LV67
「あ、おはようございます。ヒューイ様」
「うん、おはよう」
学院の裏手にある公園でシャナンとの朝稽古を終えると、その帰り道にヒューイが待っていた。
まだ出会って数日であるというに、木々の梢にてヒューイと立ち話をするのがすっかり、朝の日課として定着してしまった感がある。
ヒューイは口数こそ少ないが、話の合間に相槌を打ってくれたり、目を瞬かせて驚いてくれたり、っと、なかなかの聞き上手で話が弾むのだ。
まあ、うっかりボロが出ぬように、提供する話題のネタは連日のように付き合わされるテオドアとの昼食にて仕入れたものだ。我が家には庭園が五つもございましてよ?
「そんなに? 凄いなぁ。正直、ぼくは園芸の趣味はないんだけど、その、かれさんすい、っていう庭の様式は興味深いものがあるね」
話がわかるなぁ!
枯山水。
それは人が築ける――小宇宙にしてコスモ――や、同じことだけど、大事なことだから二度言いました。
緻密な計算をして、さんざんに苦労して作り上げたのが、クォーター村の男湯にもあったのだ。けど、真贋のわからぬお子ちゃまなボギーには「ただの雑草地帯じゃない」って、酷評されたけど違うんだよぉ。
そのテーマは、人と自然と織りなす調和――そして関係が破綻した先にある原初の未来――という、深~いテーマ性があるの。ただ、手入れが面倒なだけとか、雑草に浸食されただけだなんて思っちゃダメ。
そこにテーマを感じてこそモノホンの芸術に対する審美眼が身につくのよ。
「そうだ。園芸に興味があるのなら、今度ウチの庭にも身に来てはどうかな。この公園ぐらいあるから、見所は多いはずだし退屈しないじゃないかな?」
「おほほっ、折合いがつきましたら……」
「そうか、きっとだよ!」と、ヒューイはニカッとして言った。
……公園ぐらいって、云いましたこの人。さっきも痛感しましたが、シャナンと大立ち回りを演じたって、お釣りどころか億単位の金が入ってくるレベルですゼ。ってか、この人も貴族の中でも羨まれるようなお身分なお方なのかしらん?
「言った手前であれだけど、近いうちにとかは言えないかな。ウチは遠い場所にあるし、それにキミを連れていくのにも、あまり家族は良い顔はしないかもね」
「ご家族様はご心配性なのですね」
「そう、まぁ有難いこともあるけどね」
俺がそうフォローを入れると、ヒューイは微苦笑をした。
ふーん。家族が厳しいのか。
そういえば、出会った最初の時にも、窮屈な思いに鬱屈してた感じだったな。
「悪い虫がつかないように――と、ぼくの付き合う友達は皆、家族たちに勝手に選別されてるんだ。ぼくはその連中との付き合いだけ。なにか打算に満ちた関係だろ? 話すこと全部が家族に筒抜けのような気がして嫌なんだ」
「うわぁ、家族に筒抜けというのは、たしかに厳しいですね……」
「キミもわかるんだ」
と、ヒューイは嬉しそうに声を弾ませた。
「彼らはぼくの言うことには賛成するし、ぼくが止めてと頼めば止める。まるで先を争うみたいにね、彼らはぼくの嫌がることはなにも言わないし、やらないんだ。でもそれって、ほんとの友人って言えるのかな?」
「そ、そうですわねぇ」
……友人か。
しかし、友人だって、胸を張れる相手が、ふたりしかいない俺には本音で語らうことがない相手でも居てくれて欲しいな。だって前には、物理的にも、精神的にもぼっち期間が永らくだったもの……。
「ごめん、暗い話しになっちゃたよね。もっと他の話をしよっか」
「お構いなく。ワタクシもそのお気持ちは痛烈なぐらいにわかりますから!」
「そ、そう……でも、キミと話すのは楽しいよ」
お、ホントに?
ならば、とある村の話でもしましょうか? そこは偉大なる勇者が暮らす村で、色々とおもしろい物が溢れてますのよ。なんでも、邪竜にもご利益がある銘菓カステラや、邪竜の血を落としたという伝説の泉――等々、あ、近々には勇者資料の編纂も終わりますし、資料館が開館された際には、入場チケットをお譲りいたします。その、気の置けない仲間たちをお連れになられてくださいね。




