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candy   作者: にゃこ
4/7

orange candy

ーキスがしたい・・・


ミナコの隣の隣の隣の前の席をちらりと見つめて思った。


今日は大学のゼミ飲み会


皆んなが馬鹿騒ぎをしている中、何を考えているんだろう・・・


だって今日はいつもと違う。

今日は彼が来てる。


隣の隣の隣の前の席に座るケンジ。

笑顔が可愛い。

私の憧れの人。好きな人。






キスがしたい。

でもどうしたら?


いやいや・・・

それよりも大事なことがある。


まずは隣の席に行かないと・・・






どうしたら?


ミナコは頭をフル回転させて考える。


トイレに行って・・・

自然に・・・。そうごく自然に隣の席に行く。


これ常套手段


あ・・・

駄目だ。






ケンジの周りはすっかり盛り上がっちゃってて

入る余地なんてない・・・。


ミナコは焼酎ロックのグラスを見つめ、氷を突く





ーあぁ・・・なんで私こんなことばっかり考えちゃうの?


自分が嫌になる。

楽しい席なのに全然楽しくない。

馬鹿騒ぎは得意。


でも今日は駄目

だって、普通ならいないのに・・・不意打ちすぎる。

今日来るメンバーちゃんと確かめておけばよかったと後悔が襲う。


溜息がこぼれると同時にケンジの方から声がひとつ


「えー!ケンジお前彼女と別れたの?!」


思いがけない言葉だった

嬉しいのやら・・・悲しいのやら・・・

この場合素直に嬉しいのかもしれない。


ケンジはフリー・・・

チャンスだ。


ミナコは不自然承知で思い切ってトイレへ立ち上がる。






ートイレに行った後、足立の席に絶対いく!!


鞄を手にトイレへいざゆかん。

さぁ決戦だ。

入念に入念を重ね化粧直し。


トイレの個室にこもって、ポーチを開く。

手際よく。


ファンデ・・・OK!

チーク・・・OK!

目・・・OK!

唇・・・


ぷっくりとベタベタしないようにティッシュで一回抑える。うっすら伸びるオレンジ色。


OK!!!!


全ての準備が整って、トイレに別れを告げる。


「あ。」


声が重なる。


ミナコがトイレから出たと同時に男子トイレの扉も開いた。






出てきたのはケンジ

予想外の出来事が続く・・・。

心の準備なんてできてない。


「びっくりした。木戸もトイレだったんだな〜」


心臓はバクバク破裂しそう。

ドキドキの絶頂


望んでいたチャンス

思い描いていた作戦を実行しなくちゃ・・・


そう思うのに・・・

声が思うように出ない。


「ぁ・・・うん!やっぱり呑むと近くなっちゃうよね!!アハハ〜」


ーバカァー!!あたしの大馬鹿野郎!!


近くなるとか・・・乙女らしさが・・・


自分の発言に後悔。

恐る恐るケンジを見る。


笑ってる。


「俺も俺も!今日ペースあげちゃってさぁ。あちぃーし!」

「それじゃ外・・・出ない?」


一生分の勇気を振り絞った。

一か八かの勝負。

このチャンスを逃したら絶対もうチャンスはないと思うから。


笑っていいよと軽く答えてくれたケンジ。

二人は騒がしい店を背に外を出る。


冬の風はお酒で火照った肌を冷ますのに最適。

少し肌寒いけどそれがちょうどいい。


「足立って彼女と別れたんだ・・・。なんで?」

「ん・・・?え・・?あ。聞こえてた??」

「・・・うん。」


今の自分は何でも聞けちゃう。すごいなぁと思う。


「束縛きつくてさ・・・もうずっとしんどかったんだよね。ほら?

 俺って全然飲み会も出れてなかったじゃん?」

「え?まさか全部彼女に禁止にされてたの??」

「そうそう。さすがにきつくてさ・・・別れた。先月の話。」


ケンジは笑っていた。


「後悔とか・・・してない・・・?」


ちょっとだけ悲しそうな目をしていたのが気になった。

未練・・・。あるんじゃないのかな・・・。


「ないない・・・」


笑いながら答えてくれた。

一瞬の沈黙が流れる。嫌な沈黙。だってこっちは何も言えない。


「本当何だよ。全然後悔してなくて、むしろ解放されて気分がいいんだよ・・・。

 ただ・・・。」

「ただ?」

「最後さ・・・泣かせちゃったのが申し訳なかったなぁって・・・だって俺のわがままじゃん。」


何なのこのいい人。こんな人がこの世にいるの?本当?

ずるい・・・。こんなのハマるに決まってる・・・。






ノリが良くて優しい人。






今がその時じゃないのはわかってる。タイミング悪すぎ・・。

絶対告っても成功しなさそう。

でも気持ちは抑えられない。


キスがしたい・・・


「!!なに?なに?」


ケンジのほっぺをつねる

自然と唇が尖る。






ケンジはほっぺからミナコの手を優しく握り、離した


「あのさ・・・。別れた理由さ・・・。他にもあんだ・・・。」

「?」


唇に触れる柔らかな感触。

肌に触れる鼻先。






何が起きたかさっぱり理解できなかった。

目の前には顔を赤くしているケンジがいる。


「ごめん・・・。いや・・・。俺好きな人ができたのが別れた一番の理由で・・・

 だから・・・後悔したくないっつーか・・・」


耳まで赤いケンジを見て笑いがこみ上げる。


「・・・もう一回・・・」


口が勝手に動く。


「え?」


「もう一回キスして。でも酒臭いのは嫌・・・。」


ポケットに入っていた飴をケンジに差し出す。

ケンジは笑って飴を受け取り口へ入れて、もう一度優しくキスしてくれた。






甘くて優しいオレンジの味

最高のキス





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