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LV76

「優勝した商品が、テオドアとの恐怖の晩餐って、最高にクールですね」

「……言うな。いまから胃もたれがする」


 ハァ。

 と、だれともなく、俺たちは溜息をついた。

 あの後、表彰式を終えていつもの日当たりの良い中庭で、ランチをいただくやくそくをしていた。

 普通なら優勝者がふたりもいるのに、あの騒がしい兄妹のせいで、すっかりお祭り気分が萎えたよ。楽しみにしてたランチのパンも心なしかいつもより味気ない気がする……。


「ま、いいさ。せいぜい、付き合うのが一日だけだし。テオドア嬢に誘われてもいままで通りに断ればいいんだからな」

「前向きに、ですね。まぁ、明日から打ち合わせだのだれを誘うだの~って、しつっこく”相談”されるのは目に見えてますが」

「…………」


 勇者はとどめを刺された。

 俺は経験値0ポイントと、虚しさ100ポイントを得た。


「……そんな嫌だったら「俺に付きまとうな」てめっきりハッキリ言えばよろしいのに」

「それが、言えたら苦労はない」


 え、どーしてよ。

 俺にはいつも、めっきりハッキリぐっさり言うてるじゃないの。その兇器を私に振り降ろすがごとくされればよろしいのよ?


「……だから、告白されたワケでもないのに、そんなこと言えた義理がないってことだ」

「ぬっ。そーいえばそーでしたね」


 な~る。

 そーいえば、テオドアに告白されてないのか。それじゃ、迂闊にンな台詞を女子に吐くのも如何なものか、ですよね。

 そもそもの問題として、貴族様の恋愛ってのも俺たちの一般人の常識とは外れてるものな。そこには、どーしたって家同士の問題が絡まるっていうし。好きだの惚れたのって、勝手に宣言して回ればいいものじゃない。

 ……なのに、あーしてテオドアが付きまとってるのは、本気の本気ってことなのかな。いや、それ以外の裏が絶対になにかある気がするんだけどなぁ。俺の考えすぎ?

 どっちにしたって、シャナンが付きまといをされてるのは事実としてあるんだし冷たくあしらってやってもいんじゃねぇ?


「それが言えたとして、付きまとうのを止めてくれるとは思えないがな。大分、迂遠だが釘をさしてきたつもりが、それもサラッと無視されるし……」

「あの執拗さは天性の物ですよ。色々と諦めさすには至難の業でしょうね」

「……うん。でも、テオドア、さんも妙なこと考えますよね。わざわざ姫様を誘って昼食会をするって。あんな自己顕示欲の権化……いえ、目立ちたがりのあの人がそんな主役を姫様に譲るようなことをするなんて」

「ンー、たしかに」


 合コンの席に自分より器量も性格も良い女子を誘うことなんて絶対にしないよね。あぁいう手合いって。そーい云われると、ボギーの指摘も気にはなるなぁ……。

 でも、ボギーたん。いつものように”巻き舌”と口汚く罵っていいのよ?


「あれでしょ。ジョシュアって、珍妙な兄への援護射撃のつもりなんではありませんかね。なんか、クリス姫に色目使ってましたし。きっと、あの阿呆兄貴は王座を狙ってるんですよ。そのためにまずはクリス様を射止めて……」

「……うーん。あり得る気がする」


 でしょ!?

 あの阿呆兄貴が王座について、その横にテオドアと憔悴したクリス姫とシャナンが並んだとしたら……おぉ! まさに魔王も裸足で逃げ出す暗黒の未来図が、そこに!?


「ってか、あれで三回生の部の優勝者なんて、ほんとなんでしょうかね?」

「一回生の部しか見てないから腕前がわからないが、あんまりピンとくるものがないな。いや、来たのはひとりいたが……あの生徒はだれなんだろう」

「へー、気になる生徒って、まさか二回戦であたった?」

「知り合いなのか? ……名前は知らないが、あの足捌きは妙に、な」


 やっぱ、ヒューイのことか。

 身近で対戦したシャナンも、そう思う?

 俺も気になってんだよね。あの妙に熟練した動きにあの落ち着き具合。


「フレイは彼のことを知ってるのか?」

「ハイ、友達ですよ」

「友達」

「……えぇ」

「ともだち」

「…………」


 なんだよ、繰り返しに聞かんでもそう言ってるでしょー?

 てか、苦い物を噛んだみたいに顔を渋くして。

 なんなん?

 シャナンはしばらくそっぽを向きつつ不機嫌オーラを醸し出してたが「……それで、そいつはどういったヤツなんだ」と、ぶっきらぼうに言った。


「どういったも、普通の物静かな雰囲気の子ですね」

「ふん、それで」

「……いえ、あんまり、自分の事を語りたがらないんで、あんまり彼のことはよく……。むしろ、わたしがペラペラと要らんこと話すのを、聞き手になってくれるような感じで、えへへ」

「……ふん、で」

「…………いえ、こう見た感じは、ナイーブで傷つきやすそうな感じですかね。あ、たぶん確証はないけど、貴族生徒なのかな? なにか、自分の持つ庭は広大だ! みたいなこと言われたし」

「そうなのか? ……いや、彼は胸に貴族用の三つ葉のワッペンがついてないが」

「え、マジで?」


 ……それって、あいつにウソつかれたってこと、なのか?

 いや、でもあのワッペンは特段と言って、着用義務はあってないようなもんだし。

 まぁ、いまさらどっちでもいいさね。

 俺もあいつの前では「ワタクシはテオドア・ルクレールですわ」と巻き舌&お嬢様口調なんで、文句を言えた義理はないから。


「そっか。わたしと会う時はいつも、ラフなシャツ姿ですから気づきませんで」

「いつも、どこで会うんだよ」

「…………いえ、いつもシャナン様と朝稽古をした帰りに、彼と会うやくそくをして、マス」

「ふーん」


 ……ってか、いまはそのシャナン様の、その詰問口調の方が、気になりますが。なんなの、この根掘り葉掘り聞く感じはなに? ――ねぇ、ボギーって、こっちはメモまで!? おいっ、鉛筆を舐めるな!?


「フレイ、頼みがあるんだが、彼と話をさせてくれないか」

「え、話って? いったいなんの?」

「だから、その色々だ……僕の見立てが正しければ、そのヒューイというやつは、かなり出来るヤツだ。ひょっとしたら僕以上かもしれない」

「えぇ!?」

「そんなことありません! シャナン様が学院では一番に強いです――」


 ボギーが喰い気味にまくしたてると、シャナンはゆったりと落ち着けというように微笑んだ。


「ボギーは心配しなくても大丈夫。彼と戦うとか、そういうつもりは毛頭ないから。ただ確認をしたいだけだよ。それに、僕より強い相手なんて、世界にはゴロゴロいてふしぎはないんだよ」

「でも!」


 そんなシャナンが穏やかに言うのが、ボギーには不満なのだろう。憤ったふうに反駁しかけた、もじもじと指を弄って下を向いた。


「じゃ、頼めるよな、フレイ」

「ちょ、えっ!? その流れでわたしに言うのっ!?」


 ……なんで、俺が野郎同士の出会いのセッティングを任されなきゃならんのだよ!?


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