mix candy
キーン・コーン・カーン・コーン
キーーン・コーン・カーン・コーン
ジジジジ・・・・
チャイムが響く校内。
柔らかい日差し。ほどよく漂う雲。
ふんわりやわらかい風と一緒に舞う
桜の花びら。
自転車は颯爽と桜の花びらが
敷き詰められた道を駆けていった。
「大島これいる?」
「ん?あーいるいる。」
マリは左手をハンドルから離して、
コウタの手のひらへ桜色のキャンディーを置いた。
渡されたキャンディーを不思議そうに眺める。
「桜の飴?珍しいなー。」
「お姉ちゃんのお土産ー。なんか奈良行ってきたみたい。」
「へー。奈良って面白いの?」
「あー。面白いとこってか、彼氏の家が奈良なんだってー。」
「あー。なるほど。」
2人はたんたんと会話をしながら坂道を下る。
「あんさー・・・。」
「何?」
「ニンテンドースイッチがなぜか家にあるんだけど」
「何で?わけわかんなけど羨ましいんだけど。」
コウタは少し考えて、
マリにさりげなく言った。
「うち来る?」
マリも少し考えて、答えた。
「いいよ。」
自転車は坂道から平坦な道に。
住宅街を潜り抜け、
静かな路地へとすすんだ。
コウタはマリの前を走った。
マリはコウタを追いかけた。
そしてコウタが止まって、
マリも止まる。
「ここ。」
「へー。」
少し小さな今風の一軒家が
コウタの家だった。
コウタとマリは家の前の塀に
自転車をとめて、家へと入った。
コウタは玄関でひとつの事に気づいた。
「あれ?」
「どうしたの?」
「兄貴おる。」
「あんたお兄ちゃんいるんだ。」
「あれ?話さなかったっけ?」
「さー?」
廊下を歩きながら、
リビングへ2人は向かった。
かすかな電子音がリビングに
近づくたび大きくなっていく。
コウタはマリに「ちょっと待って。」
と言って、リビングの扉を開けて
中にいる人に何かを告げている。
「え?!なんで急に!!ってお前!!」
話が終わる前に、リビングの扉が開いた。
そこにいたのは、
いかにも寝起きな感じの人。
セットされていない髪の毛・
ダラダラジャージ。
コウタよりもかわいらしい男の人がいた。
「あ。おじゃまします。」
ぺこりとマリがその人にお辞儀をした。
「や。どぞどぞ。ごめんね。こんな格好で。」
「一応兄貴の正人。」
はにかみのマサトを横に
冷静なコウタがマサトを紹介。
「っおまえ!なにが一応だ馬鹿!」
一方的に感情をだすマサト。
知らん振りなコウタ。
そんなコウタとマサトのやり取りを見て、
マリはおかしくてたまらなかった。
ピコピコピコ
「へー。木戸さんのお兄さんって
めっちゃ頭いーんだね。」
「そーですね。私からみても頭いいですねー。」
「木戸が言うなら、相当じゃね?・・・
あ!だれ今俺のコインとったの?」
「ばーか。さっきのお返しだよ。」
コウタ・マリ・マサトは大きなテレビの前でコントローラーを握って必死に画面を見つめながら、話している。
「でも。頭よくても
ちょっと変わり者かも・・・。」
「・・・・ブシュッン!!!
・・・ブシュッン!!!!」
くしゃみの音が事務所に響く。
「大丈夫?風邪??それとも花粉症??」
サナエが心配そうに聞いた。
コタロウは鼻をムズムズした。
「んー。そんなんじゃないと思う。なんか・・・。」
「なに?」
「妹が悪口言った気がする・・・。」
「何それー。」
サナエは笑いながら資料を渡した。
その手の薬指にはキラリと光る指輪。
「ところで、ちゃんとお前飯とかつくってんの?」
「何!いきなり?!当たり前でしょ!」
「うそくせー。」
コタロウはニヤニヤしてサナエを見る。
「こいつには嘘がばれちゃうのかしら?」苦い顔になる。
数分無駄話をしてサナエは自分の席へと戻っていった。
そんなやり取りを資料が山積みになった机からタカヒトは見ていた。
少し羨ましそうな・・・。
少し寂しそうに・・・。
「あー。もう!!負けた!!!!」
コウタがコントローラーを
投げ出して叫んだ。
「大島よっわー。」
「こいつゲーム下手なのよ。てかマリちゃん強いねー。」
いつのまにか仲良しなマリとマサト。
そんな2人を見てムッとするコウタ。
「ってか!なんで兄貴おるの?」
「あ。ホント。今日って水曜日だしー。祝日??」
「あー。年休とったの年休。月曜から呑みっぱなしで疲れたわけ。」
「いーよなー。サラリーは自分の都合で休めてー」
「8時間労働+呑み付き合い舐めんな学生が!!」
マサトは昨日の出来事をふと思い出した。
学生な雰囲気を残した新人の歓迎会。
会社の若手が集まった飲み会。
そこにはもちろんユキナも来ていた。
1次会は新人を囲んでの呑み。
ユキナは同僚たちと一緒に、新人の男と楽しく話していた。
新人の男が、ユキナに見とれてはいないか
チラリ・チラリ。気が気ではなかった。
案の定だ。
新人の男…ユキナに見惚れている…
しかも許すまじ。ボディータッチ。
マサトは立ち上がって、ユキナたちの席へ行きたかった。
が
悲しいかな。
先輩たちのテンションが高すぎて、トイレにすら立ち上がれなかった。
「つぎーいくぞ~~。」
1次会は盛り上がり、
みんな酔ってテンションがおかしかった。
2次会へ向かう途中。
マサトはユキナに話しかけてみた。
そっと。自然に。
「芦田さーん。」
ひょいっとユキナの横へ。
もちろん横にいたあの新人ヤローは
押してやった。
「おぉ~。大島く~ん。元気してたぁ~?アハハハ!」
意外にもユキナのテンションは高かった。
「これはいける!」
マサトは何かを確信した。
「おれだめっす~!」
「へ?なんでぇ~?」
「なーんちゃって!」
「はぁー?何言ってんのぉ~あははは。」
2人を残して、ほかのメンバーは
先に居酒屋へと上がってしまった。
マサトはそれを見て勝負に出た。
「芦田さーん。」
「何ぃー??」
「散歩しませーん?」
「えぇー?!・・・。」
ユキナは働かない頭で考えた。
その間沈黙が2人を包んだ。
「玉砕か!」マサトがそう思った瞬間だった。
「飲みすぎたから、いいよ~。ダイエットしよー。あはは」
マサトは心の中でガッツポーズ。
そして2人は夜の街へ散歩に出かけた。
たわいのない会話と笑い声が続いた。
呑み通り・ピンク通り・ラブホ通り
そんなの気にせず2人は散歩を楽しんだ。
いつしか人通りが少ない住宅街に来ていた。
話し声はいつしか小さくなり、
笑い声も消えていた。
2人の距離は一気に縮まり、いつしかお互いの手を握っていた。
「クシュッ」
ユキナのクシャミが静かな路地に響いた。
「ちょっと寒いなー。」
「そーだね。ちょっと寒いね。んで疲れた。」
ユキナが苦笑いをした。
そんな時偶然にも公園が現れた。
「ちょっと座ろっか?」
「そーだね。」
ブランコと鉄棒と砂場が凝縮された
小さな公園。
端っこにあった2人がけのベンチに座った。
中央にある街頭があたりを
照らしてくれるおかげで
マサトはユキナの顔が見れた
ユキナは鞄からストールを取り出して
肩にかぶせて手を口にあてた。
「芦田さん・・・。」
「ん??」
「あの・・・俺・・・。」
モジモジするマサト。
ユキナは自分の肩にかぶせていた
ストールにマサトを入れた。
「大島君も寒いの?」
「え?・・・いや・・・・。あ。うん。」
少し間が空いた。
マサトは自分の心臓の音がユキナに
聞こえているんじゃないかと思った。
何を話せばいいのかマサトはわからなかった。
緊張で頭は真っ白だ。
「ずるー」
「へ?なんで」
マサトはなんで自分が
「ずるい」のか全くわからなかった。
「こんなにいい雰囲気なんだよ。
普通さキスとかするんじゃないの?」
ユキナが恥ずかしそうに下を見て、少し照れて言った。
マサトはそんなユキナがあまりにも
可愛く感じられた。
自分を見つめてくれるユキナに吸い込まれるようにそっとキスをした。
「何ニヤケてんの?きもいよ。」
コウタの一言で我に戻る。
「なんにもねーよ。バーカ」
「あのー。もうそろそろお邪魔しようかと思うんだけど。」
少し申し訳なさそうにマリがコウタとマサトに言った。
気がつけば、もう外は暗い。
コウタとマリは家の外へ出た。
マリの家とコウタの家は実は近い事が判明したので、
コウタはマリを送る事に。
「マサトさんって面白いね。」
「なんか抜けてるだろ?俺から見ても面白いわ。」
「てか仲いいよねー。」
「木戸んちは仲悪いの?」
「いや。そー言うわけでもない。」
「何じゃそりゃ。」
2人は自転車を押しながら話していた。
「来年はお互い別の大学かー。」
「そーだねー。お互い、受かるといいけど…」
「そーだよなー。」
やっぱり他愛も無い会話が続く。
教室を抜け出して、別の場所で会話をしていても
やっぱり2人はこんな調子。
どこにいても変わらない2人の空間。
2人の色
「なー。木戸。」
「何?」
「付き合おー」
「いいよー。」
ここまでがサイトに載せていた作品になります。
これでメインとなるお話は終わり。