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#009「コイバナ」

※一部、アガサ・クリスティの有名作品の結末に触れています。


@大浴場

真理「これが乙女ゲームだとしたら、誰ルートの選択でハッピーエンドになるのかしら?」

――ハーイ。湯加減良好で、ちょっぴりノボセ気味の川添真理、十八歳です。バンでビバノンノ。血行が促進されたことで、脳の働きが活性化されて、妄想会議が始まってしまいました。そこそこ好青年の四人組に紅一点という条件から、これって乙女ゲームのヒロインっぽいよねぇ、と話が脱線した次第です。誰を攻略対象として、誰の個人イベントに参加すれば良いのやら、傍から見れば少しばかり痛々しいくらいに、一人で盛り上がってまーす。そう、お一人様で。ここ、テストに出るからメモするように。

  *

@スタッフルーム

修羅「たっだいまー。アレレ。何してんだ?」

弥勒「ハッ! 修羅さん」

弥勒、スケッチブックを背中に隠す。

修羅「ん? 何を隠したのかな、ミーくん。オイラに見せてみろよ」

修羅、スケッチブックを取り上げる。

弥勒「見ないで」 

修羅「見るなと言われると、余計に見たくなる。それが、オイラの悪い癖。パンドラの箱、オープン!」

修羅、ページを一枚捲る。

修羅「オッ! これはマリちゃんだな? 恋多き少年だな、ミーくんは。このあいだまで鬼子(きし)ちゃんにホの字だったくせに。もう乗り換えたのか?」 

弥勒「返してよ」 

修羅、両腕を上げ、頭上に掲げる。

修羅「こんな面白いもの、みすみす逃すのは惜しい。そうだ。マリちゃんに見せてこようっと」

弥勒「それだけは勘弁して」

弥勒、修羅の腰にしがみつく。

修羅「グオッ。少しは腕の力を抜けよ、ミーくん。そんなに強く腹を押されたら、口から椎茸が飛び出そうだ」

不動「何を馬鹿なことをやってるんだ、そこの二人! お陰で、おちおち寝られないだろうが」

弥勒「修羅さんが、僕のスケッチブックを取ったんです」

修羅「わかった、わかった。オイラの負けで良いから、返すよ」

修羅、弥勒にスケッチブックを渡す。

不動「まったく、お前たちときたら。いつになれば、夜中に騒がず静かに寝る習慣が身に付くんだか。――もう就寝時間なのだから、枕投げもせず、物真似大会もせず、怪談も猥談もせず、速やかに熟睡するように。良いな?」

修羅・弥勒「「ハイ」」

  *

大日「大人しくなりましたね。何を口実にして脅したんですか?」

不動「何も出しに使ってない。修羅が弥勒のスケッチブックを取り上げて馬鹿騒ぎしてたから、クダラナイことをしてないで早く寝るよう注意しただけだ」

大日「オヤオヤ。弥勒くんは、早速、川添さんに思いを寄せ始めたようですね」

不動「ん? 何で、そういう話になるんだ? 論理が飛躍しすぎて、ついていけない」

大日「話が飛んでしまいましたね。私の悪い癖です。順を追って説明しましょう。まず弥勒くんが、川添さんに好意を寄せた。続いて弥勒くんは、ひと目惚れた相手を、それとなく観察した。そして、コッソリと絵に描いて形に残そうとした。ところが、そこへ修羅くんが茶々を入れてきた。最後に、面白がってからかう修羅くんと、からかわれて困っている弥勒くんのあいだに不動くんが止めに入った。以上。不動くんの話から、私の灰色の脳細胞が導き出した推論でした」

不動「ご丁寧に、どうも、ポロット氏」

大日「アクロイド殺害犯は、貴方ですね?」

不動「俺は、手記の筆者ではない。英国人でも無いし」

大日「そして、書いた手記をビンに詰めて残した人物も、最後には」

不動「それは、別作品だ」

大日「国際急行に乗ってますが、車内の空気が険悪です」

不動「それも違う。好きだな、ミステリー」

大日「大金に目が眩んだ人間の強欲さと残忍性を、余すところなく如実に表現した優秀作だと思います」

不動「批評は結構だ、新人賞審査委員長」

大日「だけど、そうなると困ったことになりますね、不動くん」

不動「あぁ、そうだな。明日は弥勒にも、川添の指導をしてもらわなきゃいけないというのに」

大日「不動くん。それは、わざと話を逸らしてるんですか?」

不動「そんなことはない。……何か言いたいことがありそうだな」

大日「いいえ。別に、何も。――おやすみなさい」

不動、大日の肩を揺する。

不動「気になって眠れないから、ハッキリ言ってくれ」

大日「支配人さんは言いました。ドント・ディスターブ」

不動「起こすな、ってか。食えない奴だな」

  *

真理「あぁ、いいお湯だった。しょっぱい感情も、お湯に流せたら良いのに」

――結局、四人の中から一人を選ぶなんて、わたしには出来ないということで、二兎を追うもの一兎も得ずのバッドエンドになってしまいました。違うのよ。優柔不断じゃなくて、博愛主義なだけなの。……虚しくなってくるから、寝よう。そして可及的速やかに、万事滞りなく忘れてしまおう。


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