meron-soda candy
急にたちあがり姿を消す後輩・同僚・先輩たち。
どうせまた長い長ーい煙草休憩だろう。
デスクトップの画面をぼんやり眺めてコタロウは思った。
-俺も休憩。
引き出しから飴玉を3つ取り出し
ズボンの両ポケットへ押し込み席を立つ。
「ちょっとどこ行くの?」
前の席のサナエが恐い顔で聞いてくる。
でもそんな事はどうでも良い。
コタロウは視線を外へと続く扉の方へと戻す。
「休憩。」
「明日の会議の資料大丈夫なの?!」
大物クライアントとの会議を控えるコタロウとサナエ
特にサナエは初めての大物クライアント。
A型のサナエは大物じゃなくても、会議前はピリピリしやすいのに
結婚準備もあるらしく、いつもの3倍はピリピリしている。
血液占いなんてくだらないと思っていても、このサナエという女にはピッタリ当てはまる。
真面目で頑固・・・。
「9割できてるよ。気になるんだったら共有フォルダーに入ってるから確認すれば?」
「わかった。見とく。」
不機嫌そうなサナエの声を横切りコタロウは歩く、扉が空きドンヨリとした環境からおさらばだ。
エレベータがくるのを待っている途中、タカヒトがトイレからでてきてこっちへ向かってきた
「コンビニ行くんですか??」
「行かねーよ。」
「そうですか残念・・・。」
「なんで?」
「いや、コーヒー買ってきてもらおうかなぁって。」
ニヒルな笑みをこぼすタカヒトはポケットに手をつっこんでお金を探す振りをする。
「お前・・・。先輩をぱしらせんなよ。」
「じょーだんですよ!じょーだん!でも何処行くんですか?木戸さん煙草吸わないし・・・。まさか大?」
ちょうどエレベータが来た。
「大なわけないだろーが!俺は今から至福のお一人休憩だ。」
「あぁ・・・いつもの。」
「そっ。じゃ~ね~。」
そういって、エレベータの扉をとじてコタロウは去っていった。
コタロウを見送ったタカヒトは事務所へと歩く。
-木戸さんが帰ってきたら、俺も行こっかなぁ。
会社の玄関を出るとまぶしい光が迎えてくれた。
秋の心地いい風が肌にやさしく触れる。
さっきポケットに入れた飴玉を取り出し、封を開けて太陽にかざしてみる。
光りが反射する。それはまるで翠の宝石のように。そしてすぐに口に投げ込む。
シュワッ
-たまんねぇ・・・。
会社を出て西のほうへゆっくり歩き出す。
5分でたどり着けるとっておきの場所。
最近新しくできた道で、左手にはキラキラ光る川が見える。
右手には芝生とベンチ。
しかもサラリーマンもOLも仕事中だから、だれもいない。
この場所は今コタロウだけのものだ。
奥のほうのベンチにゴロンと仰向けにねっころがった。
口の中で広がる甘いメロンソーダーの味。
頭がクリアになっていくのを感じた。
シュワシュワ口の中ではじける。
-あぁ・・・。なんでみんな煙草とか吸ってんだろ?馬鹿だよな・・・。
-コミニュケーションなんて煙草吸わなくてもできんのに・・・。
ポケットから飴を補充。刺激は強くなる。
-やっぱ外って気持ちいーなぁ。
-事務所のあのドンヨリどうにかならねーのかなぁ・・・。息つまりそーだよ・・・。
ぽかぽかの太陽とそよ風は寝不足のコタロウを夢の世界へと誘う。
-やべ・・・。寝そう・・・。
フワフワと浮いている。
-ここ・・・。どこだっけ?
自分が緑色の液体の中にいることに気がつく。
息はできている。
甘い甘い香りがあたりを包んでいる。
-これ・・・メロンソーダーの海か!
そう思った瞬間。どこからか歌が聞こえてきた。
シュワワワァ。シュワワワァ。はじけるよ!君の口の中!
シュワワワァ。シュワワワァ。はじけるよ!僕の口の中!
心地いいメロディー。思わず口ずさむ。
シュワワワァ。シュワワワァ。はじけるよ!君の口の中!
シュワワワァ。シュワワワァ。はじけるよ!僕の口の中!
降り注ぐよ。口の中!君の!僕の!
香りだすよ。口の中!君の!僕の!
心地よく漂っていた体は急上昇してメロンソーダーの海から宙へと浮き上がっていた。
急な変化なのに全く気がつかなかった。
突然雨が降り出した。
「わ!雨!!?」
するとまたあの歌が聞こえた。
シュワワワァ。シュワワワァ。雨だけど雨じゃないよ。
シュワワワァ。シュワワワァ。飴だよ。はじける飴だよ。
「ほんとだ!飴だこれ!」
「木戸!!!!!」
突然響く声に驚いて立ち上がった。
目の前には鬼のようなサナエとその後ろですみません・・・。といった感じのタカヒト。
「あんた・・・。どんだけ休憩してんのよ!」
「はぁ?」
気だるそうに時計を見て驚く。
「あ・・・。」
休憩するといって出て行ってから、30分近く過ぎようとしていた。
-あちゃ・・・。
さすがのコタロウもヤバイと感じた。
そりゃサナエも怒るだろう・・・。
「悪い・・・。つい・・・。」
「・・・。そろそろ戻らないと上の人らが怪しむわよ。」
意外なサナエの態度にコタロウはびっくりする。
「ちょっ・・・何?何でそんな優しいの?」
「資料が大体できてたから・・・・。あんたこの頃残業続きだったし・・・ご褒美よ。」
「ご褒美って・・・。」
苦笑いして口を閉じた。
とっておきの場所をあとにして、サナエ・タカヒトと一緒に会社へと戻った。
タカヒトがそっとコタロウに謝った。
「すいません。木戸さん・・・。高島さんがすごい心配してたからつい・・・。」
「いーよ。悪いの俺だし。それにいい夢みれたし!」
ほんの少しだけだったけど・・・。
本当に幸せだったなぁ。
メロンソーダーの海か・・・。溺れてみたいもんだ。
そう思って、会社の玄関をくぐった。