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LV28

 年の瀬を迎えたこの世界にて、フレイ・シーフォとして10回目の誕生日を迎えた。

 それはおめでたい行事だけど、遅生まれの子の悲哀というべきか、師走の忙しさに追われた家族から、いままでキチンと祝われたこともない黒歴史。振り返るたびに涙なしには語れない。

 ”嬉しい思い出”として刻まれた誕生日会だって、晩餐に出たのは堅い黒パンと干し肉のひと切れ。楽しいプレゼントも、ボロキレみたいなお人形さん。俺からすれば冴えないプレゼントだってのに、これを貰えて「ありがとう~」って、はしゃいでまでいるって。……うぅっ、己の不憫さに号泣必須だ!


 そんなわけで、俺は誕生日を祝ってもらうなんて高望みは抱かず、除夜の鐘も鳴る前から、セルフで煩悩を払いのけていた。そしてソリで遊びまわった後、家に帰り着いたら、


「おめでとう!」


 母さんや父さん、ついでにトーマスさんまで拍手して、出迎えられた。

 え、なにこれ?


「な、なんの騒ぎです?」

「鈍いなぁ。もしかして君の誕生日を忘れちゃってる?」

「いえ、忘れちゃいませんでしたけど、……こんなお祝いをしてもらえるだなんて」

「ごめんね。いつも祝ってあげられなくて。でも、今年は色々と新しいことがあったでしょ。だから、今日は年始のお祝いをかねて、フレイの誕生日を祝おうって前から父さんとも相談してたのよ」


 そうだったんだ。……ごめんよ父さん。貴方の甲斐性なんて皆無だと思ってた。


「ンでも、せっかくの家族の団らんの場に俺なんかが入っちゃっていいのかな?」

「遠慮なさらずに。皆で騒いだ方が楽しいですから」

「あぁ、そうだ忘れずに、フレイちゃんに、ハイこれ。プレゼント」

「マジですか? あ、ありがとう、ございます」

「ははっ、赤くなっちゃってかわいいね」


 べつに赤くなどなってはおらん! そこに並ぶロウソクの灯りのせいですよ。

 トーマスさんのいらぬ茶々に、憤然と席につきつつプレゼントを開ける。これはマフラーですか? この肌触りといい、ホワイトカラーといい、もしや一角兎!?

 エェエエ! なんて豪勢な。このマフラーだけで銀貨二枚はすんじゃね? ……しかも、晩餐にも一角兎のソテーとは、兎尽くしですな。


「その献立の狩りに入ったのは俺だからね。君には色々と厄介を押し付けちまってるから、少しでもの埋め合わせってことで」

「……なるほど」

「これからもよろしく頼むよ~」


 と、毒っけに満ちた笑顔をされた。せっかくのソテーの味がわからんぐらいに不安なんですが。しかもその後、もっといいプレゼントが貰えるかもよ? って、不吉な予言までして……また厄介事じゃないですよね。

 果実酒で乾杯した後、着飾った母さんに色ボケした父さんがつたない踊りに誘って足をくじいたりと、色々と騒動があったが、楽しい年始になった。





 新年が明けて訓練場通いも始まった。小雪がちらつくなか、団員たちは晴々しい笑顔で挨拶をかわしあっている。間違っても「あけおめ、ことよろ~」だなんて台詞が聞こえてこないんで、俺的には正月気分にいまいち浸れない。

 取りあえず挨拶の輪に加わると、そこにシャナンもやってきた。

 あいつは、俺のことを認めると、近寄ってくるなりいきなり「これをやる」と、その手に抱えていた小袋を差し出された。

 ……やるって。なによこれ? てか、なんで俺から顔を逸らし気味にしてんだ。

 ま、いいや、貰える物は貰う主義なんで、ありがたくいただきますが……開けていいですよね。

 ン? これって手袋か。うわっ、しかもツヤッぽい色をした黒革の! これ高いよね。こんなん頂いちゃって――……あ、これってもしや


「い、いいいりませんってば!?」

「はぁ?」


 あ、危ないところだったぜぇ、こいつまだ諦めてなかったのかよ!

 もう、しつっこくない?

 冷汗を拭う俺様に、シャナンはきょとんとした顔をしてっけど、だれが騙されるか!

 こいつの企みはその手袋をプレゼントするフリして、それを俺にぶつける気だ。そして、また決闘をしようってんでしょ!


「いや、なにを言ってるんだオマエ?」

「いいえ、騙されませんよ! わたしはぜったい、ずぅぇったいに決闘だなんてしませんからね!」


 君の企みなんぞ、私にはすべてまるっとお見通しよ!

 どーせ年始初めの景気づけに俺のこと血祭りにあげてとか、企んでるんでしょ!?


「違うっての……これは、その誕生日プレゼントだ!」


 は?


「いや、なぜシャナン様が、そのわたし如きの誕生日に?」

「勘違いするなよ! ……べつに、トーマスさんに言われただけだ」


 あぁ~、トーマスさんのもっといいプレゼントってこれのことか。まったく、普通に教えてくれれば、こんなややこしい話しに……したのは俺か。


「安心しろよ。僕はもうオマエと戦う理由はないから……こう、なんて言えばいいかわからないけど、僕がちゃんと見据える物が見つかったから――っていうか、なんで人の顔をジロジロ見るんだ!」


 いやさ。なんか素直すぎて拍子抜けしてるっていうか、シャナンの顔もなんか赤いし熱でもあんのかって心配してんだけども。

 ポリポリと、頭をかきつつ「すみません」と受け取り、早速手にはめる。むむっ、こりゃ暖かいなぁ。ちょっとサイズは大き目だけど、これなら歳を取って身体が大きくなっても使えるね。



 ぐにぐに、と手袋の感触を楽しんでたら「もうそろそろいいかな?」と、クライスさんからお呼びがかかった……なんか団員どもと肩を組んでニヤニヤしてるのが、ちんぴらっぽいぞ。


「なんでしょうか」

「用事があってな。実は朝食の――いや、エリーゼの授業の後でよいから、ふたりとも執務室に来てくれ。オマエにやってもらう村おこしの件で、話したいことがあってな」

「え」

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