LV74
「……うっわ、ただのテストなのにこの人だかりって」
連行されゆくエミリアを合掌して見送った後、ボギーの強い勧めでシャナンの試合への観戦へと向かうことにした。
だが、さっきまでの女子の試合とは真逆で、一年男子のテストを行う訓練場は野外コンサートみたいに人だかりで混雑してる。
サックリ終わった女子とは違い、男子組は学年毎に総当たりでの戦いだ。
なので「Aクラスガンバレー!」とか「Bクラス失せろっ!」とか、まるでクラス対抗のプチ運動会のような雰囲気である。
周りの女子たちもお目当ての男子が出るたびに、隣り合った友だちと手を取り合って、「ねぇ、あの人カッコよくなかった!?」と、はしゃいでいたりする。
まあ、うちのボギーに限っていえば、シャナン押し一択なので、そんな浮ついた空気にはなれないようで「シャナン様、大丈夫かなぁ……」色が白くなるぐらい、強く手を握ってる。
「勇者――って、一年の子なんでしょう? ホントに噂されるほど強いのかしらん?」
「さぁ、知らない。でも、まだお子ちゃまでしょ。やっぱ三回生の試合の方が見ていて楽しかったんじゃない。ジョシュア様やヘンリック様も出られたんだし」
――って、何気に隣の女子背が高いなぁ。って思ったら、上級生かよ。”噂の勇者”みたさに、物見遊山気分でキャッキャしてるのかよ。
……まぁ、テストが娯楽になるなんて、ある意味平和だけど、関係者が近くにいるとあんまり気楽にしちゃいられないんだよね。案の定、ボギーも叩かれた軽口にイラッとしてる。
「……なにアレ。ぐちぐち悪口言って。シャナン様は強いに決まってるでしょ!?」
「まぁまあ。あんな軽口ぐらいでカリカリしないで。てか、ほんとにこのレベルの相手しかいないんだったら、片手でも勝てるぐらいですよ」
「ほんとに?」
マジマジ。
試合の様子を見たけど、このレベルだったら俺でも片手で捻れるぐらいだもの。むしろ、シャナンと当たったやつに同情するな。
「……でも、万が一にも大怪我をされたら」
ボギーがハラハラしたように俯いてる。
……おいおい、まだ試合にも出てないのにこんな緊張するって、心配性だなぁ。って、あ、シャナンが出てきた。
「ほら、シャナン様の番らしいですよ」
「シャナン様!? が、ガンバってくださいーッ!?
「……まだ入場したてだってば」
しかし、さっきまでのパラパラとした拍手や声援とは違う、耳が痛くなる程に同じような黄色い声援が飛んできていたおかげで「この人とは友達ではありません」と、素知らぬ振りをする心配はなかった。
しかも声に気づいたが、ちゃっかり群衆のなかにテオドアまでいるし。
……あいつに気づかれませんように!
と、神に祈りつつ声を潜めていたら、ふと、シャナンと対峙してる相手に見覚えが。あれ、もしかしなくても、ヒューイじゃん。
……うわ~、こんな完全アウェーの雰囲気で、しかも一回戦でシャナンに当たるなんて、可愛そうだなぁ。せめて、俺だけでも応援してあげよう。
おぉい、ガンバレ~! って、あ、こっち見た。
あははっ、そんな手を振るよりも、怪我しないように気を付けてー。
「あれ? あの子フレイの知り合いなの?」
「ええ。友人ですよ」
「……ふ~ん」
……なにそのふ~ん。って。
意味ありげな風に、顔もニヤッとしちゃって。なによ、私になにか言いたいことがあるのならば、いいのよ、存分に仰られましても?
「べつにぃ? フレイのタイプって、あぁいう子なんだなぁ。って」
「はぁああああ!?」
タイプってなんだよそれ?
妙な勘違いするの止めてくんない!?
俺とアレとはそういう仲じゃないし! つーか「にしし」とか口に手を当てて妙な笑い方すんなし! めっちゃ腹が立つんだけどぉ!?
「あの、わたしとヒューイとは、べつに勘違いされるような仲じゃございませんよ」
「照れない照れない。いいんじゃないの? あぁいう子でも。ナイーブそうだし、守ってあげたくなるタイプかもね?」
「だから、違うっての!?」
「ほら、試合始まるから」
……チッ。いらない誤解をしおってからにぃ。
試合なんてどーせ、シャナンが勝つだろ?
ほら、一気に間合いを詰めて、ヒューイの剣をふっ飛ばして――ハイ、お終いってね。と、シャナンが勝利すると同時にキャーッ、と女子たちの歓声が上がり、俺の肩もクイズの早押しボタンのようにボギーに連打された。
「す、すっごい! ねぇ、シャナン様勝ったよぉ!?」
「……だから大丈夫だって言ったっしょ?」
痛いなぁ、もう。
てか、シャナンがあっけない勝利に面食らったようにしてるし、楽勝だってば。
「そうよねぇ! でも、フレイの彼もいい線いってたんじゃないの? 負けて残念だけど。くじ運が悪かったわよね」
「だから違うってば!」
……まぁ、いい線いってたのはたしかだけどな。
あっけない素人みたいな構えだったけど、たしかにあの足捌きは玄人じみて……。
いや、気のせいかな。




