊達はグルメだグア。もしかして体調悪いのグア?この門を司る者として、手落ちがあっては困るグア。検分するグア』

「小分けした瓶詰めを箱にお納めしております」店の者が箱を差し出す。


番人が瓶詰めにトコトコ近づき、クンクンし始めた途端に、口からヨダレがダラダラ落ち始める。

『ヨダレセンサーが働いたでグア。怪しいものグア。取り調べるグア。』

「ヨダレセンサー?」

『この小瓶は何だグア。重湯にしては甘い臭いだグア。甘い重湯グア』

変な汗がじわりと滲んだが、そこは商人根性で

「胃腸に優しいヨーグルト重湯です」

とポーカーフェイスで答える商人。

『調べるから皿もってこいグア』

と言うと、ヨーグルト重湯ならぬクレマドールヨーグルトを舐めまくり

『げふー。これは結構なヨーグルト重湯だグア』

その上で

『偽り者め、ここは通さぬ。立ち帰れ!』


スゴスゴと後退りで店に戻り、またまた作戦会議。

今度は豆腐屋に変装して、豆乳だと言って通ってしまうと言い始めた。

支度を整え、

「お願いでございます」

『何事か…申し述べ……ゲフー……』

先程と違って、門番がゲップしている。

「とうふ屋です。伊達さまに豆乳のお届け物です」

『伊達に届けるゲフー?間違いがあっては困るグア。小瓶であっても検分するグア。ヨーグルト重湯の件もあゲフー。ヨダレセンサーも反応しとるし調べるグア』


検分と称して、またしても一瓶。

『ヨーグルト重湯の味がするグア。豆乳と逸話りおって逮捕すゲフー……、今は動けんから帰れグア』


またまた店に駆け戻り

「また食べられた。これで2瓶目だ」

さすが高級食材だと、何としても届けてお支払いただかないと店も成り立たんと、商人たちもなにか良い知恵はないかと意地になり始めた。


「店長さん、『偽り者、偽り者』と言われて、黙っていられますか。今度は仇討ちに行かせて下さい。」

と番頭が言い始めたが、店長は

「良い案がないとダメだよ。今度食べられたら3瓶だよ。もう在庫がないよ」

とウンウン唸りながら答える。

「いえ、今度は違う乳製品を持っていくんです」

「そんな事したら、門番の摂取カロリーが大変だ」

「何の心配しているんですか!」


ヒマラヤチーズの塊を取り出して、

「大丈夫です。チンして膨らんだヤツを持って行くのです。それを食べたら胃袋も限界でしょう。オ~イみんな、チンしまくってくれ」

と言う訳で、皿一杯にチンしたヒマチーをてんこ盛りにした。


「お願いでございます」

『ゲフーゲフーグア』

門番はヘソ天で仰向けに寝転がってゲフゲフ言っているだけだった。

「伊達様のお届けです」

『何者だグア』

「向こう横町の牛乳屋です」

『何を持参したグア』

「ヒマラヤチーズです」

『ん?なんと言ったグア』

「ヒマチーです」

『バカ。略してどうするグア』

「チンしてきました」

ヨダレセンサーが激しく反応していて一筋のヨダレがこぼれた。

『出すグア。全部出すグア』

「ごゆっくりとお調べください」

『手落ちがあっては困るので取り調べるグア。たとえヨーグルト重湯だろうが豆乳だろうが、ヒマチーだろうが』


暫く検分した後、ヘソ天、大いびきで寝始め、見張り門はフリーパスなった。

後に、門番は交代することになる。

お医者さまの一言によって。

「食べ過ぎで肥満体になってますね。カロリーを控えて、運動するようにしないと」

まん丸と肥えた門番が答える。

『役目があるグア。検分せずにはいられないグア。』

「だからって、全部たいらげなくても。自慢のお鼻で嗅げば分かるでしょうに」

門番が言い返した。

『出された物は残さず食べるグア!』

門番の体重は今日も増える。

この後、門番はキッチリダイエットする羽目になりました

とさ。

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