#003「アイベヤ」
@スタッフルーム
不動「入るぞ、弥勒」
不動、ドアを開ける。
弥勒「あぁ、不動さん」
真理、不動の後ろから姿を現す。
真理「はじめまして、弥勒さん」
弥勒「ワッ、ワッ、ワッ」
不動「落ち着け、弥勒。――この通り、若い女性の前では人見知りする性質なんだ」
真理「なるほど」
――見た目の年齢は、修羅さんより若いわね。まだ、社員になって日が浅いのかしら? 日頃はお年寄りと接してるみたいだし、同年代の異性が苦手だとしても不思議では無いか。でも、ホテルの従業員としては、いかがなものかしらねぇ。
不動「それにしても、いつ来ても汚い部屋だな、ここは。足の踏み場も無い散らかりようだ」
弥勒「僕じゃないよ。大半は、修羅さんが」
不動「わかってる。ほらよ」
不動、弥勒に仮留めしたお仕着せを渡す。
弥勒「これは?」
不動「直してやってくれ。裁縫は得意だろう?」
*
真理「良いんですか? 押し付けちゃって」
不動「働かざるもの、何とやらだ。――仕事終わりと非番の日は、ここで休憩することになってる。さっきの部屋の向かいは、支配人と俺の部屋。それで、奥のこの部屋が川添の部屋だ」
不動、ドアを開ける。
真理「わぁ、広い」
――出窓があり、ベッドがあり、書き物机と本棚もある。ひょっとしたら、さっきの部屋より広いんじゃないかしら。
不動「本来この部屋は、支配人室として使ってる部屋なんだ。他に空いてる部屋が無いこともあるし、個室が良かろうという支配人の意見もある。住み込み部屋として充分すぎるくらいだな。高待遇に感謝しろ」
真理「ありがとうございます」
不動「まったく、支配人も御人好しすぎる。見習いなんて、屋根裏部屋か納屋にでもブチ込んどけばいいようなものを」
真理「アハハ」
不動「笑ってられるのも、今のうちだ。仕着せの直しが終わったら、即刻、仕事を始めてもらうからな。良いか? 俺は川添を、女として特別に扱わないということを条件に見習いとして働くことを認めたんだ。甘ったれたことをぬかしたら、首根っこ掴んで放り出すから、覚悟しとけ」
真理「ハイ、不動さん」
――マァ、鬼教官だこと。そんな酷い言い草があって良いものかしら? でも、百パーセント本音という訳でも無さそう。本心では、もっと親身になって接したいのに、役割上それが許されないから、無理して厳しくしてるってところね。
不動「俺は、このまま自分の仕事に戻るが、川添は、支配人が来るまでココで待つように。間違っても、弥勒の部屋に入るんじゃないぞ。良いな?」
真理「わかりました。ココで大人しくしてます」
――それじゃあ、本でも読んで待ってようかしらねぇ。えーっと。何か面白そうな本は……無さそうね。どれも小難しそうな本ばかり。本来は支配人室だと言うことは、これは全部、大日さんの蔵書ってことよね? フー。勉強熱心なのは認めるけど、息が詰まりそうだわ。