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LV64

「まぁそうでしたの! 勇者様にもそのような一面がおありだなんて。イメージとは違うおちゃめなところがおありなのですね」

「ハイ。父様も世間一般に言われるような完璧な人ではないですから」

「それでも、ステキなお父様であることに変わりございませんわ。羨ましいこと。ねぇ、皆さんもそう思いますでしょう?」

「ええ」

「とても羨ましいですわぁ」


 愉快気なテオドアに相槌を打つかのように、彼女の取り巻き共がオホホホッ、と、またぞろ笑い声を唱和した。……なんなんだろう、このデジャヴ。



 授業が終わり、昼休みを迎えた学院。俺たちはテオドアの不吉な誘いを受けて、貴族様専用の食堂へとやってきた。

 食堂という野暮ったい響きとは裏腹に、そこはロビーだけでもウチの寮部屋を凌駕して余りあるほど広々としていて、観葉植物や明るい色の花々が飾られている。清潔なイメージの白地の内装に、格調高い香りがそこはかとなく感じられ、まんべんなく降り注いでる陽ざしもあいまって、その雰囲気は南欧のレストランのようだ。

 こんなところで喰うランチはさぞかし絶品だろう。と思う次第だが、あいにく俺らにはおこぼれには与れない。ここで食事をするのは、貴族様だけっていうお決まりがあるのだ。

 当然、俺ら侍従は昼を先に取るでもなく、涎が垂れそうなほどにお腹ペコペコ。

 なのに、あの性悪女ときたら、ティーカップを片手にペチャクチャ、とおしゃべりに高じやがって……! ちゃっちゃと、解散しろってば。君らが話してると、俺らの番が一向に回ってこないの! つーか、メインディッシュの、肉を残してたの俺は見たかんな!?

 ……ったく、なんていう罰当たりか。ステーキとなって寄与された牛さんの気持ちを考えれば、残すなどありえやしない。

 俺が口中で毒づいてたら「あら、凄いわ!」と、テオドアはシャナンの手と自分の手を重ね合わせた。


「まぁ。シャナン様の手はとても逞しいのですねぇ。ワタクシとは全然に違いますわね」

「……は、はぁ。あまり大きさは変わりませんが」

「いいえ。よく見てくださらない? ね、ワタクシの方が華奢ですし、ごつごつとしておりませんでしょう?」


 …………ヌッ殺してやろうかしらん?


「シャナン様、お茶のお代わりなど如何でしょう?

「いぃっ!? い、いや、その……」


 ニッコリと横槍を入れたら、シャナンが盛大にドモッた。

 いや、なにをビビッてるんでしょう。私は、普通に訊ねただけなのに、あぁ、体調が優れないのですね。なら、帰って休まないといけないわ。と、シャナンの右袖を掴みあげると、向かい側は般若のような顔をしたボギーが掴んだ。

「それでは、失礼?」と、帰りかけると「あら。侍従が主に差配を下すだなんて、感心しませんわね」と、テオドアが絡んできた。


「指図だなどとんでもございません。わたしは主の体調を慮ってのこと……」

「急かすような、ねぇ、シャナン様?

「……い、いぇ、今日はもう」

「そうですか? それでは、また明日」

「さ、参りましょう!」


 ズルズルとシャナンを引っ張り出したら、ボギーが小さく「……テオドア・ルクレール。その名前覚えたわよ」と、世にも恐ろしい呟きを吐いていた。





「いったいなんなのあれ! シャナン様にいっちゃいっちゃデレまくって!? クライス様のことを、あろうことか”お父様”だなんて呼ばわるって、何様のつもりなわけっ!? ……しかも、しかも、シャナン様のお手まで握るだなんて!? いったい、あれのどこがご令嬢なのよはしたないったらないわっ!!!」

「……ソウデスネ」


 うん。俺的には五寸釘と呪い人形を手渡してやりたいところだが、君は少し落ち着け。隣を歩いてる女子が泣きそうな顔して歩みを遅くしてるよ。

 ボギーのかんしゃく玉が破裂したのは、不愉快な給仕を終えた放課後の帰り道のこと。案の定というか、テオドアのやつに相当にキレてるっぽい。

 まぁ、その気持ちはよーくわかる。

 テオドアのやつ昼食時にあんだけ粘着しといて、また明日どころかさっきの帰り道まで付きまとってんだぜぇ? いい加減にしろっつの。

 ……って、べつにシャナンとイチャコラしてようがどーでもいっすけどね。私がほら、横槍を入れたのは、ボギーの気持ちを慮っただけだから。


「しかし、あの昼食の席の娘たち、あれ十人以上はいましたけど、あれの全員がテオドアの傘下なんでしょうか。そんだけ従えてるっていうのは、やっぱ家格が相当に高いってことでしょう?」

「うん。ルクレールって、たしかあの、四侯爵家のひとつでしょう。ふんぞり返ってるのも頷けるわ~」

「四侯爵? なにそれ」

「知らないの……たしか、この王国が建立していらいに続く名家のひとつよ。この国ではとにかく偉~い家の出自で、上の地位を彼らが独占してるとかなんとか? ……そういえば、お家騒動でその名門のひとつが欠けたって話だったんだけど、なんて名だったかな……まっいっか、」


 ふーん。そんな大物だったか。

 新入生にして、そんな十人以上を数える女子を従えるって、そんだけの家格の力関係が強いってことかしらねぇ。


「ふん。退屈な女じゃない。なにかとくれば「ルクレール家では~」って、家の話ばっか。なによ。自分家に庭園を五つも抱えてるのがそんな凄いワケ!?」

「本性隠しててるから、話すことが自分のこと以外になっちゃうんでしょうよ」


 俺が腐すと「本性って、なに。あの巻き舌となんかあったわけ?」と、喰いついてきた……いや、巻き舌って。たしかに髪も舌も盛大に巻いてたけどさ。

 掲示板の前に置いてかれた後、あの集団に絡まれたことをサラッと報告したらボギーは憤慨を露わにした。


「ぶた? 非道いわね。いくらフレイにでも言っていいことと、悪いことがあるのに」

「それはどういう意味なのボギーさん?」

「とにかく! あの巻き舌がシャナン様に近寄ってくるのって、ぜったいになにか裏があるわ。これはあたしの女のカンがそう告げているの!」

「……女のカンねぇ」


 女のカンだなんて非科学的な。

 残念だけど、そんなセンサーはおいどんには備わっておらんごわすな。

 でも、ボギーが訝しむ気持ちはわかるかも。なんたって、向こうは公爵様だし、他の貴族たちなんて、あの集団が近寄るだけで息をひそめて目を合わさぬようにしてるのだ。

 いくら、勇者に憧れてるにしても、貴族内で確立されてるヒエラルキーを崩してまでガツガツ喰いついてくるって、裏があるんじゃね……って、勘繰りたくなるのが人情だ。

 無駄にプライドが高そうだし、たかが子爵にあれだけおべんちゃらを使うタマかな。

 しかし、あの集団がシャナンを四六時中に独占していたから、他の生徒から話しかけもされなかったなぁ……シャナンの栄光の学院デビューが、早々にテオドアの魔手によって砕かれた感がある。


「ブァァ……ンなことより、早くなにか物を喰いたい……!」


 あいつらの食事が終わった後、残されたわずかな時間が実質的な俺たちの昼休みなのに、時間がギリで、なにも喰えなかった……。

 侍従の食堂は、学院内に併設されてんだけど、狭っくるしい上に、俺たちと同じように主の食事を終えてから、慌てて駆けこむのが多いこと……。

 結局、この空きっ腹を抱えて、午後の授業を終えたんだが、もう限界……頭に血糖値が足りていないせいか眩暈が。


「――もう! フレイちゃんと聞いてるの!?」

「えぇ、なにが?」

「だから明日のことよ! あの調子だとまた巻き舌が昼食に誘ってくるわよ? ……なんとかしてシャナン様をお守りしないと!?」


 ……お守りねぇ。

 いや、べつに勝手に昼食でも取ってきてどーぞ――で、すませたいんだが、俺ら侍従の立場だとそうもいかんのよねぇ。

 学院に通う主のお世話をするっていう名目で、学院への入学を許可されてるから、主の食事をサーブするのもお仕事のひとつ。あんな昼食会はこりごりなんだがシャナンが出席する意思があるのなら付き合うしかない。


「あの巻き舌はあの通りに首ったけですからね。シャナン様がお誘いを受けられるのなら、わたしたちに止める手立てはないですし」

「…………」


 ……うっ、凄い不満そうに睨んでくるな。

 ごめん。

 禁句だった?


「シャナン様は大丈夫よ。あんな性悪女の本性にす~ぐ気づいちゃうから」


 ボギーは言い聞かせるように、うんうんと頷いていた。

 そうだなぁ。

 シャナンは直情的だけど、案外に人を見る目はあると思うよ。


「ですよぉ。あ~んなヘンな女がちゃっかりウチの領主の妻になるとか地獄ですよ。ま、頭の良いシャナン様が、そんな変人に引っかかるなんてワケないから大丈夫だって!」

「…………」


 努めて明るく励ましたのに、なぜかボギーはこれまで以上に悲しい顔で見つめてきたが、そのまま黙って歩いていった。え、励ましたつもりなのに、俺がとどめ刺したような顔をされたんだが……気のせい?

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