mint candy
カタカタカタカタカタ・・・・
ユキナはパソコンの画面を見つめ、キーを次から次へと打ち込む。
机には殴り書きのメモの束がつまれていた。
経費削減
その言葉に従い、暗い事務所。
ユキナのいる区間だけポツンと明かりがついている。
「芦田さん。まだやってるんすか?」
扉が開く音と一緒にマサトの声が響いた。
「どっから喋ってんのよ?」
「えー。いーじゃないっすか。もうだれもいないし。」
マサトは自分の席に戻りながら喋った。
ユキナとマサトは斜め前同士。
ユキナの右前にはマサト。マサトの右前にはユキナ。
「あ~。もう無理ですよー。このプログラム複雑ですよー。」
「大島君が複雑にしてるだけよ。」
ぐずるマサトに、画面を見つめながらユキナがさらりと答えた。
そんなスマートな対応にふてくされるマサト。
けれどユキナはそんなこと知ったこっちゃなっかった。
カタカタカタカタカタカタ・・・・
カタカタ・・カタカタカタ・・・タンッ・・カタ・・・・
カチ・カチ・カチ・カチ・・・・
2人のキーボードを打つ音と、時計の針の音だけが事務所に響く。
静かな時間がただただ過ぎていく。
ふとパソコンの画面からマサトの方へユキナの目線がずれる。
頭を抱え、画面とにらめっこをするマサトが飛び込んできた。
時間は10時半。終電まであと1時間半。
「大島君どう?進んだ??」
キーボードを打つ指を止め、マサトにたずねる。
突然のユキナの声に少し驚いたような・・・待っていたかのような。
眉間のしわは消え、マサトの顔には笑顔がこぼれる。
「ぜんぜんだめっす。芦田さん教えてください!!」
ユキナに懇願するも、すぐにハッとした。
「あ!うそです・・・。芦田さん今忙しいですよね・・・。」
「私はもういいよ。大体組めたし。それに後輩を教えるのもあたしの仕事なわけだし。」
ユキナはシャーペーンを手に席を立ち、マサトの横の席へと腰を下ろす。
「で。どこがどうわかんないの?」
一浪で大学卒業のマサトは今年で入社2年目。
専門卒業のユキナは入社5年目。
同い年のくせにユキナはしっかりしている。
ユキナにわからないところを説明しながら思った。
-社会人暦3年の差はやっぱりでかいな・・・。
-あ。
ユキナは教えてる最中。
邪魔になった髪を耳にかけた。
不意打ちだ・・・。そのしぐさに見とれ胸がなる。
-いいにおい・・・。
マサトの周りにいる女性とは別の香りがした。
甘くないにおい。すがすがしい香り。
「・・・・でこうすればいいでしょ・・・。って聞いてる?」
少し呆れた口調のユキナにマサトはあせって理解していないにもかかわらず、聞いている!
と答えた。
・・・話を聞くどころじゃなかった。
胸がキュッとなっている。
この感覚がなんなのかはマサトには分かっていた。これが初めてじゃないから。
-もうこんな時間だもんな・・・。眠いよな・・・。
ユキナは思った。「ちょっと休憩」そう言って
自席に戻って引き出しをあけて、ガサゴソ。
「はい。」
手渡されたのはハッカの飴。思わず笑ってしまう。
「ハッカの飴・・・。芦田さんっぽいですね。」
2人は飴の封をあけ、口へとなげいれてカラコロさせながら話した。
マサトに笑われたのが理解できなかったユキナ。
「?なんでよ??」
「だって芦田さんがイチゴ味の飴とか常備してたら意外ですよ!」
「・・・たしかに。私も変だと思う。」
笑い声が事務所に響いた。
夜のだれもいない事務所だからできること。
時計の針はもう11時半。
「あー。だべってたらもうこんな時間になっちゃってね。帰る?」
「そうっすね。明日もありますからね。」
「さっき教えた事、明日も聞いたら怒るよ。」
ニヤっとして説明に使ったメモを捨てようとするユキナが言った。
「わー!!芦田さんその紙ください!!」
そんなマサトを見てユキナは笑う。
少しひどいんだよな。
でもフワフワしている俺を絶対ハッとさせてくれる。
本当に芦田さんはハッカみたいだ・・・。