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#010「ツバクロ」

@スタッフルーム

真理「すべては夢で、起きたら我が家、とはいかなかったか」

♪チュビチュビという(さえず)り。

――二度寝できそうにもないし、起きよう。小鳥も目を覚まして鳴いてることだし、ここで生活することになったのも、早寝早起きの習慣が身に付いてなかったからだし。よーし。気持ちを切り替え、張り切ろうっと。

真理、両手で頬をパチパチと叩く。

♪チュルルルルという囀り。

真理「やけに賑やかだこと。どこでピーチクパーチク騒いでるのかしら?」

  *

@フロントエントランス

大日「土食いて、虫食いて、口渋い」

真理「(一番乗りかと思ったけど、先客が居たようね。上を気にしてるみたいだけど、どうかしたのかしら?)おはようございます、大日さん」

大日「あぁ、川添さん。おはようございます。今朝のお目覚めはいかがですか?」

真理「小鳥の鳴き声で、自然に目が覚めました。今も、聞こえてますね」

大日「フフッ。こちらに来て、あちらの軒下を見上げてごらんなさい」

真理「どれどれ。――アッ。小鳥の巣が」

大日「(つばめ)の巣ですよ。まだ、巣が小さいので、造られて間もないと思います。――念のため申し上げますが、高級料理ではありませんからね」

真理「ヘー。ここにも、燕が居るんですね。――あんな泥と草で出来たものを食べようとは思いませんよ」

大日「古くから農耕が盛んな土地では、穀物を食べず害虫を食べてくれる益鳥として珍重され、また、ヒトが多く出入りする軒下を好んで営巣する習性から、商売繁盛の印としても扱われてきました。今、私が着てる燕尾服も、長く切れ込みの深い二股形の上着の裾が、燕の尾に似ていることから、その呼び名が付けられたものです。このホテルでも客室の名称として使ってますけど、愛称や地名としても、よく冠される鳥ですね。飛燕、燕返し、(つばくろ)岳、特急つばめ、スワローズ」

真理「昔から、身近で親しみを込めて接してきた鳥なんですね。そういえば、燕が低く飛ぶと雨が降るって言いますよね?」

大日「よくご存知ですね。観天望気の一つで、天気が下り坂に差し掛かる前は、上空の湿度が高くなり、餌である昆虫の羽根が水分で重くなって低く飛ぶことから、それを捕食する燕も低く飛ぶという訳です」

真理「フーン。あながち、根拠の無い言い伝えじゃなかったんですね。――そうそう。越冬する燕も居るんですよね? 『幸福な王子』に出て来ますけど」

大日「そうですね。文学作品のモチーフとしても、よく登場しますね。『竹取物語』で、かぐや姫が石上麻呂に、燕の子安貝を採ってくるようにとの難題を出すのですが」

真理「たしか、他にも四人の貴公子がいて、誰も課題をクリアできなかったんですよね? 底意地が悪い姫だと思ったことを覚えてます」

大日「素直で明るいキャラクターばかりでは、物語として面白くありませんからね。他には『雀孝行』という説話にも出て来ます。親孝行な雀に対して、親不孝な役どころで、ちょっと燕に可哀想な話なんですけどね」

真理「若い燕とか、燕雀(えんじゃく)(いずく)んぞ何とやらとか、益鳥という割には、薄っぺらな小物扱いされてるような気がしますね」

大日「鴻鵠(こうこく)の志を知らんや、ですね。言い換えれば、従僕の目に英雄無しといったところでしょうか。近寄りやすい半面、威厳に欠けるのかもしれませんね。フムフム。面白い着眼点ですから、調べてみる価値がありそうです。差し支えなければ、只今のアイデアをいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

真理「どうぞ、どうぞ。お役に立つのなら、お好きに料理してください。――あっ、弥勒さん」

大日「おはようございます、弥勒くん」

弥勒「おはようございます。あのー、お二人で何の話をされてたんですか?」

真理「燕についてのエトセトラよ」

大日「まだお若いのに教養高いものだと感心してたんですよ。漢文の素養をお持ちでしてね。――ところで、何かありましたか?」

弥勒「朝ご飯が用意できたので、呼んで回ってるところです」

真理「ありがとう、弥勒さん」

大日「修羅くんは、まだ寝ていますか?」

弥勒「はい。まだ夢の中だと思います。これから、もう一度、起こしてこようかと。お二人は、先にキッチンに行ってください」

真理「ハーイ」

大日「それでは、移動しましょうか」

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