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LV24

「へぇ、フレイちゃんはあの歳でそんなにも本を読んでるんですか?」

「そうなんですよ。昔は本なんて一切興味も示さなかったのに、急に家の本は飽きたから、新しいのない? とか言い出したりして」

「ふ~ん?」


 ……いや、だから話の合間合間に、チラッて疑惑の視線を向けたりしないで。

 恐怖に指が震えて危ないでしょ。

 俺はトーマスさんの、追及から逃れるように、冷めきったハーブ茶はズルズル啜ったが、もはや香りも失せて渋みしか感じねぇ。

 参ったなぁ。こりゃガチで母さんに俺の身辺調査に取り掛かってきてるよね。俺のいったい何が怪しいっていうの? こんな普通のかわいいかわいい美少女なのに。


 理不尽な追及に怒りを溜めつつ、カップにお茶を注ぐ。ついでに冷め切ったカップを手で包んでたボギーにも「おかわりは?」と、訊いたが、結構です」と、無下に断られた。……こっちも、取り付く島もないですねぇ。

 はぁ、友達が欲しいよぉ。せっかく歳が近い子が近くにいるってのに、何故にこうも邪険にされるのか。真剣にわからない。

 あぁ、もう冬だし、サンタに友達が欲しいって頼もうかしらん。いや、いっそサンタが友達になって欲しい。それも美少女サンタに。俺彼女と仲良くなって、一生をトナカイと遊んで暮らすんだ……。


「フレイちゃん?」

「え、あ――な、なんです!?」

「ちょっと泊まる前にお部屋を見てみたいんだけど。案内をお願いしていい?」

「えー」

「えー、ってなにさ? しばらく泊まる部屋なんだし確認ぐらいさしてもらってもバチは当たらないじゃない」


 ……ヤだよ。だって猛烈に嫌な予感がするもの。


「フ・レ・イ」


 わっ、母さんが激おこに……ちっ、仕方ねぇ、ついて来な。と、慌てて席を立つ。

 ……くっ、ニンマリ笑いやがって。あぁ、もうぜったいあの笑顔には裏があるよ。だって、二階へと続こうとするボギーを「そんな大勢で行くようなものじゃないから」と、わざわざ押し止めてるし。どういうつもりだ?



 胸騒ぎに苛まれつつも、俺は部屋に案内。じゃあごゆっくりどうぞ~、と離脱を図ったが「ちょっと待って。話があるんだ」

 ……ですよねぇ~。と、諦念な思いで振り返ると、窓枠に腰掛け爽やかに笑うトーマスさんは「そんなに警戒しなくったっていいじゃない」と微笑んだ。だから、その笑顔が怪しいんだっつの!


「あの、まだ後片付けがすんでないんので、話を手短に……」

「そりゃわかってるけど。手短には無理かな~。話の内容が内容だしね。フレイちゃんって、シャナン坊となんか面白い勝負してるらしいじゃん?」


 俺が半眼を向けると、シャナンはくるりと望外に目を投げた。

 口の軽いヤツ!


「勝負だなんてそんな剣呑な。ただ、売り言葉に買い言葉で出てきた話でして」

「うん、その辺も聞いてるよ。コイツ家を継ぎたくないんだろ?」

「……それは」


 俺の口から申し上げにくいんですが……。


「イヤイヤ、フレイちゃんが小さくなる必要ないっしょ? 坊の正直な気持ちなんだし」

「それはそうですが」


 チラッと当事者を振り返れば、邪険そうに顔を逸らされた。いや、自分の進路のことを他人に口出しされれば、鬱陶しいと思うのは普通でしょうけどね。


 というか、それがいったいなんなの?

 俺たちの喧嘩が殊更に気にするなっていうなら、わざわざトーマスさんが口を挟むこともないし、ましてや俺には一層無関係だもんね。と、率直に疑問をぶつけてみたら「ン~、どっから説明したもんかねぇ」と、トーマスさん頭をがりがりやった。


「――まぁ、最初っから筋道を立てて話した方が理解は早いかな。俺さぁ、シャナンから相談を受けてたんだよね。冒険者になるにはどうすればいいの? とかまあ色々。こいつの年頃なら、そういう話にかぶれるのはわかるけど。なんか、妙に真剣な素振りだったから気になってさ。こいつはそう軽い立場の子供じゃないからね」

「……はぁ」


 そりゃシャナンは貴族の子弟なんだしね。

 冒険者として生きるつってもクライスさんにもしものことがあったら、魔王退治に出かけてようが、なにしようが即効で連れ戻されるでしょ。


「ことはこいつ一人の責任でも、クライスたちや領民だけに限らないからな。ンってか、クライスのやつも坊の気持ちは、薄々感づいてると思うけどな」

「父様が?」


 ハッと顔を上げたシャナンは黒縁の瞳を大きく見開いた。


「俺がここに休暇に来たのはホントだけど、クライスから貴族社会についてのアレコレをレクチャーして欲しい。なんて頼まれてたからさ。あの堅物がそんな話しを今更って、謎だったけど、坊の気持ちを聞いたら、ああ、このことを気にしてたのか。なんて思ったんだよ。

 あいついままで貴族としての付き合いだなんだって、放ったらかしてきたからさ。他の貴族たちと友誼を結んでおけば、跡目については最悪、養子を取って継がせればオマエは自由に生きられるだろ?」


 小首をかしげてそう告げると、シャナンはなにかを堪えるように俯いてしまった。

 ……シャナンのためにそんなことまでしようとしてたんか。

 人のためにって、息子のためにってか。どこまでも勇者なんだね。


「領地なんて王国に返上すりゃいいワケだから、クライスも自分の地位のことなんざ気にしちゃいないっぽいけどね。ンでも、坊の身の振り方ってのは問題でしょ。こいつが本気で冒険者をやろうって思ってんなら、先輩として反対はしない。けど、コイツに話しを聞いてるウチにフレイちゃんとかの話とかも聞きだしたら、どうもそうは思えなくってね。

 ――所でさ、フレイちゃんはこの村ってどう思う?」

「は?」


 え、なに?

 さっきまでの重っ苦しい雰囲気から一転して、急に明るい調子になって。いや、ってか気の良いお兄さん的な笑顔が、急ににや~っと悪い笑顔になっておられるんですが……それは?


「ほら、教えてよ。お兄さんにこのクォーター村の印象ってやつ」

「……はぁ。まあ、なんというかとくに特筆すべきとこもない不便な田舎ですよね」

「だよねぇ」


 トーマスさんはしみじみとばかりに頷いた。


「俺もなんども足を運んだからわかるけど、この村ってほんとに変わらないよね。貧しくても牧歌的で。知っているかい、この土地を指して言われてることって。化外の地ってんだよ? 意味はもちろん野蛮な未開地っていう意味で……って、わ、そんな睨まないでよ~!」

「べつに睨んでませんが?」

「そう? なんか俺が村の悪口言い出した辺りから、揃って顔がムスッーとしたんだけど。気のせいかな?」


 くるっと振り返れば、確かにシャナンは不機嫌そうである。が、俺の顔にまで同じ表情が張り付いてるなど、あるワケがない。トーマスさんが仰る通り、ここは不便でド田舎~なのは事実だからな。


「いや、でも俺はホントこの村のことは好きなんだよ? ただクライスの後ろにこびりついてた俺のことなんかも、ソンケーしてくれて。俺としてはこの雰囲気がいつまでも変わらなきゃいいな、って思うけど、ね。

 けど、変わらないものなんて世の中にはないでしょ。自然であるが以上、変わり続けなければ淘汰されて消えゆくだけ。変化が世の中につきものだっていうのなら、せめてそれがイイ方向に変わって欲しいと思う」

「……そう、ですね。わたしもそう思いますが。トーマス様は、いったいわたしになにをさせようって言うんですか?」

「ン?」


 なんのことかな。って、とぼけた顔したって無駄ですよ。

 うだうだと遠回りな話しをしますけど、俺になにかやらせよう、って魂胆でしょう? 回りくどいっすから、ひと思いにバサーッと斬ってくださいよ。


「あ、まどろっこしすぎた? じゃ、そうだね。俺がやって欲しいことを端的に言うと、”村おこし”ってヤツだね」




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