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LV36

 俺はぼんやりとしたまま家に帰ると自室に引きこもり、頭から布団をかぶりつつ脳天を抱えた。


「はぁ……なにをやってんだか、わたしは」


 ……恥ずかしさに消えてしまいたい。てか、数時間前にさかのぼって、自分をどつき倒してやりたい気分。

 うっかりってレベルじゃないよ。言い訳のきかない大失態だよねこれ。……いや、もうだって、気づいても良いはずじゃないのよ。この世界の人たちが、日々魔物への脅威を感じながら暮らしてるってこと。


「あぁ、なんて馬鹿なことやっちゃったんだろう……」


 ぬがーっ、いま思い返しても、いてもたってもいられねぇ!

 思い出す度に気分はブルーを通り越して、頭を掻きむしりたくなる。

 これは異世界人だからって、なんの言いわけにもならないよ。俺が二重にバカなのは、「村おこし委員のメンバーに頼れ」ってトーマスさんから頂いたアドバイスを真剣に考慮していなかったんだもの。

 きっと、トーマスさんだって、こういう事態を想定して、先に注進してくれたんだよね。

 ……それを、こんなふうにひとりよがりに突っ走って、バカじゃないか。

 いや、真実にバカだよ俺は。


「あ~、もうダメだぁ。お終いだぁ……辞表を書かないと」


 フレイ村おこし委員辞めるってよ。って、だれも引き止めちゃくんないだろうね。

 俺のやったことなんて、奇抜すぐるアイデアを持ち寄って、周囲に混乱を巻き散らかしただけだし。実務に長けたシャナンがいるんだもの。

 時間はかかるかもしらないけど、普通に村は発展してくんじゃないの? 俺はこれ以上、醜態をさらすよりも前に潔く身を引こう。うん、それがいい。そうしよう。


「フレイ。今日はかすてらを焼かないの~? ……って、あらどうしたの? 布団なんかに隠れて」

「あぁ、母さん……いまから辞表を書くので、明日にしましょ」

「構わないけど。辞表ってなにかあったの」

「……領主様やトーマス様にも顔向けできない失態をやらかしちゃったんです。だから、責任を取って辞表を出さないと」

「ふーん」


 ふーん。てなにその感想。マジに冷たくない? 普通は事情を訊いたり励ましたり色々と……いや、なにも言うまい。母さんの胸に飛び込んで、自らの恥じを開陳するぐらいならば、私は栄光ある孤立を選ぶ……ンなことより、早く辞表を書かないと。え~、と書き出しは「一身上の都合により」でいいか。


「ねえ、この本って面白いわね。こんなのウチにあったかしら」

「……それはエリーゼ様の借り物です。っていうか、気が散るから本を読むならあっちで読んでくださいよ!」

「エー?」

「エーじゃなくて! わたしは泣きたい気分なのをこらえて、辞表を書かないといけないんですよ? 普通なら励ますとか、元気づけるとかあってもいいでしょうが!?」

「でも、いい所なんだから」

「いい所もなにも、読み始めたばっかでしょうが! もう、人が落ち込んでるのにぃ! 励ましもしないで、なんて薄情な!」

「だって母さんは事情を知らないから慰めようもないし……」


 母さんは本から顔を上げもせずに、ン~と頬に手を添えて小首をかしげてる。

 ……もういいです。励ましなんて期待しないから、その本を持って部屋から出てって。


「そんな自信のない顔をしないで。なにがあったか母さんは知らないけれど、一度くらいの失敗で人を見限る程、領主様は器の狭いお方じゃないわよ。なにせ勇者様なんだから」

「……そういうご厚意に甘えていては人間がダメになる」

「でも、その領主様のおかげで父さんは助けられてきたんだから」


 ガーーーン!?



 それっていうのはつまりアレですか? 父さんと俺が、同レベル……だと!?

 うわぁああん、そんなの非道すぎるよぉおお!?


「どうしたの、いきなり泣きだして?」

「泣かせたのは母さんですよぉおおお!?」


 ひっぐ、俺はもう無理だぁ! あんなチョロイのと同レベルだなんて、異世界転生主として恥ずかしくて、もうどこにも顔向けできんよぉ!?


「ほら、大丈夫よ。フレイは私と父さんの子供なんだから。そのぐらいのことがあってもきっと立ち直るって信じてるわ」

「父さんの子供だから信用が置けないんですよ!」

「フレイは父さんを軽んじ過ぎ。アレでも昔は情熱的で格好は良かったのよ? それなりに。冴えない見た目だし、泣き言も多いし失敗ばかりだけど、父さんは一回挫折したぐらいじゃ、簡単には諦めたりしないわ」

「…………一回程度の挫折じゃきかない、大失態なんですよ」

「だったら、尚更ガンバって取り返さなきゃ。フレイは皆に期待されているから、厳しい指摘を受けたりするの。それとも、本当にフレイは重荷だと感じているの? あんなに張り切ってやってたことなのに、簡単に諦めきれる?」


 ……未練がないか、って。

 そんなの未練がありまくりに決まってる。

 周りは口煩い連中ばっかだし、やりたいこともまるでできない、そのくせ阿呆なことをしでかしたりもした。

 だけど、村が一歩でも前進するんじゃないか、と感じられるのはめちゃくちゃに楽しかった。


「……だから、恥を忍んででも、やりたい。もう一度チャンスを貰えるんなら!」

「じゃあ、がんばるしかないでしょ?」

「えぇ!」


 本から顔を上げて微笑む母さんに俺は頷いた。

 待ってろよー! こんな終わり方なんかで挫折してらんないんだぜ!

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